勇者コガネについて 【ナミミ視点】
・ナミミ視点・
「異世界人。勇者として召喚されたコガネ……そのスキルが無能なハズはありません」
絶対に何かが『ある』。あるいは、制限が『ない』だろうとナミミは予測した。
故に、ナミミはコガネが生活に少し慣れてきた頃合いを見計らって一計を案じた。
コガネが休憩時間に普段、畑仕事をしながら母の帰りを待つ父、バルオウを呼び出す。
バルオウはこの砦にいる数少ない男性の一人だ。そしてバニーガールを手玉にとることができる程度に
バニーガールでこそないものの、女王の弟は伊達ではない。
「お父様。今この時より、この砦ではダイコンのことをドデカ白ニンジンと呼称してください」
「は? ドデカ白ニンジン? 確かにダイコンとニンジンは形が似てるけれど……彼の関係か?」
「はい。コガネの能力、『ニンジン召喚』を試すためです。私の命令として、コガネには決してバレないように周知してください」
「そういうことか。分かった」
ダイコンはニンジンとは違う植物だ。しかし、形は似ている。
なので、本人の認識上でニンジンであるならば召喚できることは十分に考えられる。
うまく行けば儲け物だし、失敗すれば能力の方向性が見えてくる。
「名前の由来を聞かれたら……輸送路がやられてニンジン不足の時にニンジンの代用品として食べていた過去があるから、としておこう」
「それであればこの砦だけでそう呼ばれる理由も付きますね。さすがお父様です、口が上手い」
もしこの実験が上手く行くのであれば、次は形の似ていない野菜をナントカニンジンと言って召喚させてみるのも面白い。
カボチャなんてどうだろう。オレンジ色の品種ならニンジンカボチャといえなくもない。他の野菜も、この砦限定では全てニンジンの呼称を付けて良い。
一地方、それも一砦だけの
「ところで。コガネ君の『ニンジン召喚』で出せるのは食べ物だけなのかい?」
「? それはどういう……ああ、ええ。そう、そうですね。流石お父様、目の付け所が大変よろしいです」
つまりバルオウは『ニンジンと名の付く道具は対象になるか』と言ったのだ。
盲点だった。食べ物以外を『ニンジン』として召喚できるかだなんて。
「それに、召喚というが……これもどこからか持ってきているのか。それとも魔力で作り出しているのか。確認しておきたいね。どちらだとしても使い道は山ほどある」
「お父様ご慧眼です。それも試さねば。ランダムで窃盗しているのであればそれはそれで問題ですし。生産系か、転移系か……」
準備として兵士の槍に申し訳程度のニンジン模様を入れさせたものも用意させておく。
現状、世界に1本しかないオリジナルの槍だ。これが召喚できて増やせるなら、コガネは無から資源を生み出せる生きた鉱山とさえ言えるだろう。
ドデカ白ニンジンの実験が上手く行ってから用意するのもいいが、『そういうものと認識させる』なら、上手く行った流れでついでにコレも、とやらせてしまうのが一番だ。
元は一兵士の一般的な槍だし、それにニンジンモチーフの槍は可愛いので、失敗しても個人的に使える一品だ。
上手く行かなかったら、その時はその時。
もしバレても素直にスキルの実験していたと伝えれば、コガネなら笑って許してくれるだろう。
「もし生産系なら希少金属のニンジン像でも量産してもらおうか」
「それは……色々な市場が崩壊しかねませんね」
「なぁに、姉上なら上手い事調整してくれるさ。有能な宰相もついてるしね」
「その宰相、コガネを処刑しようとしてましたが」
「国家の混乱を招くと一目で見抜いたのかもしれないよ? なにせ上振れが分からない。下手をすれば国家転覆だ。……伊達に宰相じゃあないよ、あのバニーガールは」
そう言われて、ナミミはあの場面を思い出す。
部屋に入った時、コガネは宰相に蹴られていたらしく、起き上がれないようだった。
「逆に、ナミミが引き取るのも想定内かな。命を救われたコガネ君がナミミに懐くようにね。で、ナミミがコガネ君の手綱を握っていれば、こうして僕が相談役にもなる。本当に不味い事にはならないだろう」
「……そこまで考えて……?」
「更にはナミミが勝手にスキルの検証をしてくれるときたもんだ。宰相は王にちょっと叱られる程度でこの状況に持っていったんだよ。な、やり手だろ?」
まだ
「ま、結局のところ宰相としてはどっちでも良かったんだろう。処刑なり辺境で事故死なりでコガネ君がいなくなれば不確定要素が消えるし、ナミミが引き取って首輪をつけても国には悪いようにならない。最悪、コガネ君に国の命運を握られようとも、自分ひとりの耳を差し出すだけで済む。うん、あの宰相らしいやり方だよ」
「……え!? 自分の耳って、そこまで、ですか!?」
バニーガールの『耳を差し出す』とは『責任を取って死ぬ』という意味だ。
(※処刑の際に首を出す動作が耳を差し出すように見えることから生まれた言葉)
「おや。宰相は暗部『黒尻尾』の元締めだよ? 国に殉じる覚悟くらい当然あるさ」
きっと王に恨みが行かないよう道化を演じてたんじゃないか? と、その場を見ていたかのように話すバルオウに、ナミミは自分はまだまだ子供なんだなと実感せざるを得なかった。
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(※宰相の思惑についてはバルオウ個人の見解です)
(サポーター限定近況ノートに、一部設定を吐き出しておきました。
※暫定設定のためそっと差し変わる可能性はあります)
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