満月の日・深夜


 夜が更けて。

 サナチ様と雑談していたのだが、徐々に口数が少なくなってくる。


「……はぁっ……ふ、ぅ……!」

「大丈夫ですか、サナチ様? なんか苦しそうですが」

「え、いやっ、ええ。大丈夫よ……ちょっと溢れそうなだけで……」


 と、懲罰房の中、サナチ様はもどかしそうにお腹をさすっている。

 なわとび拘束により手首は首と繋がれており、へそまでしか動かせない。もっと下へと動かそうとしては何度もぴんっぴんっと紐の限界にせき止められ、首を引っ張っている。

 しっとりと汗ばんだ肌でもぞもぞしている様は、明らかに無理をしているようだった。


 おしっこをガマンしているのではない。今のサナチ様は満月のバニーガール状態――魔力が溢れそうなのだ。

 というか実際に溢れているのだろう、懲罰房備え付けの明かりの魔道具が良く光っている。元々目隠ししてるのになんで部屋の明かりついてるの? とは少し思っていたけど、サナチ様から漏れていた魔力に反応してのことだったのかもしれない。


「そろそろ切り上げたほうが良いですか?」

「う……話をしてないと頭がおかしくなりそう……でも、話をするとガマンが効かなくなるぅ……」


 まさに目の前にニンジンをぶら下げられたウサギ。

 このまま続けたらどうなってしまうのか大変興味深いところだが、太ももをギュッと締めてスリスリモジモジしているサナチ様を見るに、そろそろ尊厳的にヤバそうなので切り上げて差し上げよう。


「じゃあ俺は部屋に戻って鍵かけておくんで、落ち着いてしっかり休んでください」

「うん……え? あれ? 部屋から話しかけてたんじゃないの!? ちょ、コガネ!? 今パタンってドアの小窓閉じる音したわよ!? こ、コガネぇ!?」


 そういや手首縛られたままでトイレどうすんだろ。一応部屋の中に便器あったけど、まさか着たまま? そのためのスク水ノータイツって説もあるな……?

 いやいや、大きい方をしたくなったらどうすんだ? まさかバニーガールはトイレしないとかいうわけでもあるまいに。



 ちょっとした謎を見つけてしまって考えを巡らせつつも、俺は牢(部屋)の鍵をかけてお布団に入る。明かりの魔道具、ランタンを枕元に置いたら消してっと。おやすみー。



「コガネ、コガネ」

「……ん?……んん!?」


 しかし寝た途端にゆさゆさと布団を揺すられ、俺は慌ててランタンを点ける。

 するとそこには――褐色肌の白い網タイツのふとももが。ダークエルフの濃紫バニー、イロニムが居た。


「……!? な、な、どうしてここに!?」

「しぃっ! 声が大きい。隣に聞こえちゃうよ?」

「いやいやいや」


 イロニム。魔王の娘で四天王。ムーンフォールとは敵対関係にある存在だ。

 それが、鍵も閉めていたはずの地下牢に。どうして、どうやってこんなところに居るのか。


「イロニム、お前魔王軍四天王なんだろ? こんなとこいたらマズいだろ」

「あ。ナミミのやつから聞いた? そうそう。私魔王軍。だからコッソリ遊びに来ちゃった」

「遊びに来ちゃった、で来れる場所じゃないし、来ていい場所でもないよ??」

「まぁまぁ。ちなみに方法は町に忍び込んだのと同じ方法。転移魔法だよ。これナイショね?」

「いや言うわ。俺ナミミ様の忠実なペットやぞ」

「あはっ、この状況でそれ言えるんだ? やっぱコガネは面白いね!」


 そう言って歯を見せて笑うイロニム。その瞳は熱を帯びており、獲物を狙う狩人のようでもあった。

 あ。獲物って俺? ちょっ――もしかしてぴょんぴょんですかァアアーーー!?


―――――――――――――――――――――――――――――――――

( 8/27(火)発売のComicREXにて

 『あとはご自由にどうぞ!~チュートリアルで神様がラスボス倒しちゃったので、私は好き放題生きていく~』(絵:かんむり先生)

 が連載開始! 紙の雑誌に載ってるのですわーーーー!!!)


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