6話 遠足、1年Bクラスの班決め

4月23日 火曜日

 今日もいつも通り学校だ。6時間目のLHRでは遠足とやらの班決めをするらしい。1年は毎年この時期になると都内の方まで行って有名な観光地を見て回ったりする。

 今年はお台場だとよ。あまり都内の方まで行かないので人並詳しくはない。今時の若者っていうのは渋谷や原宿でへんてこりんなスイーツを食べ歩いたり、インスタ映えスポットなんかに行ってパシャパシャ写真を取るんだろう。全く意味が分からない。家でまったりとアニメを見てるほうが断然最高だね。

 適当に5時間目まで乗り切り、あと数秒でLHRが始まる。先生が教室に入室した瞬間、チャイムが校内に鳴り響く。


「今日は前言った遠足の班決めやるぞ〜」


 俺のクラスの担任宮本はいっつもこんな脱力している感じだ。まったく彼女からは覇気が感じられん。先生のやる気の無さを感じ取ったのか、クラスの委員長である星野が教卓の方へ。腰に手をやりながらため息を吐く星野。

 分かる……。こんな先生だと思わずため息吐いちゃうよな〜。


「ここからは俺が。班は2人か3人で男女は関係なく組んでも構わない。じゃ、さっそく班決めよう!」


 星野の声でみんな一斉に席を立ち上がる。学校が始まって2週間。もうクラスに派閥ができているらしい。恐ろしや。

 さて、どうしよう。同じクラスに友達と言える人が1人もいない。笹園にするか……。いや、アイツは陽キャだし、俺より仲いい友達はいるだろう。ていうか今の言い方だと、俺はアイツと友達ということになってしまう。俺とアイツはいわゆる……義務友達だ。そうしよう。


「ど、どうしよう」


 こうなったら、あの人しかいないじゃん。同じ部活の荒川真昼……。この人しかいない。視線をその人の席の方へ動かす。彼女も辺りをチラチラと見回している。周りには人はいない。

 ……アイツもソロプレイヤーか。

 すると彼女は俺の視線に気づき、目を細めて見つめる。睨んでいるのかただ単に目が悪いだけなのかは分からないが、彼女はゆっくり俺に近づいてくる。


「あ、あら……巧さんもお一人で?」

「お、おう。友達がいないんでな……」

「…………」


 互いの間に気まずい空気が流れる。目をそらしながら、床や机の上のペンケースを見る。


「もし、良かったら……班組ません?」

「えっ。……いい、よ」

「あっ! べっ別に友達がいないってわけではありませんからねっ!? 仕方なく組んであげるんですよ??」


 何も言ってねぇよ。彼女は顔全体を赤くさせ、声を上げる。

 あ、この人友達少ないことコンプレックスなのかな?


「大丈夫。俺も……友達少ないから」

「だ、だから! 友だちが少ないわけでは……」

「じゃあなんで1人だったの?」

「それは、たまたまです!」


 何がたまたまだよ。お前、いつも教室で1人だろ。そんな事を心のなかで呟きながら、俺はここで冷笑をしてやろう。


「あっはは……」

「今の笑い……完全にバカにしてますね! 私より陰キャのくせに!」


 ぐさ。俺の胸が貫かれる音がした。俺より酷いことを言うじゃないか。こんなに苦しい経験はしたことがない……!

 あと「私より」ってなんだよ。お前陰キャじゃないだろ。たとえ陰側だとしてもそれはファッション陰キャだ。俺の敵。


「おーい高城〜1人枠空いてるから……おおっと、邪魔したな!」


 後ろから笹園がやってきたが、何かを察したのかすぐさま仲間たちのもとへ戻っていく。

 邪魔したってなんだよ。確かに俺はお前みたいな陽キャは嫌いだよ。邪魔してほしくないよ。でもなんだよ邪魔したって。

 笹園には俺と真昼(コイツ)がなんかいい〜感じに見えたのか?


「みんな、班は組めたか?」


 星野がまた教卓に立ち、みんなに声を掛ける。その横で先生はグッタリとしている。いつもの光景過ぎてもはや何も感じん。


「じゃあ次は遠足の日の計画を少し考えてもらう。プリント配るから、そのプリント見ながらやれー」


 星野はゆっくりA4プリントを1人づつに配る。


「お台場……私行ったことないんです」

「俺もないよ」

「調べたら、テーマパークがあるらしいですわ。……楽しそうですね!」

「うん。2人なら……楽しめそう」


 不意に言い放った言葉。真昼はなぜか顔を赤らめる。


「今……なんと、おっしゃいました……?」

「え、2人なら楽しめそうって……」

「ばっ!? ……」

「えっ!?」


 俺……なんか言っちゃだめなこと言っちゃった……??


ーーーつづくーーー

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