夢川姫子は遅刻中♡

ただの工業高校生

第1話

 いっけな~いっ、遅刻しちゃうっ!! 私、夢川姫子、16歳。入学式に遅刻寸前だよ!!

 も~、入学そうそう遅刻なんてしたら高校生デビュー計画が台無しだよっ!! 私のドジ!! 

 今度こそ素敵な恋をして、大好きな友達と遊んで、最高の青春を謳歌してみせるんだからっ!! 

 「うわっ」

「すみません。怪我はありませんか?」

「えっ…………は、はい……」

 曲がり角でイケメンとぶつかるなんて少女マンガみたいっ!! しかも、この制服私と同じ学校だ!! これってまさか………運命の出会い!? どうしようっ!! 私、彼にひとめぼれしちゃったみたい!!

 「立てますか? よろしければ、僕の手に掴まって下さい」

  キャー!! 彼の手と私の手が触れ合ってるっ!! 彼のきれいな顔がとっても近いっ!!

 ドキドキ、ドキドキ。

 このまま、時間が止まればいいのに………

 「怪我がないようで、なによりです。それでは、僕はこれで」

「待ってくださいっ!! あなたの名前は!!」

「名乗るほどの者でもないですから」

 ビュォォォォォ!!  

 わぁ、強風が!!

 目を開けたときには、桜吹雪が辺り一面に浮かんでいて、彼の姿は見当たらなかった。

 「……………行っちゃった」

 花びらを胸ポケットに入れて、お守り代わりにしておこう。大丈夫。私たちは、心で繋がっているから。

 彼に会うためにも、急いで学校に行かないと!!

 タッ、タッ、タッ、タッ。

 「ねぇ、そこの君。道に迷っちゃってさ~ 案内してくれる?」

 なんなの、この人たちっ!! 背中に隠した金属バットが丸見えよ!! 道案内なんて嘘でしょ!! 姫子、こわぁい!!

「オメェラ、かかれ!!」

「やめてよっ!!」 

 ドンッ。

 うわぁ!! なんか全員倒れてる!! さっき、怖くなって相手を突き飛ばしたのが効いたのかな? きっと、私の彼を思う気持ちが力になったのね!!

 さぁて、彼のもとへ急がなくっちゃ!!

 タッ、タッ、タッ、タッ。

「兄貴、こんなひょろそうな女に、ここまでしなくていいんじゃないですか? どう見たって、一般人でしょ。まあ、朱雀が焚き付けた案件となると、訳ありそうなのは分かりますけど」

「訳ありどころじゃない!! その程度だったら、精鋭をわざわざ50人も集めたりしないだろ!! …………なんかあんだよ」

 右、左、前、後ろ、上、下。

 あれ、女の人なんかいないけど………もしかして、ひょろそうな女って私のこと? また不審者出た!! 私って耳いいから、20m先でしゃべってる悪口も聞こえるんだよ!! しかも、建物の後ろに隠れてるの、バレバレなんだから!! 

 そうだっ!! 建物の二階からダイブして、穏便に通してもらおう!!

 よいしょ、っと!!

「うわっ」

「すみません。怪我はありませんか?」

「ヒッ……なんでっ…ここに」

「オニーサン達がおしゃべりしてたから、私も混ざりたいなーって!!」

「………そ、総員突撃!!」

 やだっ!! 姫子、か弱い普通の女子高校生だから、とってもこわぁい!!

 「もう、私に関わってこないでよっ!!」

 えいっ!!

「ウガッ」

「ギエッ」

「ゴブッ」

「ドヘッ」

「グハッ」

 シュタッ。

 うわぁ!! なんか、全員倒れてる!! やっぱり、愛の力って強いんだね!!

 さぁて、学校に急がなくちゃっ!!

 タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ……………ピタッ。

 来たか。

 「何の用?」

「夢川姫子さんですね? 俺は、朱雀帝門会副隊長の蔵内黎です。現隊長があなたに会いたいとのことなので、着いてきてください」

「嫌だと言ったら?」

「無理矢理連れてくるまでです」

「はーあ、分かったわよ」

「待たせました。タクシー、倉庫前まで」

「あいよ~」

「「……………………」」

「現隊長って、榊原宗佑のこと?」

「はい」

「ねぇ、宗佑とはどういう風に出会ったの?」

「………あなたに言う義理はないです」

「そう」

「俺は、何があっても隊長と離れません。仲間なら、悪事も一緒に背負います」

「仲間なのに、止めないんだ」

「………………タクシー、着きましたよ」

 バタン。コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ。

 「兄貴、連れてきました」

「蔵内、下がっていいぞ」

「…………はい」

 コツ……コツ……コツ……。

「久し振りだね。宗佑」

「あーあ。かつては鬼の隊長と呼ばれていたあなたも随分落ちぶれたんすね。ガッカリだ」

「………アンタこそ、変わっちゃったね」

「俺はこの会を日本一の暴走族にするんで、弱さなんていらない」

「日本一、か。昔読んだヤンキーマンガに憧れて、3人で約束したんだっけ」

「結局、あなたもコウジも会を辞めて、俺から離れていきましたけどね」

「…………………」

「…………こんなことする理由は何か、聞かないんすね。俺は、過去の呪縛を断ち切るためにあなたを連れてきたんすよ。俺の人生はろくなことがなくて、この先もずっと、ろくなことがないまま死ぬんだろうなって思ってた。そんなある日、大嫌いなヤツらにドロップキックを食らわせながら、二人が俺の目の前に降ってきたんすよ。その瞬間、生まれてはじめて生きる意味ができた。俺を救ってくれたのは、嘘くさい正義を語るヒーロなんかじゃなくて、人を下敷きにしながらVサインしてくるあなた達だった。二人の夢を叶えることが俺の生きる意味で、そのために何だってした。そう、何だって!! ………それなのに、二人は俺を裏切った!! 俺はまた一人になった!! あなた達と出会わなければ、こんなに弱くならなかったのに!! 結局、心が繋がっているなんて嘘だったんだ!!」

「……………………ごめん」

「今更、そんなことを言っても遅いんすよ。俺はもう…………戻れない」

「そう。……なら、手に持ってるナイフで私を刺せばいい。あの時は、お前を止められなかったけど、今回は、死んでもお前を止めてみせる。過去の弱さを捨てたいなら、私の心臓を貫いてからにしなさい」

「分かった」

 スー。ハー。スー。

「ウオオオオオオオオ!!!!」

「姫!!」

 ………………………ドサッ………カランッ。

「…………………なんで今更、優しくしてくるんだよ…………」

「宗佑」

「姫!! 大丈夫か!!」

「その声は……!!」

「お前まさか……コウジ、か?」

「そうだわ!! お前、バカ!! マジ、バカ!! 何やってんだよ!!」

「イタッ、イタッ、イタッ………お前こそ俺を裏切ったくせに!! ふざける、なッ!!」

「グハッ…………お前がやったことはやっぱ許せねぇし。二度と関わりたくねぇし。でも、姫を巻き込むのは、ちげぇだ、ろッ!!」 「グエッ」

「さっきの話途中から聞いてたけどさぁ。仲間同士で蹴落とし合って日本一になっても、うれしくねーよ!! そんなのお前が勝手に献身ごっこしてただけだろ!!」

「はぁ!? どの面下げてッ」

「それはこっちのセリフだッ」

 ガッ。

「日本一なんて、どーでも良かったんだよ!! 日本一なんて!! みんなで夢語って、広い世界見て、たまにワルさして、初めから俺達は最強だった!! それで、バラバラになるくらいなら、そんな称号いらねぇよ!!」

 ドスッ。

「オグッ」

「隊長を殴るなら、俺が相手になります」 

「……………ハハッ。なんだ、お前一人じゃねーじゃん。ピンチに駆けつけてくれる仲間のこと、ちゃんと見えてんのかよ!!」

「…………蔵内………………」

「……………すみません。俺は、あなたの助けになれなかった」

「………………………なあ、黎」

「はい」

「お前、会を辞めろよ」

「え」

「俺達の心が繋がっている限り、俺の選んだ選択がお前が選んだ選択になる。俺は、お前に悪事ばかりを選択させてきた。朱雀帝門会は俺の代で終わらせる。巻き込まれただけのお前は、さっさと逃げろ」

「…………あなただけは、巻き込まれたなんて言わないで下さい……俺は、何があってもあなたについて行きます。俺を助けたときに言ってくれましたよね。似た者同士だって。俺に真っ当な道を選んで欲しいんだったら、あなたが真っ当な道を選ぶべきだ」

「俺みたいな人間が、真っ当な道なんて選べるわけないだろ!!」

「じゃあ、私はどうなるの?」

「隊長と俺は違う。あなたは、普通の生活が出来る人間だ」

「普通の生活、ね………実は私、会を辞めた後もいろんなヤツに追い回されてたんだよね。まあ、当然なんだけど、これまでの恨みを晴らそうってやつが多くて。でも、気配を消して、透明人間みたいに生きるようになってから、パタリとそれがなくなったの。望んでいた普通の生活は、自分を塞ぎ込んだら簡単に手に入るようなものだった。私の生きる理由は、心が離れてしまった仲間と、当たり前で最高の青春を謳歌すること。日本一になったその先が、それを叶えてからの生きる理由がないのなら、もう一度私が、生きる理由になってあげる。今から、私の高校生デビュー計画に付き合いなさい」 

「グスッ……ズ…………こんな俺でも、いいんすか」

「もちろん」

「隊長。俺もついて行きます」

「感動してるとこ悪いけど、俺は学校行かなきゃなんで。これで今生の別れだな!!」

 タッ、タッ、タッ、タッ。

「待ちなさい!! あんたも道連れよ」

「俺達全員、同じ学校です」

「ゲッ。俺、学校では優等生なんで、こんな柄悪いのとか、少女漫画のヒロインぶってるのとかと関わりたくねーよ」

「はぁ? あんただって少女漫画に出てくるイタい王子様キャラやってるじゃない!! 名乗るほどの者でもないですから、なんて、お互いバレてんのに白々しいのよ。それに、アンタの名前は、漢字で皇子コウジって書くでしょ? ブブッ。王子様キャラの皇子。似合ってるわよ」

「アン!?」 

「はははっ。二人共、青春が分からないからって、少女漫画を真似する不器用なところとか変わってないな」

「「ヤンキー漫画じゃ昔と変わらない」」

「「そういう問題じゃない」」

 「それでも、やっぱり私はヒロインがいいな」

 あなたと目が合った瞬間、感じた高揚感。一目惚れし直した、その気持は本物だから。

 「いっけな~いっ、遅刻しちゃうっ!!」

 だって、王子様ヒーローにお似合いなのは、お姫様ヒロインでしょう?

 





 




 

 

 


 

 



 

 

  

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