【G使い】に覚醒した悪役令嬢、イケメン騎士の呪いを解き、命の恩人となる!~命を狙う者よ、後悔しても、もう遅い!!!!~【短編】

琴珠

短編

「思い出しましたわ!」


 ここは乙女ゲームの世界だ。

 自分はOLで、死因は不明だが、とにかく前世ではこのゲームをプレイしていた記憶がある。


「このままでは処刑されてしまいますわ!」


 前世の記憶を思い出したのはいいが、今の自分は【スーリア・ヴァイキ】というお嬢様キャラだ。

 金髪の綺麗な長い髪が特徴で、見た目は美人なのだが、中身は典型的な悪役令嬢キャラである。


 スーリアは、最終的に呪いの札で主人公の女性を殺そうとする。

 それには抜けたばかりの髪の毛が必要なので、主人公の髪の毛を寝ている隙に奪おうとしたが、実はそれは罠であった。


 主人公の妹に銃で何発も撃たれ「ふざけるなー!」と叫びながら、出血多量で死んでしまうのだ。


「どうしましょう?」


 と、ここでなぜか突然街へ飛び出したくなった。

 本来あまり一人で外出はしないのだが、前世は普通のOLだったので、ずっと城にいるのも退屈になったのかもしれない。


「王都は色々ありますわね! ゲーム画面とは違って、実際に歩けるのは最高ですわ!」


 乙女ゲームなので、RPGのように散策できなかった。

 それもあり、感動のあまりに踊ってしまう。


 が……


「いたっ!」


 転んでしまう。

 足をくじいてしまったようだ。


 そんなスーリアに手を差し伸べるのは、金髪のイケメン騎士であった。


「大丈夫ですか!?」

「え、ええ……はっ!」


 乙女ゲームなので、イケメンなのは珍しいことではない。

 だが、スーリアは思わず手を取るのをためらってしまう。


 なぜならば、この男性キャラクターはスーリアの前世の推しキャラなのだ。


「ありがとうございますですわ!」

「ここではなんです。俺の家に行きましょう」


 こうして、イケメン騎士【レヴィ・コシアズ】の家にスーリアは行くことになった。

 レヴィの家は、小さな木の家で一人暮らしらしい。


「軽い捻挫ですね」

「申し訳ないですわ……」


 スーリアはベッドに座り、レヴィに包帯を巻いて貰っている。

 まさか、推しキャラに怪我の治療をしてもらえるとは。


「ぐあああああああああああああああああっ!!」

「ど、どうしまして!?」


 治療を終えた後、レヴィは床に倒れた。


(そうですわ!)


 思い出した。

 レヴィは呪いに体を侵されているのだ。


 その呪いをかけた正体は魔王だ。

 実は幼少期にレヴィは魔王と出会っており、呪いをかけられた。


 スーリアが死ぬ前には呪いで亡くなっていたので、残された時間は少ない。


(助けたいですわ!)


 そう強く願った時、またしても思い出す。

 前世の記憶と共に、特殊能力を得たのだった。


(【G使い】……)


 頭の中に使い方は全て詰まっていた。

 これならば、呪いを解くことができそうだ。


「私、なんとか呪いを解くことができそうですわ!」

「そうなんですか!?」

「勿論ですわ!」

「そ……う……で……す……か……」


 レヴィは気を失った。

 今の内に呪いを解くとしよう。


「【G使い】発動ですわ!」


 G使いのGとは、ゴキブリのことだ。

 スーリアは右手の平に、1匹のゴキブリを召喚した。


「呪いを食べ尽くしてくれませんこと?」

御意ぎょい


 ゴキブリは、レヴィの口から体内へと侵入。

 1分程で呪いを食べ尽くしたのだ。


 ゴキブリはレヴィの体外に出ると、粒子となって消滅した。


「あれ!? 体が楽だ!」


 レヴィは目を覚ました。

 立ち上がると、小さくジャンプなどをして、笑顔になる。


「本当に治してくれたんですね!? なんとお礼を言っていいか……」

「では、私と付き合ってくれませんこと?」


 当然OKしてくれるだろうと思っていた。


「1日だけ時間をください」

「え!?」

「貴方と私では身分が違い過ぎます。どうか、お時間をください」

「分かりましたわ」


 確かに、現実は厳しい。

 スーリアは令嬢なので、身分の差があり過ぎるのだ。


 勿論、スーリアはそんなこと全然気にしていない。

 綺麗ごとなどではなく、前世は普通のOLだったので、むしろこんな紳士的な男性は自分と釣り合うのだろうか? と、考えてしまう程であった。


 スーリアはレヴィの家から出て、城へ戻ろうとする。


「一人で歩くのはあぶねぇぞ? へっへっへ!」

「なっ!」


 だが、突然大男に抱き抱えられ、裏路地へと連れられてしまう。


「金出せや!」

「嫌ですわ!」

「なら死ねぇっ!」


 大男は剣を抜こうとするが、すぐにその動作は中止された。


「悪かったな」

「いえいえ! 気にしてないですわ!」


 大男はどこかへ去っていった。

 なぜ……?


「成功しましたわ!」


 実は、先程【G使い】を発動させ、1ミリ程のミニゴキブリを召喚し、それを大男の腕の皮膚を突き破って体内に侵入させたのだ。

 そのまま体内を通って頭へと昇っていくと、脳を食べ尽くし、食べた情報をコピーした脳をミニゴキブリが生成。


 ただ生成しただけではない。

 生成する際に、性格を書き換えた。


 その為、大男は急に穏やかとなったのだ。

 おまけに、今後もし悪いことを考えようとした際は、そのたびに脳に住むゴキブリが脳を再構築する。


 このゴキブリは生物の体内であれば生き続けることができるので、これでもうこの大男は悪さをできないだろう。



 次の日。

 レヴィの家にて。


「答えを聞きたいですわ!」

「申し訳ございません! 貴方とは付き合えません!」


 やはりそう来たか。

 事情は分かっている。


「魔王を倒しに行くんですわよね? そうしたら、死ぬかもしれない。だから私に悲しい思いをさせない為にも、振ったのですわよね?」


 そう、ゲームでのレヴィは呪いがかかったまま、魔王の元へと旅立つのだ。

 だが、魔王の元へ辿り着くことはできなかった。


 呪いのせいだ。

 今はそれもないが、それでも魔王は強い。


 おそらく勝てないだろう。

 実際、生還できる可能性はかなり低い。


「お見通しですか……流石です」

「もし、魔王を倒したらその時は付き合ってくださる?」

「それは勿論です! ですが、おそらく俺は……」


 魔王に勝てない。

 そう言いたいのだろう。


「私がいますわ! 一緒に魔王を倒しましょう!」

「貴方が!? 無理です!! 貴方は魔王を甘く見過ぎています!!」

「では、実力を証明してみせますわ!」



 王都から少し離れたダンジョンにて。

 黒い10m程の巨大なドラゴンが叫んでいた。


「ブラックドラゴン。かなり強いモンスターですが、魔王に比べれば全然です。どうです? 貴方は倒せるんですか?」


 諦めさせる為に、あえて厳しい言葉で接し、更には無理難題を言っているのだろう。

 とは言っても、スーリアにとっては無理ではないのだが。


「ただ、大きいだけですわよね?」


 スーリアは能力を発動させる。


「【G使い】発動! ゴキブリ100000万匹召喚! ブラックドラゴンを食い尽くしなさい!」

『御意』x100000万匹


 あっという間にブラックドラゴンの姿は消え、100000万匹のゴキブリも粒子となって消滅した。

 予想外の結果を見て、レヴィは腰が抜けたのか、座り込んでしまう。


「なんという力! 貴方は一体!?」

「G使い……とでも言っておきましょうかね?」



 それから時間が経過し、2人は魔王の元へと旅立ち、そして……


「グワッハッハッハ! 俺が魔王だ! って、お前! どうして呪いが解けているのだ?」

「私が解きましたわ!」

「なんだと!? 小娘ごときに何ができると言うのだ!!」

「運命を変えることですわ!」


 こうして、魔王城の魔王の部屋で戦いが繰り広げられようとしていた。


「行きなさい!」

「おう!」


 スーリアが合図をすると、彼女の背後の扉から、魔王幹部たちがやって来た。

 幹部達は、魔王に襲い掛かる。


「裏切ったのか! お前ら!」

「魔王様! もうこんなことは辞めましょう!」

「そうです! 人間と仲良くしましょう!」


 一体どうなっているのだろうか?

 答えは簡単だ。


 大男の時と同じように、ゴキブリに脳を食わせたのだ。

 結果、幹部達は平和主義者となった。


「黙れえええええええええええええっ!!」


 なんと、魔王は驚くべき行動に出た。

 自分の仲間を食べているのだ。


「ぐ……っ!」


 あまりの光景に、レヴィは手を口で押さえ、吐きそうなのを我慢する。


「酷い……!」


 スーリアは、思わず右拳に力が入った。


「許しませんわ!」

「無理だ。今の俺は幹部を食い、今までよりも大幅にパワーアップしているのだ!」


 そんな魔王にゴキブリを放つが、弾かれる。


「そんな虫ごときに、俺の皮膚が破れると思うなよ!」

「そうですか……残念ですわ」


 スーリアは、魔王の元へと走り、魔王へ触れる。


「ハッハッハ! 物理攻撃か?」

「違いますわ!」


 魔王がスーリアを殴ろうとしたので、すぐにレヴィはお姫様抱っこでスーリアを救出し、離れる。


「終わりましたね」

「ですわね!」


「お前ら、何を言っている?」


 首を傾げる魔王だったが。


「うわああああああああああああああっ!!」


 自らの体を見て、叫んだ。


「なんだこれは……!!」


 魔王の体からゴキブリが出てくる。

 いや、違う。


 そう見えるだけで、実際は魔王の体……正確には魔王の細胞の1つ1つが次々とゴキブリ化しているのだ。


「おのれえええええええええええっ!!」


 魔王の姿が完全に見えなくなると、彼の代わりに残ったのは、大量のゴキブリだけであった。
































 魔王を倒し、1年が経過したその日。


「スーリア、とっても綺麗だよ!」

「貴方こそ、とっても素敵ですわ!」


 王都の式場にて、2人の結婚式が開かれた。


「お似合いです!」

「うおおおおおお!」

「英雄!!」


 2人は魔王を倒した英雄として、皆に祝福された。


 ちなみに魔王は、レヴィが王より託された聖剣【エクスカリバー】にて討伐されたことになっている。


 それがないと、魔王は倒せないハズだからだ。


 しかし、実はそんなものがなくても、魔王は倒せた。


 それは、なぜなのだろうか?


「ねぇ、愛ってなんなのかしら?」

「突然どうしたの?」


 2人は魔王を倒した。


 本来ならエクスカリバーを使わなければ倒せなかった魔王。


 実は、本来ゲームでも最後まで倒すことのできない存在だった。


 なぜ倒せたのだろうか?


 「愛」、それこそが今回の戦いで、起きた奇跡の力ではないのだろうか?


「愛って言うのは、きっと奇跡なんだよ。本当の愛っていうのは、もしかして、ほとんどの人は手に入れられないのかもしれない」

「私達も?」


 冗談のように笑うスーリアに対し、レヴィは自身満々に答える。


「いや、もう手に入れているさ」






 愛というのは、奇跡を起こすのに必要な力だからだ。






 魔王との戦いでそれを起こした2人は、本当の愛を手に入れている。






 きっと、そうだろう。

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