第4話オジサンの癖3
朝、オレは軽い頭痛を感じながら出勤した。
朝礼で、飯田係長が1人の女性を紹介した。
「大林紗千さんだ。皆んなと同じ仕事を担当する。高宮君、君が指導員だ。しかし、君より先輩だ。仲良く」
「大林紗千と申します。宜しくお願いします」
パチパチと拍手があり、高宮の隣りのデスクに座った。
「は、始めまして。高宮です。今日からお願いします」
「高宮君、宜しくね。私、馬鹿だから色んな事を何回も質問するけど、良い?」
「もちろんです」
オレは、この隣りの女性がМtFの人間だとは知っているが、何も説明が無ければ、完全なる美人の女性だ。しかも、胸まである。
余りを聴かない方が良いかもしれない。
オレは、助手席に彼女を乗せて、営業先を回った。
昼めし時間。
「大林さん、お弁当持ってますか?」
「ううん、無いから食べに行こうよ。焼き肉ランチでどう?」
「や、焼き肉は〜。匂いでお得意様に迷惑を掛けるかも知れないから、それ以外で」
しかし、大林は焼き肉屋を主張し、焼き肉ランチを2人で食べた。
「高宮君、私の性別わかるよね?何故、尋ね無いの?」
「性別は関係ありません。同じ人間ですから」
「……」
「はぁ〜、美味しかったね。高宮君。はいっ、ブレスケアと消臭剤」
と、言って大林はブレスケアをガリガリ噛んでマスクして、消臭剤で匂いを消した。
オレは、途中、コンビニへ寄り缶コーヒー2本買い、一本を大林に渡した。
「ありがとう」
と、大林は飲みだした。オレは、喫煙所でタバコを1本吸って、5時までに仕事は終了した。
今日は、華金だった。
LINEで同期の連中が飲みに誘ったがやんわり断った。
今日は、録画はしているが、大好きな漫才の日本一を決めるテレビ番組を楽しみしていたからだ。
「高宮君!」
と、声を掛けられた。
振り向くと大林と、前田課長だった。その背後には飯田係長が立っている。
「皆んなで、焼き肉屋行こうよ!」
と、大林は異動初日なのに、前田課長、飯田さを巻き込んで、皆んなでと、言った。
しかし、昼めしに焼き肉を食べたのに、まだ、この女性は焼き肉を食べたいのか?
オレはしぶしぶ、その提案に乗った。
焼き肉屋「ホルモン大学」
しかし、ホルモンだけの店では無い。
ユッケやセンマイ刺し、カルビもロースもある。
前田課長と飯田係長は、儀式の如く顔をお絞りで拭いた。
オレは後何回この光景を眺めなくてはいけないのか?
だが、大林も顔はメイクがあるからさすがに拭かなかったが、手を拭いてから首すじを拭いた。
オレは滑稽でならなかった。
まさか、今夜も生ビールを飲まなくてはいけないのか?と考えたが、前田課長は梅酒、飯田係長は生ビール、大林はハイボールを注文したので、オレもハイボールを頼んだ。
皆んなで乾杯した。
散々食べて飲んでいると、前田課長がこう言った。
「高宮君、実はね彼女、と言うか大林さんはうちの会社の社長の甥っ子さん……いや、姪っ子さんでね、君の人物を観察してもらったんだ」
大林はコクリの頷く。
「大林さん、うちの高宮はどうでしたか?」
と、飯田係長が質問した。
「まだ、若いけど良いね。この子はオジサンを馬鹿にする傾向が見られたけど、鉄は熱い内に叩けで、このまま上げちゃって良いんじゃない?そして、大事な事。優しいところ」
「じゃあ、秋の人事で決まりですかね?」
「うん」
前田課長が、オレに言う。
「高宮、おめでとう。来月からお前は係長だ。飯田君は課長だから。オレは常務だ。頑張れよ。オレ達がフォローするから」
オレは突然の事で夢を見ているようだった。
大林が言った。
「山口さんが、あっ、専務の山口さん。彼があなたの世間知らずでも、実直な所に惚れたらしいの。それで、私が1日行動をして、観察して、皆んなにOKを出したの。係長になったら、もっと忙しくなるけど頑張ってね」
ハイッ!
3年後。
「高宮係長、飲みましょうよ!」
「おっ、良いぞ。誰が来るんだ?」
「新人、3人と女子3人です」
御一行様は、「きも善」に向った。
オレは、お絞りで顔を拭き、首すじを拭き、胸元を拭いた。
そして、芋焼酎のお湯割りを飲んでいた。周りの若者がイヤな顔をする。
「か、係長、小指立ってますよ!」
「何だ?柴垣!オジサンはこうなるんだよ!お前らもこうなる。オジサンの癖を勉強しろよ」
「……はい」
「オジサンの癖」終
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