オトシモノクエスト

平葉与雨

第1話 始まりは突然に

『魔王様のオトシモノを十個集めるまで元の世界に帰れない』


 これは、いま僕が参加しているよく分からないゲームのルールのひとつ。

 無理矢理この世界に飛ばされて強制的に参加させられてるから、正直に言うとゲームかどうかもよく分からない。

 魔王様がゲームだと言うから、そう思うしかない。


 ここに来たのは昨日……だったかな。

 たった一日しか経ってないのに、もう記憶が曖昧あいまいだ。ちょっと思い出してみよう。


 ***


「はぁ、今日も学校だるかったなぁ」


 学校が嫌いってわけじゃない。でも、好きでもないことを勉強したり苦手なことをやったりするのはマジでめんどい。

 だってそうでしょ。まったく気持ちは乗らないし、あんなのストレスが増えるだけ。


 家に帰った僕は学校とは違う。

 サブスクでアニメを見たり、ごろごろしながらマンガを読んだり。寝るまでゲームをやることもある。とにかくやりたいことだけをやるんだ。


 宿なんて言葉は知らない。あれは外国の言葉だ。どの国の言葉かは分からないし、知ろうとも思わない。

 でも忘れたら先生に怒られる。だから仕方なく宿題をやる。外国のものだから意味不明だけど、適当に書きまくって終わらせるんだ。

 

『間違っててもいい。全部やることが大事だから』


 先生はよくそう言うけど、実際は間違えまくるとなんか言われる。超めんどい。

 それが先生の仕事なのは分かってるけど、先生も面倒だろうから宿題なんて出さなきゃいいのに。


 そんなことを思っていると、いきなり窓の外がめちゃくちゃ明るくなった。


「うわぁぁぁ、目がぁぁぁ!」


 太陽が降ってきたんじゃないかと思うほど、とんでもなく明るかった。

 マジで目が焼けるかと思った。大げさじゃない。ほんとに目玉焼きになるかと思った。


 それで目を押さえて叫んでたら、目の前が真っ暗になった。そりゃ目を押さえてたから当たり前だけど。

 でも、落ち着いたかなと思って手を外してみたら、ほんとに目の前が真っ暗になってた。停電で電気が消えてたとかそんなんじゃない。

 あれはまるでゲームみたいだった。負けたときに画面が真っ黒になる感じ。


 僕はこのまま死ぬのかな……なんてことは思わなかった。いや、ちょっとは思ったかも。誰だって暗闇は怖いでしょ。



 どれくらい時間が経ったかは分からなかったけど、生きてる感覚はあったし、体が軽くなった気がしたから、やっと何かから解放されたんだと思った。


「……ここは……家か」


 目が覚めたら、家だった。よくあるアニメとかマンガみたいに、変な出来事があったら異世界に飛んでた、なんてことはなかった。

 僕はいつもと同じように家にいた。


「なんだ、つまんな」


 さっきのがなんだったのか、お母さんに確認しようと思った。一階に下りて、お母さんを呼んだ。


 ——返事がない。


 おかしいな。帰ってきたときにはいたと思うけど。


 家中を探してもどこにもいなかった。

 ここで僕は変な気持ちになった。なんかこう、説明するのが難しいんだけど、この世界が普通じゃないって感覚。


 家の外に出てみたら、そう感じた僕は正しかった。

 見た目はまったく同じなのに、めちゃくちゃ静かだった。いつもは人が歩いていたり、車が通っていたりするのに。周りを見ても誰もいないし車もなかった。


「これってやっぱり……」


 見た目はまったく同じだけど別の世界。僕はそう思った。


「よく来たな、小僧こぞう

「えっ?」


 突然、どこからか声が聞こえた。目の前には誰もいない。後ろを見ても誰もいない。

 気のせいかと思った——けど違った。


「どこを見ておる。上だよ、上」

「上……うわっ!!」


 人のような人じゃないようなよく分からない上半身が、ゆらゆらと空に浮かんでいた。

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