第6話電車の中で

香川邦子は中年のオバサン。少々、腰が悪い。

仕事を終えて、電車の中。

カバンには、ヘルプマークのタグを付けている。

腰の手術から2年経っているが、また、ぶり返していた。

糖尿病患者でもあるので、ヘルプマークのタグは必要だった。

優先席は、学校帰りの高校生が占拠していた。

香川は、じっと優先席前のつり革に掴まっていた。

高校生は、スマホに夢中で香川のヘルプマークに気付かない。

苛立ちを覚えた。

乗車時間は50分。

既に、15分立っていた。

腰が痛む。


すると、高校生の1人が降りた。

すかさず、香川は優先席に座った。

腰の痛みが和らぐが、隣りの高校生には腹が立っていた。

あなた達のような、元気な青年は立ちなさいよ!


乗車、10分後、1人の老婆が優先席の前に現れた。

高校生はスマホに夢中。

香川は、老婆が可哀想で席を譲ろうとした。

「どうぞ、おかけ下さい」

「親切に、ありがとうございます。でも、私は次の駅で降りますから」

と、老婆は手すりに捕まり、次の駅で下車した。


しばらくすると、杖を突いたお爺さんが優先席の前に立った。

香川は、高校生を横目に、

「どうぞ、おかけ下さい」

「あ、ありがとう。でも、次で降りるから」

と、お爺さんは次の駅で降りた。


二度あることは三度ある。

今度は、妊婦さんが立っていた。

香川は、次も直ぐに下車すると思いながら、席を譲らなかった。

次の駅では妊婦さんは下車しなかった。

そして、次の駅も。

香川は恥ずかしくて、下に俯いたまま。

この、馬鹿高校生が譲らないのが悪いのだ。


15分間、妊婦さんは立っていた。

いたたまれなくなった、香川は妊婦さんに席を譲ろうとした。

「どうぞ。お座り下さい」

「はい。ありがとうございます。でも、次の駅で降りますから」

「そうですか。すみません」


「おいっ!」

と、声を上げる男がいた。年の頃は香川と同じくらいだ。しかし、杖を突いていた。

「オメェら、ここは優先席だぞ!立てよ!」

と、高校生に怒鳴りつけた。

高校生らは、目を丸くして席を立った。

香川がその男を見ると、男はにこやかに笑っていた。


自宅最寄り駅に到着した。

香川はこれからは、優先席を占拠する若者達を注意してみようと思ったが、内部疾患があったら可哀想だ。

それから、香川はリハビリを頑張り、座る事を選択しない身体となった。


香川は、また、電車で優先席に座る金髪の男女を横目に、怒りを覚えたが注意しようとは思わなかった。

それから、数日後、会社には自動車通勤するようになった。

帰りにスーパーに寄り、家族の元へ帰るのが日課になった。

今も思う時がある。

優先席を必要な方に譲る若者は増えたのであろうか?と。


香川は、優先席が本当に必要な人しか座れない規則が出来れば良いのにと感じていた。


「電車の中で」終

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