第7話 忘れ物
その日オレは城の地下牢へ続く階段の上にいた。
地下牢、それは罪人たちの叫び声が日夜こだまするこの城の、いやこの国の不浄が集まる場所。
「もう嫌だーー眠らせてくれぇーー!」
…………なんて叫び声だ。
恐らくなんらかの拷問が行われてるのだろう。
「姫様、ホントに行くんですか……?」おびえた様子でシャーリーがオレの服を掴む。
「まぁ忘れ物があるからな。」
ことの始まりは今朝のことだ。
先に言うが大した話じゃない。
――――――――
「姫様、朝ですよ。」
メイド長の声で毎朝起こされる……。
「わかってる……爺さんは呼ぶな、今起きるから……」
「シャーリー、お着替えを。」
どすんっ。
ベッドから転がって落ちる。
落ちたオレをシャーリーが着替えさせる。
コレが毎朝のルーティンになっていた。
「姫様、いい加減自分で脱いでくださいーー!」
「あぁ………あ………」
この無理やり脱がされる時に外気の寒さでようやく目が覚める。
「寝ないでください!!」
嘘だ、二度寝する。
「こら!シャーリー貴女、姫様になんて口を!!」
「ひぃぃぃ!すみません、すみません。」
ガクッ!
ドンッ!!
「いってーっ!!」
思いっきり頭を床にぶつけた。
シャーリーが手を離したからだ。
「ひぃぃぃ!!!」
「シャーリー貴女なんてことを……クビよ!!もういい加減にクビよ!!」
「メイド長さ、そういうのいいって言ってんじゃん……」
「なっ?!姫様、それでは…………」
(それよりも今の衝撃で思い出した。)
地下牢 行くの 忘れてたー
「シャーリー。」
「はい!姫様、クビにしないでください!田舎には私の仕送りを待つ家族が……」
「地下室ってどこ?」
「なっ?!!!姫様それはいけません!そこにいってはいけませんよ!!」
メイド長が朝からずっと爆ギレしてる……血圧とかヤバそうだよ……。
「そうですよ!地下牢なんて犯罪者だらけで汚くて臭くて不快で…………」
めっちゃ言うじゃん。
「シャーリー、そういうのいいから案内よろしく。」
「なっ?!いけません!」
「はい……。」
メイド長は止めようとするが、
ウチの侍女は素晴らしく諦めが早い。
そして切り替えも早い。
「うぅ……やっぱやめません?」
まだ引きつっていた。
「GO!!シャーリーGO‼︎」
寝室を出てシャーリーについていく。
少し歩いたところでシャーリーが立ち止まる。
「……姫様、朝食は?」
「よし、部屋に戻ろう。」
(部屋で朝食摂るシステムめんどくせぇな。)
朝食のために来た道を戻り部屋の前へ着くとなにやら声が聞こえてくる。
しっ!とシャーリーにジェスチャーする。
中を覗くとメイド長がミュージカルよろしく歌いながらベッドメイキングをしてくれていたので二人で見ないフリをして地下牢へ向かった。
――――――
そして現在に戻るというわけだ。
《わかった!もうわかった!アンタが姫様だよーー!!》
「ヒィィッ!!今の聞こえました?絶対オバケですよー……」
いや、確かになんか聞こえたけど……
「多分、平気だろ……そういうアレじゃなさそうだし。まぁシャーリーはここで待っててよ。」
(つーか……この世界オバケとかいるの?)
「ダメですよ!私は姫様の侍女なのでどこまでもお供しますよ!」
嫌がるシャーリーと二人で階下へ向かう。
階段をほんの数段降りただけでニオイが漂って来た……
「くっさぁ……」
「やっぱ帰りたいです……」
階段を全て降りると地下牢が並んでいる。
牢がいくつあるかわからないが目的の場所はすぐわかった……
「いい加減朝ごはん出しなさいよ!!」
「うるさい!毎日、毎日、騒がしいんだよ!!」
といった様子で看守と揉めてるのが一目瞭然だったからだ……オレの声ってあんなだったか?
「おい、お前ちょっと下がってくれるか?ソイツに用があるんだ。」
オレ(姫)と絶賛口論中の看守に声をかける。
「いやちょっと待て!これは必要な教育……ってええ?!!姫様がなんでココに?!」
「え?!私?!じゃなくてアンタ!!返しなさいよ!私の身体!返しなさいよ!!きぃぃぃぃ!!!」
鉄格子にしがみついて猿みたいに喚き散らす自分を見て少し切ない気持ちになった……。
「シャーリー、その看守と一緒に階段のところで待機しててもらえるか?」
「え?その人……誰なんですか?」
「まぁちょっとした知り合いだよ。」
「アンタなんて知らないわよ!!なんでもいいから返しなさいよ!ここから出しなさいよクソ庶民!!泥棒!!」
なるほど……確かにコレは嫌われる……
人なのかゴリラなのか、見慣れた人じゃないとわからなくなりそうだ。
シャーリーと看守が移動するのを見送って話しかける。
「よう、姫様、元気してたか?」
「アンタ!私の身体に何したのよ!ふざけやがって!クソゴリラ!ゴミ!カス!!」
オレが聞きたい……がこの感じコイツもなにも知らなそうだな。
あとクソゴリラはお前だよ……オレの体だけど
「つーかさ、あん時お前からぶつかって来たよな?」
「は?!アンタが避けなかったのが悪いのに私のせいにするって言うの?!ふざけんな!!私はこの国のお姫様なのよ!!アンタわかってんの?!!」
会話にならないのがわかったので無言で立ち去ろうとする。
「ちょっと!!どこいくの?!ねぇ!嘘でしょ!!待てよ!!待ってよ!!待てって言ってんでしょうがこの下民!!!!」
「また来るよ。」
と一言だけ残して階段へ向かった。
覚えてたらだけど……
「もう大丈夫ですか?」
「あぁ腹減ったしもう行こう。」
(完全に無駄な時間だったな……)
「待ってよ!!もどってよ!!クソがあぁぁ!!」
階段の下からそんな叫び声が聞こえる。
……今更帰ってこいって言われても、もう遅い。
「なんか酷い人でしたね……。前の姫様みたい。」
「おっと。」
「え?あ!違うんです違うんですそういう意味じゃないんです!!」
本当は大正解なんだけど言わないでおこう。
(なんかもう、戻らないでオレがこのまま姫様やってた方が色々と幸せなんじゃねぇかな)
?!
オレ今なんて思った?
このままでいい?
自然とそんな考えが頭をよぎった。
いやヤバいやつ(姫(オレの体))と関わった疲労と空腹でおかしくなってるだけだ……。
今度こそ朝食を食べようと自室へ向かう途中でなにか困り果てた様子のメイドがいたので声をかける。
「どしたん?話聞こか?」
「あっ、姫様。いえ、姫様のお耳にわざわざ入れるような事では……」
「あっこんにちは、この間はご迷惑をおかけしました……。」
シャーリーが頭を下げている。
「二人は知り合い?」
「はい、その……先日の自警団のリーダー?がいらした時に……」
自警団、ルチアーノが来た時か……!
「あー!あの時、グレゴリーと一緒になって凶暴化したシャーリーを抑えてくれてた人か!」
「凶暴化なんてしてないですよ!あれはあの人があまりにも姫様に対して無礼な態度を取ったから仕方なかったんです!」
それは嘘だ。
「はい、そうです。あっ!姫様、失礼します、その、急ぎのお話がありまして……。」
遠くに目をやったのでそちらを見るとウォルターが歩いているのを見つけた。
「ん?あぁウォルターを探していたのか、うん、またね。」
「はい、失礼します。シャーリーもまたね。」
そういうとメイドはウォルターの歩いて行った方へ向かって行った。
シャーリーは向こうに手を振ってる。
…………腹減った。
流石にもう昼が近い、いっそ昼食まで待つか……
「あっ!そうか、ルチアーノか。」
「え?何がですか?」
ルチアーノの名前を聞いただけで嫌そうな表情を浮かべるシャーリーに名案を告げる。
「こないだ頼んだ件の進捗を聞くついでに城下町でメシ食おうぜ?」
「ええ?!町の方で食べるんですか?お城の方が美味しいですよー。」
「……つーかお前はオレが起きるより早く起きて朝メシ食べてんじゃねーの?」
「………………」
シャーリーは無言で城の出口方向へ歩き始めた。
なんかオレっていっつも侍女の後追っかけてんだけど…………
そうして二人で城下町へ向かったのだ。
――――看守くんのブランチ――――
ゴンッ!
「はいっ?!起きてます!!」
「アンタさっきの私たちの会話聞いてたでしょ?私が今まで言ってたことが本当だってわかったでしょ?」
「いや寝てて……じゃなくて朝食のバナナが耳に入ってて……じゃなくて、はい!!さすが姫様!!」
「わかればいいのよ!わかれば!」
「いやーホントそうですよね。さすが姫様。」
「じゃあ何で私はまだここにいるのよ!!おいクソ看守!!!!さっさと私をここから出しなさいよ!!」
「おい、呼んでるぞ!」
「また発作かよ……お前いけよ!」
「ヤダよ。俺の仕事はシェフ。お前は看守。ちゃんと仕事しろよ?」
「かっー、だる……いくよ、いけばいいんだろ。……はぁ」
「ちなみに今持ってきたソレ、姫様が食べなかったヤツだから冷めてるけど超うまいよ!」
「マジかよ!ラッキー!!コレがあるからこの仕事続けられるぜ。」
「くーそーかーんーしゅーーー!!!」
「ほら、早く行ってやれよ。」
「………………」
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