キトリニタス百貨店 翠アル
おさでん
欲望
最近。自分の中に、沢山の欲求がよく喧嘩していると感じることがある。
お腹が空いたり、眠かったり、欲しいものができたり、やりたいことが増えたり。
今まで生きていく中で、こういった欲求は生きるための信号・・?に近くて、
それが「欲求」という言葉でまとめられているのを知ったのは本当に最近。
少し意識して自分の中の欲求を整理してみると、
毎回優先順位が全く定まってなくて大喧嘩をしているのがわかる。
決定的なのは、最近恋人という存在になったアルフォンスに向かう気持ち。
愛おしくて、ずっと一緒にいたい。どんなものにも代え難い彼との時間が、永遠に続いてほしくて。
彼を大事にしたい。大切に扱いたいと思えば思う程湧いてくる、じっとりとしたよくわからない欲求が
綺麗な欲求を次々に塗り替えて来ようとしてくる。
そんな欲求が湧くたびに、自身の男たる象徴が急に自我を出し始める。
今まで寝起きに何故か起ち上がるか、疲れた時に仕方なく扱いて発散するぐらいで、
それが生きていく上での欲求に繋がっているなんて考えたことも無かった。
でもこの欲求が、絶対にアルフォンスへ簡単に向けていいものじゃないというのだけはわかる。
彼のことを考えると湧き出るこの感情に、名前はあるんだろうか?
オレには知らないことがまだまだ多すぎるんだな。
なんて事を考えて、ほこりがちらちら舞う自室の布団の上で貴重な休日を無駄にしていた。
そろそろルツさんたちが住んでいるマンションに引っ越した方がいいよなあ、寒くなってくるし。
と日課の腹筋トレーニングを軽くこなしつつぼやっと考えていた。
アルは今日来れないと言ってたけど、なんだかすっごく会いたい気分になっている。話したい事とか、したい事とか浮かばないけど、とにかくアルに触れて…どうでもいい話しながらごろごろしたいな。
でも、アルも執筆とかで忙しいだろうし…そんな無駄そうな時間過ごさせる訳にもいかないよな~…
なんて大きく体を伸ばしてため息をつく。
ジリリ!!
びっくりするぐらいの反応速度で起き上がる。こんな平日の昼間に玄関の呼び鈴がなる事なんて今まであっただろうか…いや、平日の休みが久々なだけか…と頭をぽりぽりかきつつ玄関へと小走りする。
「はーい、宅急便すか……」
がらりと戸を開けると、そこにはアルフォンスが立っていた。いつも通りツンと口を尖らせて、柔らかい髪の毛が風に撫でられて揺れている。
「え!?アル!!今日来れない筈じゃ…」
「…どうも。用事無くなったから遊びに来たんだけど。迷惑だったかな。」
綺麗で淀みのない青い瞳がじっとオレを見る。嬉しさで胸がぞわぞわして、今にも思い切り抱きつきそうになるのをぐっと堪える。
「全然!!寧ろ…会いたいなって思ってたからめちゃくちゃ嬉しいっす…!なんのもてなしも用意してないっすけど、入って!」
少しぎこちないアルの手を引いて中に入れる。
こんな時間から居れるのは滅多に無くて、どうしようも無く浮き足立ってしまう心を深呼吸で落ち着かせて、玄関の鍵を閉めた。
「スイは何してたの?」
布団をずらしてちゃぶ台を置いて、そこにアルの好きな水ようかんと冷たいお茶を置く。ちゃぶ台の前で姿勢よく座っているアルを見て、相変わらず強く抱きしめたい衝動に駆られる。
「なーんもしてなかったっす!布団でゴロゴロしてただけで…休みを無駄にしてたっす…」
「無駄なんかじゃないでしょ。いつもいっぱい働いてるし…寝転がるのだって立派な休み方だよ。」
微笑みながらそう言うアルは、水ようかんを小さく切り分けて口に運んでいる。ぷくりと膨らむ小さな白い頬が、水ようかんより美味しそうでぼやっと見つめてしまう。
「……欲しい?」
オレの視線を感じ取ったアルは、切り取って口に運ぼうとしていた水ようかんの欠片をオレに差し出してくれる。
「ちがう!アルのほっぺたが、なんだかこぼれ落ちそうで…美味しそうだな~…なんて…へへ…」
慌てたオレは、咄嗟につく嘘が見当たらなくて思ってる事をそのまま伝えてしまう。なんだか恥ずかしくて顔に熱が集中していくのを感じる。
「ふふ。困った子。僕は食べても美味しくないと思うっていつも言ってるのに。お昼ごはんまだ食べてないんでしょ。」
口に手を当ててくつくつと笑うアルが堪らなく愛おしくて、我慢できず後ろに回って包み込むように抱きつく。
やけど跡が直った今、前は出来なかったスキンシップができるようになってきていた。
無茶はさせられないけど、アルからもくっついて来てくれることも増えてきていて、正直とても嬉しい。
「まだ食べてないけど・・・うーん・・いらないかも・・。」
呟きながらうなじあたりに顔を埋めると、甘くて爽やかなアルの匂いに包まれる。
凄く安心するのと同時に、何だか凄く”お腹が満たされる”匂い。
きっとどこにいてもすぐに思い出せてしまう、大好きな・・・アルの匂い。
「・・っあ・・・スイ、なにするの・・・」
アルの聞いたことが無い上擦った声に意識が覚醒する。
気づくとオレはアルのうなじに軽く噛みついて舌を這わせていた。
血の気が一気に引いて、咄嗟に顔を離す。
「ご、ごめん・・!!!お、オレなにやっ・・て・・・」
視界がクリアになるのと同時に目にはいってきた光景に、じっとりとしたあの欲求が一気に広がっていくの感じる。
唾液がうなじを伝い、白くて消えてしまいそうな柔肌が微かに紅潮している。
耳まで顔を赤らめたアルが、煽情的な瞳でオレを見つめている。
心臓が破裂しそうなぐらい脈を打っていて息が苦しくなった。
「・・・いいよ。食べても。」
思考が止まる。
アルがその意味を理解しているのかはわからない。
でも、オレの中の欲求を搔き立てるのには充分な一言だった。
どれぐらい時間が立っただろう。
「っは・・ぁ・・・ん・・ぅ・・」
木々の擦れる音に混ざって、艶めかしい水音が部屋に響く。
時間なんて忘れるほど、ゆっくり、じっくりと無我夢中でアルの肌を口に含んでいく。
快感か、くすぐったさに体を震わせて逃れようとするアルの足を持って、
爪先から膝にかけて舌を這わせていく。
「だ、め・・!足は、きたっ・・ないから・・ぁ!」
「・・っは・・アルに汚い部分なんて・・ないよ」
優しくキスを落としながら、白くて今にも折れてしまいそうな細いふくらはぎに歯を立てて噛みつく。
一層上擦った声が耳に響いて、自身の物が痛いぐらい怒張しているのを感じる。
肌に蜂蜜でも塗っているのかと錯覚するぐらい甘く感じるアルの肌に、うっすら汗が浮かんで肌を滑っていく。
「ああ、勿体無い・・」
垂れる汗をしっかり舐めとっていると、伝って落ちてきた自分の額の汗が腕の上に落ちてアルの汗と重なり混ざる。
するとアルが震えつつも体を起こし、混ざり落ちそうになった汗をぺろりと舐め掬った。
「っは・・・しょっぱ・・スイが、そんな美味しそうに・・舐めるからっ・・気になっちゃったじゃん・・。」
「・・・好き・・大好き。」
考えるよりも先に口からでた言葉を、アルの中に注ぐように唇を重ねる。
いつもしているおやすみのキスなんかじゃない、粘膜と粘膜を擦り合わせる行為。
うまいやり方なんてわからない、とにかく今目の前で必死に縋るアルの全てを愛したい。
小さな舌を一生懸命オレの舌に絡めてくれるアルの目尻にうっすら涙が浮かんでいて、
より一層綺麗な瞳がきらきらと涙を孕らみながらオレを写している。
「ね・・っぇ・・スイ・・ぃ・・」
唇は決して離さず、息継ぎの合間に声を漏らしながらアルがオレの名を呼ぶ。
「これ・・っ・・しんどい、でしょ・・っ・・」
そう言ってするりと手で触れてきたのは、オレの欲が詰まりに詰まった部分。
どくんと重たく脈打つ感覚が全身を走った。
「・・僕だって、色々勉強っ・・したんだから・・」
ダメ、アル。オレはアルに無茶はさせてくなくて。
そう口から出す前に、アルは慣れて手つきで袴を脱がしていき・・・
「だ、だめーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
そう叫んで起き上がると、其処はさっきまでとは違う、日が暮れ真っ暗になった静かな自室だった。
どうやら考え事をしていたらそのまま寝落ちをしていた様子。
滝のように流れる汗と、痛くて破裂しそうな自分の息子。
「ゆ・・・ゆめ・・・・・・・・・・・・・・」
安堵と少しばかりの悲しみにほろりと涙を流す翡翠なのであった・・・
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