第29話 東京ダンジョンの調査①
□日本ダンジョン協会本部 (神谷会長)
「世界ダンジョン協会から派遣された部隊が壊滅したようです。我々も通信に参加していましたが、光り輝くオークによって壊滅したとのことです」
「頭が痛い状況だな」
報告をあげてくれる皆川君は少し疲れた様子だ。
先日までは前会長の葛野の訴追と、彼の息のかかったものの更迭、さらに態勢の立て直しに組織として奔走していた。
それがある程度収まったと思ったら沖田君が会話で意思疎通できるモンスターなんて言う世界がひっくり返りそうな衝撃的なものと遭遇した。
それだけでも驚きなのに、さらに太平洋ダンジョンの100層のボスが東京に転移してきた。
これはもはやモンスターによるテロだ。
スタンピードでダンジョンの入り口から出てくるのとはわけが違う。
なにせモンスターが事実上世界のどんな場所にも出て来れる可能性が示されたわけだ。
ダンジョンに入ってモンスターを間引きつつ、もしスタンピードが起きた場合の防衛体制を想定してきたが、それでは対処できないことになる。
全てのダンジョンでボスモンスターまで含めて常に倒し続けない限り不安は止まらない。
もちろん今までの間に全く起きていなかったことからレアケースなんだとは思うし、そうであってほしい。
ただ確証はない。
この部屋に、その光り輝くオークが突然現れる可能性だってあるわけだ。
「調査を進めるしかないのだがな……リーヴェルト会長はどう言っている?」
「はい。次の部隊を送るとのことでした」
「そうか……。日本としては協力してやりたいが、彼らにもプライドがあって難しい。太平洋や北極ダンジョンでならした自負もあるだろう。D7への反感もある。そこについては?」
「沖田さんに協力をお願いしたいとのことでした」
「わかった。なら沖田君に連絡しておこう」
一歩前進したか。前部隊の壊滅と言う犠牲を払ってようやくと言うことだが、過去には戻れない。
前に進むしかないのだから、背景や経緯、注意点を踏まえて、私は沖田君に連絡を取った。
そうして派遣されてきたのは屈強な5人の探索者。いずれもD7の出身者ではないとのことで、D7以外のダンジョンで腕を磨いたものたちだ。
さすがにリーヴェルト会長が言いくるめているのか、着任の挨拶の際に沖田君への協力要請をしてきた。
ただ、その目は決して明るく前向きなものではない。
むしろ怒りや嫉妬が見え隠れする。
これはまずい……。
ただ、沖田君自身もそういったことへの理解があったらしく、丁重に応対してくれたおかげでちょっと憎まれ口や皮肉が放たれた程度で終わった。
沖田君が英語ができなくてよかった。
遥さんに対する不躾な言葉を理解していたら、この場に5人転がっていただろうから。
別チームで連携などすぐにできるものではないから、ダンジョンの中では2つのパーティーが少し距離を開けて移動することにしたらしい。
ナイスだ那月君。例え大袈裟に褒めても反応してくれないだろうが、心の中で称賛した。
□東京ダンジョン (沖田紘一)
しかし豚ばっかだな……。
あっちにもオーク、こっちにもオーク。まるで豚小屋……ってほど狭くないし平原が広がっているから、放牧場みたいだ。
当然目につく限り全て斬る。
ドロップアイテムとして一定の割合で出てくるオーク肉は全回収だ。
結構美味いんだよ。
世界ダンジョン協会から派遣された部隊も結構強い。
60層を超え、80層を超え、90層を超えても普通に戦っている。
対するオークはどんどんデカく、固く、カラフルになっていく。
なんなのレインボーシャイニングオークって。
はじめて見たわ。
そんな見た目で格闘オンリーとか意味が分からんし。
ただ、単純に力は強く、速度も速くて手強かった。
だがまあ、手強い程度だ。間違っても負けるようなことはないから、順調に進む。
しいて言うなら、俺に対してバフをかける遥のことを世界ダンジョン協会の部隊が厭らしい目で見たり、スラングみたいな言葉を投げつけてきやがったから魔力で脅したら、オークたちまで縮こまったのは内緒だ。
そんな探索者たちがムカついてな。こいつらにわざわざ速度を合わせてやる必要性を見失ったから『ついて来い』とだけ言ってスピードを上げた。
急なことに驚いたみたいだが、96層を超えたところで出てくるオークがさらに強くなってからは離れたらまずいと思ったのか必死についてきた。
前に来た部隊が壊滅させられたって言う光り輝くオークが出たらヤバいと思ったのかもしれない。
今は99層に入ったところにあった広場で休憩中だ。
やつらは地面にへたり込んだり寝転がったりしてる。まぁ、大変だっただろうから呼吸でも整えてくれ。
一方、俺たちはここまでの間に拾いまくった豚肉で焼肉パーティー中だ。
色んな種類のオーク肉を拾ったけど、どれも美味い。強ければ強いほど美味い。あぁ米が欲しいけど、さすがにダンジョンの中で焚くのは難しい。
遥と横田さんは小食なせいなのか、それともダンジョンの中なのを気にしてなのかあんまり食べてないが、俺とエフィーは片っ端から奪い合うように喰いまくってる。
「おいエフィー、そのパープルスペシャルオークのタンは俺のだぞ?」
「知らないの。美味しいの~」
「てめぇ!?」
俺の箸を避けるように肉を手で掴んで喰うエフィー。行儀悪いぞ?
そんな様子を見て転がってる探索者たちが気持ち悪そうな顔をしてるが、なんだよ。文句あんのか?
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