拒絶



「というわけで、俺達はなんやかんや爛れた日々を送ってます……」

「羨ましいですね。私も混ぜてください」

「ダメですが?」

「ダメだそうなので残念ですが……」

「こんなぴょんぴょんな惚気話聞かされてそれきりとか酷いですナミミ様!!」


 ツーシさんの参加表明をあっさり却下するナミミ様。


「なんで敵のイロニムが良くて私達はダメなんですか!?」

「そうよ! 敵国でひどい目にあってると思って心配してたのに、ひとりだけコガネとぴょんぴょんまみれの生活とかズルいわ……! こっちは命懸けでここまでやってきたのに! 検証っていうなら私でもいいはずでしょ!?」

「だってイロニムは私の片割れなので、コガネさんを共有しても嫉妬しません。ですが2人は違うので。多分嫉妬します」


 イロニムの中にはナミミ様のバニー成分が含まれるので自分判定らしい。

 そのあたりはここ1週間で体感しているので俺もその認識になっている。


「……では本当に嫉妬するかどうか、一度試してみるというのは? NTRというやつですよ」

「む。……確かにそれは検証する価値があるかも」

「というか! お二人はどうしてここに?」


 あらぬ方向に話が飛んでいきそうだったので、話に割り込んで止めておく。

 というかNTRはそのままの意味で通じるのかよ。たまにそういうのあるな?


「そういえばその話も聞いておきたいですね。その格好から察するに、なんらかの処分でツーシもバニーを剥がれて、サナチも平民になったとかですか?」

「あ。いえ。この格好は潜入の為にバニーを脱いだだけです。サナチはあのバニーたちに紛れるためにお忍び用の平民バニーに着替えてもらいました」


 貴族バニー服だと注目を浴びてバレるし、ツーシさんのバニーは平民だけど戦場で戦っていて見覚えのある顔も居たので避けたらしい。


「私たちはナミミ様の救出のためにここに来たんですよ」

「きゅう、しゅつ?……ああ、救出、ですか」


 今一瞬『救出』が理解できなかったな、ナミミ様。


「それはご苦労様でした。ですが、不要なので帰っていいですよ。もう私はヒバニンのナミです。バニーではない私は辺境伯領を継ぐこともできないでしょう」

「あ。それなんですが、ハサミ様曰く血統スキルでバニーに戻れるらしいですよ」


 ……なん、だと?


「え。バニーに、戻、れる?」

「はい。ムーンフォールの血統スキルはそもそも魔王の血統スキルに対抗できるとかなんとか……それ以上詳しいところは聞いてないのでハサミ様から聞いてください」

「バニーに……戻……る?」


 バニーガール。特権階級に、ナミミ様に戻れる。

 そう聞いて、ナミミ様は――


「嫌ですッ!!!! 絶対に、絶対に嫌ッ!!!!!」


 ――激しく拒否した。


「な、ナミミ様!?」

「私はっ! ここでヒバニンとしてコガネさんと一生一緒にニンジン屋をして暮らすんです! 辺境伯の跡継ぎは新しく妹をこしらえてください!! 私はここでコガネさんとロニーと3人で幸せに暮らしてると母様にお伝えください!!」


 頭を振って『ナミミ』を拒絶するナミミ様。


「ナミミ、あなた――」

「嫌です、嫌です、ナミミになんて戻りたくないっ! ナミなんです、私はヒバニンのナミで、コガネさんの恋人ですっ! 幸せなんです! 自由なんです! ねぇ、コガネさんもナミの方が好きでしょう? いっぱいぴょんぴょんしましたもん! あんなことや、こんなこと、いっぱい、いっぱいしました! これからもするんです!」


 そう言って、ナミミ様は俺を縋るような目で見つめる。

 このヒバニンとしての生活で、いつしかナミミ様の中では『ナミミ』が不幸の象徴のようになっていたのかもしれない。


 次の瞬間、パチン!! と音がした。


「ッ……!」

「っせーわね!! それでもアンタはッ! ナミミでしょうがッ!!」


 サナチ様が、ナミミ様の頬を叩いてそう叫んだ。




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