Ⅶ 最後の問いの答え

城の中心に位置する搭の時計が真夜中の12時を指している。

城内のとある廊下で、私はハートの女王としてのドレスを着ずみ、淡い青のリボンが付いた青いワンピースを着ていた。

ふと、何故かそこにあった鏡に映る姿は妙に懐かしく思えて、いつもの自分よりも少し幼さを感じさせられている。

否、これは私が初めて白うさぎを追い掛けて、この世界へ来た時の姿である。


「私は何度、あの白いうさぎを追いかけるの?」


鏡に映る私は今にも泣きたそうな顔をして、自分に問うている。この世界へ来て、ハートの女王になったはずなのに…私は何度も繰り返している。

突然、目の前に“あの日”の白うさぎが現れては、周りの景色が曖昧な色の世界に変わる。


「大変だ、早くお城に行かないと!」


服を着て器用に二足歩行する、へんてこな白いうさぎ。いつも彼は首からさげた時計を見ると慌てて走り出す。

私は戸惑いながらも“あの日”と同じように白うさぎを追い掛ける。何故?

どんどん下に行くように白うさぎを追い掛けていると、私はふと立ち止まる。自分は何をしているのだろうか。


「私は…」


曖昧な色の世界から、良く知った赤い色ばかりのお城の庭へと景色が変わった。

今、自分は“何”をしているのか…何故こんな所で“アリス”をしているのだろうか。


「ここでやめるのか?」


突然に掛けられた声…お城の庭の花壇から、紫色の煙が上がっていた。

そちらに目を向ければ赤いハートの花壇で優雅に水タバコを噴かしている、いもむしの姿があった。


「いいか、わたしは“あの日”も聞いたぞ。もう一度だけ問おう」


“あの日”と同じようにいもむしは私に問うている。私はまた、さらに“あの日”の記憶を思い出していた…。

私は“あの日”、まるでわざとらしく追い掛けて来いという白うさぎを不振に思いながらも追い掛けてこのへんてこな世界へ来た。

そして私は“アリス”として、良く知る“不思議の国のアリスの物語”を順調に辿り、元の自分の世界に帰るはずだった。

それなのに、私は…いもむしの最後の問いに答えさえすれば、家に帰れたのに。


ーーーアリス、お前は“何”だ?


“あの日”も今も、いもむしからの問いに迷う。私は答えられずに、“アリス”ではなくなったのだから。

それはこの世界での“迷子”。迷子はこのへんてこな世界では存在できないことを意味する。


「私…私は…!」


必死に答えを探し、私は世界に迷う。

いもむしの真っ直ぐな視線が私を急かして追い詰める…お願い、その目をやめて。

どれくらいの時間がたったもだろう…いや、時間なんて、まったくたっていないのかもしれない。そして、私は心を決めて最後の問いに答えていた。


「私は、この国の


いもむしから見て、もう彼女の瞳に迷いの色は無かった。

また彼女も消えてしまうのではないかと心配していたが、やっと自分の在るべき場所を定めてくれたらしい。


「やあ、ハートの女王。わたしの生きるこの世界、この国をよろしく頼む」


いもむしは一度水タバコをやめて、ハートの女王の前に進み出る。

臣下の1つのカードとして、この国の最高権力者であるハートの女王に首を垂れていた。気が付けば他のカード達もハートの女王の前に跪いて臣下の礼をとっている。

今代のハートの王は、ハートの女王の下に着く形に収まるらしい。

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