第30話 東京ダンジョンの調査②
休憩を終えた俺たちは再び進んで行く。
出てくるのは相変わらずオークばっかりだから割愛する。
全て斬り裂いてドロップ肉を回収した。
意外だったのは肉以外にもエリクサーとかが出たことだ。
あと猪摸蘭魔ってなんだ?
意味が分からない変な像を手に入れたから鑑定したらそう表示されるんだけど、効果不明だった。
そもそもなんて読むんだ?
そんなことを気にしているのは俺たちだけ……いや、俺だけみたいで、みんな進んで行く。
この頃になってようやく俺の強さを理解し、距離を開けておくのが危険だと判断したのか少し近付いてきた世界ダンジョン協会の探索者チームのリーダー曰く、前部隊は93層で光り輝くオークによって壊滅したらしい。
その階層をすでに超えているが、そんなオークとは遭遇していないから、100層に辿り着くまでに出てくるんじゃないかと警戒しているとのことだ。
最初から最低限の意思疎通を図ってくれれば俺たちだって邪険にせずに進んだものを。まぁプライドは仕方ないか。
そうして100層に向かう階段のあるあたりで、俺たちはついにそのオークと遭遇した。
そいつは今まで出て来たオークと比べて特に大きいと言うわけではなく、がっちりと筋肉に覆われた体をしていて無駄に輝いているものの、そこまで強そうには見えなかった。
驚いたのは……
「はぁ~っはっはっは。また来たな人間どもよ。我はミソロジーデリシャスオーク。オーク界の粋を集めた美味を誇る、至高のオークであるぞ!」
そいつはなんとインセクトロード(笑)と同様に喋るモンスターだった……。
ってことよりも、名前からして全力で自分は美味しいと主張している頭のおかしさにだった。
今から戦うやつが自分が美味しいと主張するってことは、そもそも負ける前提なのだろうか?
それにしては態度はデカいし、戦う気満々だし、たぶん勝つ気満々だ。
「デリシャスなんなら、食べるの。大人しく餌になれなの」
「ふん、斬魔精か。まったくしけた面だな。それに喋る言葉の品がないこと。もっと高貴な我のように美しく、凛々しく、優雅に振る舞いたまえ」
「ぐぬぬ~なの~」
何を悔しがってるんだエフィーは。
見た目はどう見ても筋肉マッチョなただの豚のくせに、優雅も何もない。
むしろ光り輝いているせいで下品だし。
ただ、その存在のおかしさに忘れそうになったけど、喋るモンスターってのは貴重だ。
何か情報が取れるかもしれない。
「そのミソロジーデリシャスオークさんはなんでこんなところにいるんだ?」
「むぅ、貴様、人間か?」
「貴様はレーダたちの仇だな! 覚悟しろ!」
俺が会話を試みているのに、恐らく前部隊のことを想ってか突撃してしまうリーダーと、それに続く4人の探索者たち。
呆気に取られている間に、オークが足を一閃し、次の瞬間には全員地面に転がされていた。
なにしてんだよ……。
仲間を殺された恨みはわかるが、戦力確認はちゃんとしようなっていうのと、情報を引き出そうとしてるんだから邪魔すんな。
「ふん、避けたか。貴様はやるではないか」
偉そうに腰に手を当ててこちらを見下してくるオークが何か言ってる。
「喋るモンスターって珍しいよな? 何か凄いやつなのか?」
「ほう……我以外にも言葉を解すモンスターと出会ったことがあるのか?」
「あぁ、確かインセクトロードと名乗っていたな」
「む。それでそいつはどうなった?」
もしかして知り合いか?
ぶっ殺したとか言ったらまずいかな?
「インセクトロードなんて沖田の敵じゃなかったの! ぶっ殺したの!」
待てよエフィー。ふざけんな。相手がブチ切れたりしたら会話を試みた意味がなくなるだろうが!
「なんと。これは笑える。人間に敗れたのか、あの虫は。あっはっはっはっは」
エフィーの宣言に対して高笑いするオーク……。うん、きっと仲が悪かったんだろう。
「お前は斬魔精だからと問答無用で殴りかかったりしないんだな?」
「ふん、そのような品がないことはせぬ。我は堂々と貴様らを倒してくれよう」
「あぁ?」
「えっ……」
とりあえず叩きのめさないと何も喋らなそうだから叩きのめした。自分で美味しいとか言ったんだから、ちゃんと食わないといけないだろうから、悪いが容赦しない。
「ぶもぉぉぉおおおぉ」
一瞬のことできょとんとしていたが、手足を切り落とし、腹の肉を斬り裂き、内臓もタンも切り落としたことに気付いたらしく、声にならぬ声を放ちながら震え出した。
やっちまった……喋ることはできなさそうだな。
最初からできなかったことにしておこう。そうしよう。
もう躊躇はやめて、そのままミンチになるまで斬って叩いた。
美味しいハンバーグを作ろうぜ。
「あの……すまなかった……」
俺は手際よくハンバーグをこねた後、アイテムボックスから取り出した『ダンジョン内でも安心! 素敵な鉄板セット 火加減調節機能付き』を使って焼いていたら、回復したリーダーが話しかけて来た。
うんうん。英語はわからない俺だけど、さすがにsorryくらいはわかる。反省できる大人っていいよな。ちゃんと許してやるぜ。
きっとこの人にもいろいろあったんだろうが、俺にとって直接関係がないことだし、俺が恨まれるのは筋違いだしな。
少しだけ言葉を交わした。
横田さんが超絶言葉少なく通訳してくれた。
出来上がったハンバーグは見た目も匂いも最高だった。
ふっくらとした美しいフォルム、香ばしくも濃厚な香り、よだれが止まらない。
決してこれが待ちきれないから適当に許したわけではないが、共に戦ってここまで進んできた仲間として全員に焼き上がったハンバーグをサーブする。
「まぁ食べよう」
「いいのか?」
「もちろんだ。いただきます」
英語はさっぱりだから雰囲気で適当に喋ったが、美味しそうなハンバーグを前にして通訳など不要だ。
きっと意思疎通ばっちりの俺たちは、全員でそのハンバーグを口に運んだのだった。
***
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