第13話 【勅使河原 詩】は助けを求める
「て、勅使河原さんは...いつも何の本を読んでいるの?」
勇気を振り絞りした質問だったと思う。
それから私たちはよく話すようになった。
「佐山くんはシェイクスピア好きなの?」
「...うん。ハッピーな物語より少し悲劇というか、そういう話の方がなんか共感できて...好きなんだ」
「ふーん。それは珍しいね」
「...僕の人生も悲劇のだから」
彼の生い立ちはかなり悲惨な物だった。
幼い頃から父親にDVを受けて、母親は10歳の頃に家を出て行った。
その後、DVを受けていた兄が父親を刺し、重体...。
それから親戚の家に預けられることになったのだが、そこでも親戚の兄弟からいじめられ、ずっと一人だった。
それでも何とか生き抜くために下手な笑顔をマスターしたらしい。
笑っていたら、何となく幸せな気になれた。
それに殴られても蹴られても笑っていたら気味悪がって、親戚の兄弟からの暴力もなくなった。
代わりに本当に笑っていても、少しだけ変な笑い方になってしまうようになったらしい。
こんな悲劇な人生だからこそ、シェイクスピアの作品が刺さったらしい。
私はそんな話を聞くたびに彼に惹かれて行った。
彼には人を魅了する何かがあって、きっと安生さんもそれに魅せられて好きになったのではないかと、何となくそう思った。
それからというもの、連絡先を交換して、学校だけでなくプライベートでも関わるようになって、いつの間にか休日に出かけるようになって...いつの間にか付き合っていた。
どちらから告白したわけではなく、雰囲気でキスをして...それから多分付き合っている...。
言葉にしなくても私たちは繋がっている...。
そう思っていたある日のことだった。
最初は些細なことだった。
「...髪の毛...ポニーテールがいいな」
「え?うん、分かったよ」
そうして、たまにポニーテール以外で会うと彼は露骨に機嫌が悪くなった。
それから外での服装を指示し始めたり...、二人きりの時はなるべく下着姿でいてほしいと言われたり...。
少しずつ指示する内容がエスカレートして行っていた。
けど、私の中で段々感覚が麻痺してきて...、そして気にならないことがあると手をあげるようにもなっていた。
それでも私は嫌われたくなくて、たくさん謝って言うとおりにした。
あり得ないほど恥ずかしいことをさせられたり、理不尽なことで殴られても、私が悪いって言ってくるのでそうなのだろうと思っていた。
それでも私は嫌われたくなかった。
見捨てられるくらいなら死んでもいいと思えるほどに。
完全に...洗脳されてしまっていたのだと、今ではそう冷静に考えられる。
そんな洗脳を解いてくれたのが...彼だった。
◇
図書室で少しぼーっとしていると、声をかけられる。
「てっしーさん。大丈夫ですか?」
「...国見」
生徒会をやっていた頃、1年生ながら私の仕事をよく手伝ってくれる優秀な後輩がそこにいた。
「...なんかすげー思い詰めてたように見えましたけど。てか、痩せた...ていうか、なんかこけてません?」
「...思ってても女子にそんなこと普通言う?」
「いや、俺は思ったことをそのままいうタイプなので!」
「...相変わらず変なやつ」
久々に他の人と話した気がした。
友達との会話さえしてはいけないと言われていたので、最近誰かと話をすることすら減っていた。
抱えていた爆弾...誰かに言いたくて、相談したくて、私はふとこんなことを言ってしまう。
「...助けて、国見」
「はい?」
そんな口をついて出た言葉に自分でも驚いた。何助けてって?何から?私は一体何を言って...。
その瞬間、私は気づいてしまったのだ。
自分が限界を迎えていることに。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084111679851
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