虹のたもとの桜の木
ももやまゆめ
第1話 ミーナとマクス ずっと一緒に
私は窓から庭の桜を眺めていた。
季節は初夏。新芽も出て青々している。
そろそろ草むしりしないとな。
私のパートナーが終の住処として購入した庭付き平屋の一戸建て。
土地探しから始まって家のデザイン間取り全て決めるまで時間をかけた。
あまり大きくはないけれど二人で住むにはちょうどいい。とても気に入っている。ちょっと庭が大きいので手入れは大変だけど。
パートナーとは、なんとな〜く付き合って、なんとな〜く一緒に住むようになった。
入籍はしていない。私が面倒くさいと言ったから。なので、夫ではなくパートナーとよぶ。
ある日、パートナーが「庭に木を植えよう。花が咲く木がいいなぁ。そうだ桜なんかいいんじゃないかな。」と笑顔で言った。
「そうねぇ春には花見ができるし楽しみね。」
それから私たちはあちこちの店を二人でまわり一本の桜の苗木を購入した。
苗木を植える時、「この桜の花は僕たちが死ぬまで咲くのを何回見られるかな。」
「沢山見れるよ。この桜が大木になっても死なないんじゃない?」
桜が咲くといつも言うんだから。そんなのまだまだ先の話だよ。
家の周りに囲いは無い。庭の先は低い土手があってそこを登ると畑や田んぼが広がっている。
その先にはあまり大きくない山が見える。空が広く夜は星の観察もできるくらい。いい眺め。
境目がはっきりしていないからなのか庭を猫とかウサギとか鳥とか我が物顔で歩く。
庭の真ん中の桜は動物達の休憩スポットみたい。あまり大きくはない木陰で休む姿を見かける。
その動物の中でも特に猫がやってくる。猫は好きだ。見てるだけでも癒される。黒、白、うす茶色、濃茶色、白黒、トラ模様などなど。みんな毛艶が良くコロコロしている。目が合っても堂々としている。人馴れしてるというか少し図々しいというか。きっとどこかの飼い猫なんだろう。密かに私は猫ちゃんずとよびそれぞれに名前をつけている。呼んでも見向きもされないけど。
今日も猫がやってきた。癒しの時間のはじまりだ。
今日の猫は濃茶色のカカオ。
艶々の毛並みのカカオの目はグリーンで性別は不明。なかなかの美猫だ。
今日はなんかいつもと様子が違う。
長い尻尾をゆらゆらさせて歩いてる。
よく見るとカカオの後ろに白いモヤの塊が。モヤを連れてやってきたのだ。そして桜の木の下に行くと立ち止まり、なんかカカオとモヤが二人?で話をしているみたいに見えた。するとモヤが人?のような形に変わった。そしてだんだんとはっきり見えてきた。女の人だ。
金色の腰まである長い髪、オレンジ色の大きな目、睫毛は長く、こじんまりとした上品な口。色が白くて綺麗な人。深いグリーンのロングドレスに茶色の靴を履いてる。ドレスの胸元と裾はレースで飾られてウエストにはチョコレート色のリボンが飾られている。色味は地味っぽいけど上品な感じ。耳にはグリーンの宝石が付いたイヤリング。首にはシルバーのペンダント。
突然現れてびっくりしたけど不思議と怖い感じはなかった。それよりも私は、キャー!!外国人?中世ヨーロッパ風?グリーン好き?と一人心のなかで騒がしくしていた。
その女の人は私に向かってお辞儀をした。「びっくりさせてごめんなさい。ちょっとだけお邪魔します。」って言ったみたいな気がした。
おぉーしゃべった!
私は勇気を出して話しかけてみた。「こ、ここ、ここで何をしているの?」どもった。
その綺麗な人?は「待ち合わせです。もうすぐ迎えにくるはずなんだけど。」ちょっと困り顔。よかった日本語通じた。カカオはあくびをしながら丸まった。
急に雨が降ってきた。まあまあ強い雨だった。「こ、こちらで雨宿りしたら。濡れちゃうよ。」
女の人はカカオを抱いて軒下のテーブルセットにやってきた。
へぇーカカオって触られても平気なんだ。
私触った事ないのにな。すこーし嫉妬した。
「通り雨だと思うけどやむまでお茶でもいかが?」
「はい。いただきます。」
私はお茶とお菓子を恐る恐るだした。手は震えていた。カカオには煮干しを。お茶は紅茶、お菓子は頂き物のマドレーヌ。
二人?は美味しそうに食べる。なんか癒しだわ。
待ち合わせがどうしてここなのか聞いてみた。わたしん家の庭なんだから聞く権利ぐらいはあるよね。
「しばらく迷子になってたんだけど、この猫ちゃんが教えてくれたんです。ここだよって。虹に繋がる桜ってこの木なんでしょう?」
へっ!そうなの?
そういえば家の敷地はふたつの住所にまたがっている。一つは桜木でもう一つは虹下だ。役所の届けは桜木になっているけど。
「虹に繋がる桜はこの辺ではここだけなんだって。」
へぇ。虹の下の桜の木ってことか。うちの桜がねぇ。
それからお茶をしながらお話しをした。ほぼ聞き役だったけど。
彼女の名前はミーナ。家族、侍女や使用人、幼馴染、叔父夫婦、旦那さんなどなどのお話。
2歳年上の幼馴染とは約束をしていて名前はマクスというらしい。
随分とお金持ちの家の生まれなんだろうな。侍女とか使用人なんて普通の家にはいないもの。
小さい頃は家族にかこまれてとても幸せだった。だけど、幸せは永遠に続かなくてある日を境に不幸のどん底に落とされて亡くなるまで不幸だったそう。泣ける話だけど、どこかで聞いたような話だなと思った。よく思い出せないけど。
ミーナは亡くなっていたってことなんだ。じゃあこのミーナは[人]ではないということか。
私は少し悲しい顔をした。
ミーナは「でも、大丈夫なの。これから幸せになれるから。」と笑った。
その時、カカオが「にゃーん。」と目を細めて鳴いた。雨が止んでお日様が出てきた。そして大きな虹が桜の木から空に向かって延びた。
「にゃーん。にゃーん。」カカオがまた鳴いた。誰かを呼んでいるみたい。
すると桜の木の下に白いモヤがかかりそれが人のようになった。また?
今度は男の人?濃茶色の髪で深いグリーンの目。鼻筋が通った美丈夫。ん?カカオに似てるな。白シャツにオレンジのクラバットそれに金のカフス。紺色のベストにトラザウス。ベストには金糸で刺繍が入ってる。耳にはオレンジ色のピアス。あれ?同じペンダントもしてる。
きっとこの人がマクスだ。
二人を見比べた。そうか、ミーナはマクスの色でマクスはミーナの色身に着てたのか。
笑顔で私たちのところへやって来る。
「ミーナ。お待たせ。」そう言いながら花の冠をミーナの頭にのせた。
「マクス。」
「約束どおり迎えに来たよ。」
「嬉しいありがとう。」
「これからはずっと一緒だよ。さあ行こう。もうあんまり時間がないよ。」
「うん。そうね。」ミーナはとても嬉しそうだ。
二人は手を繋ぎ桜の木の方へ歩いて行く。桜の木の横でまばゆい光につつまれた。二人は女の子と男の子になっていた。子供に戻ったんだ。
女の子は可愛らしい黄色のワンピースに緑色のリボン赤い靴を履いている。頭には花冠。そして胸元にはさっきのペンダント。
男の子は白いシャツにオレンジ色の蝶ネクタイ紺色の半ズボンに茶色いショートブーツ。胸元にはお揃いのペンダント。
可愛らしいカップルじゃん。
「ゆめちゃん雨宿りさせてくれてありがとう。じゃあね。」
そう言って二人は手を繋いで虹を渡って行ってしまった。
私は「じゃあね。」と手を振った。
カカオは「にゃーん。にゃーん。」と鳴いた。二人が見えなくなるまで。
しばらくして虹が消えるとカカオは庭を横切ってどこかに行ってしまった。また来るかな?
そういえば私の名前教えたかな?
子供になった二人にお菓子あげればよかったかな?なんて思った。私ってば立派なおばちゃんだわ。
夕方になってパートナーが仕事から帰ってきた。もうこんな時間。ご飯どうしよう。
慌てて晩御飯の用意をする。今日のメニューは生姜焼きとキャベツの千切り、大盛り白米、わかめのお味噌汁、きゅうりの漬け物。デザートはグレープフルーツ。
大した物は作らない いや作れない。
それでも「美味しい」と言ってくれる。「不味い」は言われたことが無い。言わせないけど。
御飯が済んで食後のお茶を飲みながら今日一日の話をする。私達のいつもの日課だ。
日中の出来事を話をしてみた。
「あの桜、植えるとき庭の真ん中にしようと思ったんだけど[こっちだよ こっちに植えて]って聞こえた気がしたんだ。少しズレたら[ここだよ ここに植えて]って。よくよく考えたら二つの住所の境なんだよ。今更だけど、あの声は桜の声だったのかな?」
「どうりで中途半端な場所だなって思ってた。テレビかなんかで植物もしゃべることあるっていってたから...桜じゃない?」
「じゃあ桜ってことにしておこう。他の何かだとちょっと怖いし。」こいつビビりだな。
「そうね。」
「その二人は虹を渡って行ったんでしょ?その先はどこなんだろうね?」
「きっといいところなんじゃない?嬉しそうに手を繋いで行ったから。」
「だといいね。」
その夜、夢を見た。
青い空、色とりどりの広い花畑であの二人が笑いながら走っていた。頭には花冠、胸にはお揃いのペンダント。うわっ!!天使や!!
ここって天国??あの世??ってやつ?
私、うっかり死んじゃったのか?
焦っている私を見て二人は笑った。「私たちこれからずっと一緒なの。だから幸せなの。ゆめちゃんもう心配しないで。しあわせにねー。」とミーナが言った。
「おぅ。がんばるー。」と私は答えた。
なぜそう答えたかわからない。
そこで目が覚めた。
あっ死んでなかった。あーよかった。
のろのろとベッドから這い出し洗面所へ行く。
身支度をしながら昨日のことや夢のことを考える。
ミーナはどこから来たのだろう。
私の名前どうして知ってたのかな?
人では無いのは確かだけど、今までそうゆうの見えたことないんだけどな?
私ってばとうとう見える人になってしまったのか?
疑問はいろいろあるけどまずは仕事に行くかぁ。
その答えがわかるのはちょっと先のお話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます