ニートが異世界平定の報酬で1500億円貰ったので、同窓会でマウントカウンターしに行った
スパ郎
第1話 こどおじ帰郷
大学を卒業……できなかったんだっけ。
そうだった。
10年前、俺は6年間ニートをしていて、こどおじ部屋に引きこもっていた。
毎日が鬱蒼としていて、生きている心地がしなかった。そんな俺が、まさか異世界で魔王を倒すことになるなんて。
パレードの真っただ中、国民の歓声を浴びながら俺はふとそんな昔のことを考えていた。
像より大きいこっちの世界にしかいない神獣の上の大きな鞍に胡坐をかいて手を振っていく。
「ははっ」
もとニートでこどおじ部屋の俺が、こんな英雄扱いされてらぁ。こっちの世界に来てから俺は魔力や魔法、スキルに目覚めて暴れまくった。聖女や世界一の剣豪、賢者たちに出会ってその力の使いどころを学んだ俺は、正義のために戦うことにしたんだったな。
全てが懐かしい。
あの強大な魔王との10年にも及ぶ戦いがこうもあっという間に感じられるとは。
「勇者ニト、どうされました?」
「ああ、なんか昔の記憶が蘇ってきて、少したそがれていた」
「ふふっ。もしかして私たちが出会った頃の思い出ですか?」
「……まあ、そんなとこだ」
聖女とは出会った頃に恋仲になった。結局うまく行かなかったんだけど、別れた後も仲良くやれている。その淡い恋の記憶を思い出したんならもっと幸福だっただろうに。思い出したのは、もっとジメジメとしたかび臭い思い出なんだよな。
父さん母さん元気にしているかな。ずっと迷惑ばかりかけた挙句、急に異世界来ちゃったからな。随分と心配……いやしてないな。たぶん喜んでるまである。
悲しいかな。家にニートがいて嬉しい家族はいないのだ。
「これからどうなるんだろうな」
「私たちは魔王を倒した英雄です。華々しい未来が待っていますよ」
「華々しい未来か」
この時だったかもしれない。こっちの世界じゃなく、もとの世界での未来を考え始めたのは。
だから、パレード終わりに王から聞かされた言葉にはさぞ驚かされた。
「そなたらには死ぬまで続く名誉と富を授けようぞ。それにふさわしい活躍をしてくれた。それと勇者ニトよ。オラクル神殿の大司祭様が元の世界に戻す力を取り戻したそうだ。一人限定で『ニホン』に送り届けられるらしい」
「はい!?」
本当に驚愕した。
まさか、今更あっちに戻れるなんて思っていなかったからだ。けれど、戻れると知った途端、俺の気持ちは思いっきりそちらに傾いて行く。
瞳孔が揺れ動いているのが分かる。自身の鼓動の高鳴りが良く聞こえる。
「ニト……戻りたいんでしょ?」
聖女が声をかけて来た。
「寂しくなるけど、俺も賛成するぜ」
剣士アルザスまで。
「ふん。さっさと帰れ。……まあ、お前のことは10年くらいは頭の片隅に置いといてやる」
賢者まで……。
俺はこの世界の親友たちに抱き着き、ワンワンと泣いた。
ありがとう。お前たちがいなきゃ、俺は魔王なんて倒せなかったし、未だにかび臭いニートのママだった気がする。
この世界が俺を変えてくれた。仲間が俺を強くした。
皆に感謝してもしきれない。
そしておよそ一ヶ月もの間、俺たちは飲みに飲んだ。毎日パーティーを開いて平和を祝い、別れを惜しんだ。
もう一生会えなくても、寂しくないように、密度の濃い時間を過ごした。
そして、その日はまたあっという間にやってきた。
見送りに来たのは、親友の3人だけ。ひっそりと旅立ちたかったから、他の人たちには内緒にしている。
「馬鹿なやつだ。こっちの世界にいれば一生英雄として扱われ、ちやほやされるというのに。お前、あっちでは居場所なかったんだろう?こっちに残ればいいものを」
ずっと喧嘩ばかりしてきた賢者が、今更別れを惜しんでいる姿を見て、俺は笑わずにはいられなかった。
けれど、もう帰ると決めている。
「みんなありがとう。最高に楽しい10年だったぜ」
「ニト……そんな素敵な言葉を残して行かないでください。別れが辛くなります」
「じゃあ、こっちがいいかな。アルザス、借りた50万ギルは返さねーからな!大司祭様、送ってくれ!」
「あってめー」
大司祭が逆召喚の魔法を使用すると、俺はあの日飲み込まれたゲートにまた飲み込まれた。
「あいつ……行っちまったな」
「……ああ、幸せに暮らせよ。ニト」
オラクル神殿の召喚の間には、伝説の勇者パーティーの3人だけが残された。
――。
ゲートに飲み込まれてあ空間をグルグルと回転し、プッと吐き出されるようにゲートから放り出された。
ポヨンと腰が受け止められた。そこには未だ弾力を保ったベッドが健在だった。
10年前、というか、俺が子供の頃からずっと使っていたベッドだった。
勉強机もある。PS3だってある!
うおおおおおおおお。俺の部屋だ!実家だ!こどおじ部屋だあああ!
随分と埃っぽいし、私物も結構消えていて整理されている。けれど、間違いなくそこは俺の部屋だったのだ。
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