第19話 自責と他責

「...すみません」と、俺は頭を下げた。


 すると、合わせるように二人も頭を下げた。


「なんで頭を下げるの?」


「...俺のせいなんです。中途半端に首を突っ込んで...その結果...こうなってしまって...本当にすみませんでした」


「...事情はある程度聞いているよ。あなたたちは何も悪くない。なんとかしてくれようとしただけなんだから」と、優しい言葉をかけられる。


 そうじゃない...そうじゃないんだ...。

確かに全ての元凶は彼氏であるし、俺が関わっていなくても同じような結果になっていたのかもしれない。

それでも...かもしれない未来には何にも意味はない。

大事なのはこのいまの現実なのだ。


「...すみませんでした」


 ただ...頭を下げて謝る以外に方法はなかった。


「...そう。大丈夫、私はあなた方を許すよ」と、頭をやさしくなでられた。


「...」


 あふれそうになる涙をぐっと堪えて、俺はこぶしを強く握りしめた。


「...妹の部屋は2階だから」


 そうして、俺たち3人はてっしーさんの部屋の前に立ち、声をかける。


「あの...てっしーさん。俺です。国見です」


 しかし、当然返答はなかった。


 もしかしたら寝ているのかもしれない。

それでも俺は話を続けた。


「...てっしーさん...ごめんなさい。俺は...本当にどうにかしたいって思っていたんですけど...こんな結果になってしまって...。責めるなら俺を責めください。...責任は俺がとります。本当にごめんなさい」と、俺はそのまま部屋の前で土下座をした。


「...勘違いしちゃってたんです。仙道の件と雪花の件がうまくいって...自分ならなんとかできるとか思って...本当にごめんなさい」


 声は多分上ずっていた。

けど、そんなことはお構いなしに謝る。


 すると、そんな様子を見ていた二人も「ごめんなさい」と続いて謝る。


 やめてくれ。仙道...、雪花...。悪いのは俺なんだ。


 返答はなかった。

これ以上いても迷惑だと思い、俺達はその場を後にした。


 階段を降り、リビングにいたお姉さんに声をかける。


「今日はありがとうございました」


「いえいえ。返事はあった?」


「...いえ」


「そっか。じゃあさ、私から一つ頼みごとをしていいかな?たまにでもいいからこうして会いにきてくれないかな。きっと...それだけでもあの子のためになると思うから」と、少しつらそうな笑顔を見せた。


 そうして、家を出た。


 それからしばらく無言で歩いた。


 誰も...俺を責めてくれない。

こうなったのは俺のせいだといわれたほうがずっと楽だった。

いや、楽なんかしていいわけがない。

これが...俺にとっての償いなのだから。


 すると、雪花がふと俺を見ながら「あなたのせいではないわよ」とあらためて言われた。


「そうですよ!先輩は...悪くないです」


「...そんなわけ...ないだろ。俺が...首を突っ込まきゃ...」と、下をうつむく。


「もしかしたら、勅使河原先輩はこの世にはいなかったかもしれないわね」


「...そんなの」


「言っていることは同じよ。あなたが原因でこの一件ははじまったわけじゃない。元々始まっていたものなんだから、いずれはよくない結末になっていたはずよ。なのに、自分が関わらなければ穏便に済んでいたなんて妄想も甚だしいわ。...少なくても、私はあなたに救われた。あなたが居なければどうなっていたかわからない。あなたに救われた私の...私たちの前で...自分が関わらなきゃなんて言わないでよ...」



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084538730696


「...ごめん」


「だから...謝らないでよ...」と、あふれ出る涙を抑えようとしながら必死に拭う。


 すると、仙道は少し涙を貯めながら「私も同じです。私は...先輩に救われました。...だから...自分をこれ以上責めないでください」とそう言った。


 そんな言葉にまた涙があふれそうになり、下を向く。


 そうして、仙道と雪花に支えられながら俺は一人家に帰宅するのだった。



 ◇二人の帰り道


「...あの...生徒会長さん」


「...雪花でいいわよ。何?」


「...一時休戦しませんか?」


「一時休戦?」


「はい。私は...国見先輩のことが好きです」


「...そう。そうよね」


「...だけど、今先輩に寄り添って...彼女になるのはなんか違うと思うんです。だから...少しの間...先輩にそういう...アピールというか...アプローチみたいのするのやめませんか?」


「...私が彼を好きだという体で進んでいるけど...私は「じゃあ、先輩は私がもらいますよ?いいんですね?」


「...わかったわよ。飲むわ、その条件」


「...ありがとうございます。それと、もしこの後、先輩が誰と付き合おうと恨みっこなしですからね!」


「...えぇ。正々堂々勝負しましょう。落ち着いた後にね」

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