妄想魔法~科学を添えて~
るいす
第1話 異世界転移と妄想魔法
蒼白い光が教室に突如現れた。山崎勇次、四十代半ばの科学教師は、黒板の前で立ち尽くしていた。生徒たちも突然の出来事に動揺し、教室は一瞬静寂に包まれた。そして次の瞬間、全員がその光に飲み込まれた。
視界が回復すると、勇次は見知らぬ豪華な王宮の中に立っていた。足元には美しい大理石の床が広がり、頭上には荘厳なシャンデリアが輝いている。彼の周囲には、同じように驚愕の表情を浮かべた生徒たちの姿があった。
「ここは…どこだ?」
勇次は声を震わせながら周囲を見渡した。教室での授業の続きではないことは明白だが、目の前の現実をどう理解すれば良いのか分からなかった。
「先生、何が起こったんですか?」
「私たち、どこにいるの?」
生徒たちも不安げに問いかけてくるが、勇次自身も答えを持っていなかった。彼らは一様に困惑し、動揺を隠せない様子だった。その中で特に恐怖に駆られていたのは、教室の外の世界を知ることの少ない若い生徒たちだった。
「落ち着け、みんな。まずは冷静になろう」
勇次は生徒たちを安心させようとするが、自分の心臓の鼓動は激しく鳴り響いていた。未知の世界に放り込まれたことへの恐怖が、彼の胸に重くのしかかる。
だが、そんな彼らの混乱を一切顧みることなく、突然現れた甲冑に身を包んだ兵士たちが、生徒たちを無理やり取り押さえ始めた。
「何をするんだ!」
「離せ!」
生徒たちは必死に抵抗しようとするが、兵士たちの力は圧倒的だった。勇次もまた、腕を掴まれ、水晶が置かれた台座の前に引きずられていった。目の前には、高級そうな衣服をまとった王と妃、そしてその傍らに立つ若い皇太子の姿があった。彼らは、まるで異世界からの来訪者たちを品定めするかのように、冷ややかな視線を向けていた。
「これが、彼らか?」
王が低く威厳のある声で口を開く。
「ええ、陛下。全員をスキル確認のために水晶へ案内しております」
兵士の一人が答え、次々と生徒たちを水晶の前に立たせる。水晶に触れると、その人物が持つスキルや魔法が浮かび上がる仕組みだ。水晶が輝く度に、彼らの運命が決まるような緊張感が王宮に漂っていた。
ある生徒は「治癒魔法」の能力を持っており、それを見た王族たちは興味を示した。別の生徒は「炎術師」と判明し、即座に高く評価された。それぞれが王宮で役立つと判断されると、首に黒い首輪を付けられる。その首輪は奴隷の証であり、反抗を許さない呪いがかけられていた。
次に勇次が水晶の前に立たされた。緊張しながら手を水晶に触れると、その瞬間、水晶に「妄想魔法」という文字が浮かび上がった。しかし、表示された文字を見た兵士たちは一様に不満げな顔を見せた。
「妄想魔法?聞いたことがないぞ」
「そんな役に立たないもの、使い物にならん!」
不満を漏らす兵士たちを尻目に、皇太子が興味を示して声を上げた。「妄想魔法とは、いったい何だ?その力を見せてみろ」
勇次は戸惑いながらも、頭の中に浮かぶイメージに集中した。彼の脳裏には、かつて夢中になったテレビ番組のシステムを再現するための設計図が、鮮明にインプットされ始めた。詳細なデータや必要な素材までもが、まるで頭の中に直接送り込まれるかのように次々と現れる。
「…これが妄想魔法の力か?」
しかし、見た目には何の変化も起こらない。勇次がどれだけ集中しても、頭の中にある情報が実際に現れることはなかった。王や妃、そして皇太子も、何の成果も見られない勇次に対して失望を隠せなかった。
「無駄だ。妄想など、ただの空想に過ぎない」
王は冷たく言い放ち、勇次を手で追い払う仕草を見せた。それを合図に、兵士たちは彼を無慈悲に王宮の外へと連れ出し始めた。勇次だけでなく、役に立たないと判断された数名の生徒も共に放逐されることとなった。
「放逐された者たちは、もう王宮に戻ることは許されない。外で自分たちの運命を切り開くがいい」
彼らは冷たく言い渡され、王宮の外へと放り出された。勇次は地面に膝をつき、愕然とした。自分の力が通用しなかったことへの失望と、これからどう生き延びるかという恐怖が彼を支配していた。
だが、その心の奥底には、小さな希望の光が宿っていた。妄想魔法は確かに存在する。それが今は役に立たなかったとしても、この未知の力を使いこなすことができれば、自分の未来は変えられるはずだ。
「この力を使って、必ず生き延びてみせる…」
勇次は再び立ち上がり、共に放逐された生徒たちを見渡した。彼らの中には泣き崩れる者もいれば、希望を失いかけている者もいた。しかし、勇次は教師として、彼らを守り導く責任を感じた。
「みんな、ここからが本当の試練だ。一緒にこの世界で生き抜こう」
彼の言葉に、生徒たちは小さく頷き、次第に士気を取り戻していった。勇次の新たな冒険は、王宮の外から、そして妄想魔法という未知の力を頼りに、今まさに始まろうとしていた。
あとがき
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