ぴょんぴょんって何だ……!?



 銀髪の褐色エルフ。そしてローブがめくれた一瞬に見えたのは褐色の脚を彩る白い網タイツと、ご立派なお胸をしっかり包み込む濃紫のエナメルバニースーツであった。

 ……網タイツとエナメルの組み合わせ、つまり貴族だ。なぜ貴族がこんなとこで露店を? ナミミ様のお友達だとしたらウチの客なんだろうか。


「……見た?」

「な、何を? いやぁ、何のことか分からないなぁ」


 ローブを着ているくらいなんだから身分を隠したいのだろう。俺はすっとぼけておいた。


「バニーガールの耳を舐めないほうが良いよ。心音が早くなってるでしょ」

「……褐色エルフって初めて見て。それも美人だったからドキドキしてるだけです」

「び、美人!? そ、そうかぁ、美人かぁ。じゃ、じゃーしょうがないよねぇ」


 ローブのまま照れて立ち上がったりモジモジしたりする褐色エルフバニー。かわよ。


「よかったらウチにこない? もっといろんな薬とか作ってるんだよ」

「あ、すみません。知らない人についてっちゃダメって言われてるので」

「あ、うん。確かにこんなローブ着てたら怪しいよね……そうだ。媚薬とかもあるんだけど興味ない?」

「ンェッフ! エフッ! いや! そんなそんな!」


 いきなり媚薬とかいうから超むせたわ!


「あはっ、動揺しちゃってかーわいー! 大丈夫、ちょっと滋養強壮と体力回復に良いだけで、副作用とかは一切ないから。ポーションのおまけに今持ってる分をちょっと分けてあげる」

「え、いや、そのっ」

「ご主人様のバニーガールとする時に飲んでおくと少し楽になるよ。ヒバニンならそういう仕事させられるでしょ? バニーガールは、その、ぴょんぴょんでしょ?」


 なんだよ「ぴょんぴょん」って。エッチな言葉か!?


「う、うちのご主人様は健全だから……!」

「またまたぁ。バニーガールなら満月の夜なんて絶対トントンからぴょんぴょんするでしょ? まさかコシコシだけとかないでしょ。お兄さんみたいな立派なヒバニンお小遣い渡す程可愛がっといてさぁ、子供ガキンチョじゃあるまいし」


 だからなんだよその「トントン」と「コシコシ」って!? 絶対エッチな言葉だな!?


「あ。……もしかして、ホントにまだ子供とか?」

「うちのお嬢様、ちゃんと成人はしてるらしいけど……その、そういえばまだお仕えしてからは一度も満月になってないなぁ」

「あらそうなの?……満月、それも赤い満月の夜は覚悟しとくといいよ。きっとこの薬が役に立つはずだから!」


 そう言ってニヤニヤと丸薬が3粒入った小瓶を渡してくる褐色エルフバニー。


「3本買ったから3粒ね。1回1粒、効果は一晩よ。用法容量はしっかり守ってね」

「う、うっす」

「あ、なんならこれから1粒使って私とぴょんぴょんしちゃう?」

「ええ!?」


 い、いいんですか!? おおおおう、ポーション買った甲斐があったってなもんよ!?


「アハッ、冗談よ冗談。勝手に遊んだらお兄さんのお嬢様に怒られちゃうもんね」

「くっ、男の純情を弄びやがって……っ!」


 でも許す! だってバニーさんだから!!


「あら、先に私なんかを美人とか言ってからかってきたのはそっちでしょ?」

「それは普通に美人だと思ったんだが?」

「え? 本気で?……じゃあ、ちょっとだけだよ?」


 そう言って褐色バニーさんは距離を詰め、俺の手を握ってローブの中に突っ込んだ。

 ……こ、これは……エナメルのつやつやしたお腹の感触……! ツルツルのエナメル越しにお腹の温かくて柔らかい感触が伝わってくるぅ……!?

 あ、すごい。腹式呼吸でお腹動いてるのすごい分かる。わわわ……


「んふふ……ホントに美人と思ってくれてるんだ? 嬉しいな……」


 至近距離で、整った顔の褐色エルフバニーさんが笑う。とろけた表情の赤い瞳。破壊力すごいよぉ……!

 と、ここでぱっと手を離された。


「はいっおしまいっ! あー、もう、すっごいサービスしちゃったよ。初対面の名前も知らないヒバニンにコシコシさせちゃうなんて……ふふっ」

「……あっ……ありがとうございましたぁ……ッ!」


 なるほど、これがコシコシ……えっちな奴だ!! 覚えた!!


「今更だけど俺はコガネって名前だ。よろしく」

「私はイロニム……まぁ、その、ただのイロニムだよ。よろしくコガネ」


 うん、明らかに貴族の網タイツにエナメルスーツ。でも、身分について聞くのは野暮ってなもんだろう。


「もしコガネが捨てられたら私が面倒みてあげるよ。約束だよ?」

「ああ、そん時はよろしく? ま、ナミミ様に限ってそんなことはないだろうけど」

「ナミミ……ああ、領主の娘か。いいとこに拾ってもらったんだね」


 おうよ、お嬢様のペットとか人生勝ち組だぜ。

 あっそうだ。袋から出すように見せかけてこっそり『ニンジン召喚』っと。


「折角だ。出会いの記念にイロニムにこれをあげよう。よかったら食べてくれ」

「ん? しょぼくれた細いニンジンだね……うまっ!? え、なにこれうまっ!?」


 金時ニンジンをカリカリカリと勢いよく食べていくイロニム。

 もちろん小さな金時ニンジンだ、あっというまに無くなった。


「あれ!? もうなくなっちゃった……うう、これでお酒飲みたかったぁ……!」

「イロニム。もう一本やるから元気出せよ。な?」

「いいのコガネ!? 君ってやつは最高だ! やっぱりうちの子にならない? コガネでぴょんぴょんしたくなってきちゃった」

「今のご主人様が気に入ってるのでそういうスカウトはちょっと」


 イロニムも無事気に入ってくれた模様。

 フフフ、これはバニーガール全般にウケるに違いないぜ。最悪ニンジン屋で生きていけるな。


 ……ぴょんぴょんが気にならなかったわけではないですけどね!!



―――――――――――――――――――――


(ぴょんぴょんってなんだ……!?)

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