Gewonnene Siege.

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プロローグ

1936年冬、ハンス・クリューガー大佐はベルリンの自宅で一人、静かに窓辺に立っていた。外には雪が静かに降り積もり、白銀の世界が広がっていた。冷たい風が木々を揺らし、空気は凛と澄んでいたが、彼の胸の内には長年抱えてきた想いが渦巻いていた。クリューガーは窓の外を見つめながら、遠い過去に思いを馳せた。


1918年の秋、私はドイツ陸軍の若き将校として西部戦線に立っていた。戦争の始まりからすでに四年以上が過ぎ、多くの仲間たちが戦場に倒れていったが、私と私の部隊はドイツの勝利を信じて疑わなかった。春に行われたカイザーシュラハト――皇帝の戦い――では、我々は大いなる希望を抱いていた。ドイツ軍の春季攻勢は、イギリス、フランス軍を後退させた。勝利はすぐそこにあるように思えた。

だが、あの百日攻勢で全てが変わった。夏の終わりから秋にかけて、連合軍は次々と我々の防衛線を突破していった。前線は徐々に押し返され、ついにはヒンデンブルグ線への撤退を余儀なくされた。祖国の防衛が危機に瀕し、我々の希望は次第に崩れていった。

そして、あの11月の降伏である。私たちは、何が起こったのか理解することさえできなかった。突然のように、かつて強大で誇り高い祖国が崩壊し、ドイツ帝国は瓦解した。


前線で戦っていた我々には、祖国で何が起こっているのか理解する術はほとんどなかった。遠くから聞こえてくるのは、ただ断片的な情報だけだった。時折届く報告は、ドイツ国内で暴動や混乱が起きているというもので、その内容は我々にとって信じがたいものだった。

私たちの中では、それらの混乱はまるで敵の陰謀によるもののように感じられた。特に、ボリシェヴィキやその背後にいると信じられたユダヤ人による背後からの一突きという陰謀説は、仲間たちの間で広く信じられていた。あの時、私も含め、誰もがそれを疑わなかった。我々の心の中には、戦争の疲れと絶望が渦巻いており、敵の陰謀という考え方は、ある種の救いとなっていたのかもしれない。

しかし、前線が崩れ、祖国に戻る日が近づくにつれ、私は次第に、戦場での現実とは異なる別の真実があることに気づき始めた。ドイツ国内での混乱の真の原因は、敵の陰謀などではなかった。それは、長引く戦争に疲れ果て、飢餓に苦しむ人々の絶望感から来るものだったのだ。

私は次第に、戦争の勝敗を左右するのは、単なる軍事力ではなく、国民の心であることを理解するようになった。戦場でいかに勝利を収めても、国民の信頼と希望が失われたとき、我々の戦いは無意味なものとなってしまう。あの時の私は、祖国が抱える深い傷を前に、ただ無力感に苛まれるばかりだった。


それから数年後、ドイツは屈辱的なヴェルサイユ条約に縛られることとなった。あの条約が我々に与えた苦痛は、言葉では言い尽くせない。国土は分割され、誇り高い軍は縮小され、そして途方もない額の賠償金が課された。そのすべてが、かつて強大だった我々の祖国を、一瞬で無力な存在へと変えたのだ。

私は、その不正義を決して許すことができなかった。 戦場で命を懸けた者として、そしてドイツを愛する者として、あの屈辱を受け入れることは到底できなかった。 ヴェルサイユ条約は、戦争で亡くなった仲間たちへの冒涜に等しいと感じた。

なぜ、我々はこのような不当な扱いを受けねばならないのか? なぜ、ドイツはこのように屈辱的な立場に追い込まれなければならなかったのか? その答えはただ一つ。戦争に負けたからだ。


一時、私はドイツ義勇軍に身を投じようと考えた。ヴェルサイユ条約によってドイツが屈辱的な状況に追い込まれた後、多くの戦友たちは祖国を守るために義勇軍に加わり、新たな戦いを始めていた。私もまた、その呼びかけに応じようと思ったのだ。

しかし、運命は別の道を用意していた。ヴェルサイユ条約の厳しい条件により、ヴァイマル共和国陸軍は10万人に限定され、軍は縮小を余儀なくされた。その中で、私は選ばれ、正規の軍に残ることとなった。

この選択が、私を義勇軍の道から遠ざけた。戦場で共に戦った仲間たちが義勇軍に身を投じる一方で、私は公式な軍務に留まる道を選んだのだ。しかし、心の中では常に葛藤していた。義勇軍に加わり、祖国のために戦い続けることが本当の道ではないかと、自問する日々が続いた。だが、与えられた役割を受け入れ、今は自分にできる限りの方法で新たなる祖国に仕えるしかなかった。


その後、私は祖国に尽くすため、第5師団の参謀将校として配属されたとき、私は再び軍人としての誇りを感じた。参謀として、私は部隊の運用や作戦計画に深く関わり、前線で戦う仲間たちを支えることができる立場にあった。

その後は、兵務局に勤めることとなった。戦場での経験が買われ、軍務の管理や人事に関わる仕事を任された。戦いの場から遠ざかるのは私にとって辛いことだったが、祖国のためにできることはまだあると自分に言い聞かせた。これまでとは異なる形ではあったが、私は再び祖国のために戦っていると感じた。

軍務において私は着実に昇進していった。そして、1932年には少佐に昇進することができた。この昇進は、私にとって一つの節目であり、これまでの努力が実を結んだ瞬間だった。祖国への奉仕の道は決して平坦ではなかったが、その中で私は自分の役割を果たし続けてきたと誇りに思っている。



1933年、アドルフ・ヒトラーが首相に任命されたとき、私は心の中に新たな希望が芽生えるのを感じた。長い間、ドイツは屈辱と絶望の中に沈んでいたが、ナチス党が権力を掌握し、国民に再び誇りと力を取り戻すことを約束したのだ。ヒトラーのカリスマ性と、その揺るぎない意志に触れ、私は彼こそがドイツを再生させる人物だと確信した。

彼の演説を聞くたびに、私の胸には祖国への強い愛情が再び燃え上がった。ヒトラーは、かつての偉大なドイツを取り戻し、再び世界の舞台に立つことを目指していた。彼の言葉には力があり、私たちの心に深く響いた。彼が指導するドイツは、他国を凌駕する存在となり、再び誇り高く立つことができると、私は心から信じた。

しかし、心の片隅には、一抹の不安もあった。私は、再び戦争に突入することが本当に必要なのか、疑問に思っていたのだ。戦場での惨劇を目の当たりにし、多くの仲間たちを失った私にとって、戦争の恐ろしさは痛いほど理解していた。祖国の再生のために、他の手段はないのだろうかと、幾度となく自問した。

それでも、私はヒトラーのビジョンに賭けることにした。ドイツが再び立ち上がり、栄光を取り戻すためには、彼の指導のもとで団結し、力を合わせるしかないと信じたのだ。戦争を避けたいという思いはあったが、祖国の未来のために、私はその不安を押し殺し、前に進む決意を固めた。


ナチ党が政権を握った後、ドイツは驚くべき速さで軍備を整え始めた。1935年には再軍備宣言がなされ、祖国は再びその力を取り戻しつつあった。私たち国民は、かつての誇りを感じ始め、胸を張って祖国を見つめることができるようになった。(国民としては戦争は望んでいないようであったが)私はこの動きを心から歓迎し、自らも軍の再編成に尽力することを決意した。

私の目には、祖国が再び強く、誇り高き国家となる日が近づいているのが明らかだった。軍が再び力を取り戻し、ドイツが世界の舞台で再びその存在感を示す時が来たのだと感じた。私は、今までの経験を活かし、軍の再編成において重要な役割を果たした。新しい訓練法や戦術の導入を推進し、若い将校たちに自らの経験と信念を伝え続けた。

彼らに教えるたびに、私は一つのことを強く意識していた。それは、ドイツが今度こそ確実に勝利を収めるために、何が必要なのかを常に考えることだった。過去の失敗を繰り返さないために、私たちは新しい時代にふさわしい軍を築かなければならないと考えていた。だからこそ、私は新しい戦術や訓練法を導入し、若い将校たちが次の戦いに備えることができるように尽力した。


1935年6月、私はドイツ国防軍司令部の国防部長に就任した。この役職は、私にとって大きな転機であり、ドイツの軍事再建に深く関わることができる重要なポジションだった。祖国のために尽くす責任が増したことを感じ、私はこれまで以上に自らの任務に全力を注ぐ決意を固めた。

その数か月後、1935年8月には大佐に昇進した。これは、私のこれまでの努力が評価された結果であり、同時にさらなる責任を背負うことを意味していた。


そして1936年の冬、私は改めて自らの決意を確認している。私は、これまでの努力が実を結び、ドイツが再び世界の中心に立つ日が近づいていることを確信していた。彼の胸には、祖国を再び偉大な国にするために必要なすべての覚悟があった。彼は、自らの手でドイツを勝利に導くことを固く誓い、そのためにあらゆる犠牲を払う覚悟でいた。


「ドイツは必ず勝利する。」


この言葉が私の心の中で強く響いていた。それは、単なる信念や希望ではなく、私にとって揺るぎない確信であった。戦争の荒波に揉まれ、時に絶望の淵に立たされたこともあったが、この確信だけは決して揺るがなかった。

私は、ドイツが確実に勝利を収め、再び世界の中心に立つ日が来ると信じて疑わなかった。その日は遠くない。ヒトラーの指導のもとで、我々は祖国の再興に向けて着実に歩みを進めていた。私たちの努力は無駄にはならない。過去の屈辱を乗り越え、ドイツは再び誇り高く立ち上がるのだ。

その日が来るまで、私は戦い続けるだろう。祖国のために、全力を尽くし、私にできるすべてを捧げる覚悟がある。私は、自らの使命を果たし、ドイツが再び偉大な国として世界に君臨するその瞬間を、何よりも信じている。それは、私の人生の目的であり、存在する理由そのものだった。

そして、その日が来る時、ドイツは再び世界にその力と誇りを示すだろう。私はその日を待ち望みながら、これからも全身全霊をもって祖国に仕えるつもりだ。

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