18 見つかってはいけない(1)
手伝いを始めてから3日。
何でも時間があれば慣れるもので、剣様のそばに堂々と居られる自分を、むしろ誇りに思うようになっていた。
つい、この瞬間までは。
「朝川、これを提出してきて欲しいの」
「え」
剣様から手渡されたのは、使用許可証という名の提出物だ。
「いつもはアピールがてら提出物は自分で出しに行くのだけれど。今日はこれから生徒会の会議があるのよ」
そう。
現在も生徒会の仕事はもちろん存在する。
5月の会長選が終わるまではあまり活動する事もないけれど、今ならそのすぐ後の英語スピーチコンテストについての事だろう。
これはまずい。
だってこの部屋から出るということは、この部屋にいたという事を誰かが知ってしまうかもしれないわけで。
誰かに見られたが最後、ファンクラブに見つかってしまう可能性があるという事なのだ。
けれど、
「はい」
と言うしかないのが、この朝川奈子の立場なのである。
社長室のような扉を抜けると、そこはもう気が抜けない外の世界だ。
特に、ファンクラブのメンバーに見つかるわけにはいかなかった。
ファンクラブは、部活のような学園所属の組織ではない。
部活を兼任している者もいれば、周りには言わずにこっそりと活動しているメンバーもいる。
つまり、何処に潜んでいるのかわからないのが剣様ファンクラブというわけだ。
まず、だれにも見つからずにこの校舎から出るのがひとつ。
そのあとは、提出の時に見られなければ問題はないだろう。
廊下は外から見える事がないように、窓枠よりもしゃがんで歩く。かといってノロノロ歩くわけにもいかないので、窓枠ギリギリのところを素早く、だ。
忍者の如く。忍者の如く……!
幸いな事に、放課後この校舎を使っているのは、1階の理科室を使っている化学部、そしてガーデンの管理をしている園芸部のみ。
理科室前を回避するルートで行けば、下のホールを歩く必要もないし、園芸部からも遠いはずだ。
奈子は予め調べておいたルートを歩く。
すると、ふと2階の廊下の突き当りで、複数の人の声がする事に気がついた。
何……?
あそこは……、会議室。ううん。その奥の和室に用があるのか。
女の子達がキャッキャする声が聞こえる。
茶道部かな。
いつもなら、こっちの和室は使わないのに。ついていない。
まあ、あれだけはしゃいでいれば、こちらに気づかない可能性は高い。
すんなり通り過ぎようと普通に歩き出した、その時だった。
「あれ?奈子先輩?」
知り合いの可愛らしい声が、耳に入った。
ファンクラブ35番、石橋早苗。中等部の2年生だ。
「早苗ちゃん」
にっこりと、疑問を抱かせないよう、笑顔を作る。
けれどこの校舎にいる限り、気にするなという方が無理な話だ。
「剣様の出待ちは駄目ですよ〜」
冗談めかして言っているが、言葉は本心。目は笑っていない。
いつもなら剣様の素晴らしさを語るいい相手ではあるのだけれど、敵にまわしたくない相手でもあった。
◇◇◇◇◇
かわいい後輩その1ですね!
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