第11話 対抗戦

弥園「うっ……ふぅ……はぁ……」



源「……ここで終わりだな。体が限界だ。これ以上はもたない」



口元を抑え、片膝をつく弥園を見て、源はそう言う。

既に日は暮れている。



弥園「はぁ……うん。わかった」



飲み物を飲み、少し休憩をとる弥園と源を、枢機はジッと見ている。

落ち着いた頃合いを見て、枢機は話しかける。



枢機「……明日香と言うガキに聞いたが、お前らは実力があると聞く」



弥園「……私としては、強いと思ったことはありませんが」



源「あたいは強いぜ!一学年の中で、負けた奴はいないからな。勿論、凛香も強いがな」



対照的な返事をする二人。



枢機「……それでもなお、強さを求める理由はなんだ?」



今までとは違い、真剣に問うているのだと感じた二人は、己の本音を話す。



弥園「理由は二つ。一つ目は対抗戦で勝つため、二つ目は、家から自由になる為です」



枢機「対抗戦?」



初めて聞く「対抗戦」という言葉を枢機は反芻する。



源「説明されてないのか。対抗戦っていうのは……」



対抗戦。

これは一学年を対象に行われる試合であり、今から四か月後に行われる。

ルールは以下の通り。



壱。各組の生徒から選出された代表選手二名が試合に参加できる。



弐。一組と二組、三組と四組、五組と六組、七組と八組、九組と十組とで試合をし、この試合で勝った五組が次の試合に参加できる。



参。次の試合は総当たり戦で、勝った回数が最も多い組と、次点で多い組が決勝戦に参加できる。



肆。決勝戦で勝利した組には景品が送られる。



伍。試合で重傷者や死者が出ないよう、真剣では行わない。また、魔法も相手を殺害する目的で使用してはならない。



陸。対抗戦は一学年だけでなく、他の学年の生徒も観戦することができる。



源「……と、おおまかな規則はこんな感じだ」



弥園「ここで勝てれば景品がもらえる。それに、活躍すれば注目を浴びるから、それで強い人から稽古をつけてもらえる可能性も高まる」



枢機「……なるほど」



枢機は顎に手をあて、視線で先を促す。



弥園「そして、一つ目の理由と二つ目の理由は関係しています」



弥園は俯いて拳を強く握る。



弥園「私と巴は五摂家で生まれ、五摂家の一門として相応しい教育を受けてきました。ただ、五摂家はどこも保守的で、政略結婚をさせられることになって……。しかも、その相手がただのクズで変態。冗談じゃない!」



語気を強め、不快な感情を隠そうともしない。



源「あたいも凛香の相手と会ったことがあるが、ありゃ勘弁だな。太っているし、性格も傲慢で怠惰。気遣いもできないし、いやらしい目線を常時向けてくる。それだけならまだしも、権力で握りつぶされたが、過去に女性を強姦したことがあるらしい」



弥園「育ててくれた恩はあります。ですが、自分の人生をドブに捨て、変態に嫁ぐのは無理です。そこで、家から抜け出す条件として対抗戦で優勝するよう言われたのです」



源「対抗戦で優勝するってことは、学院に入って僅か半年弱で実力をつけたということ。厳しい鍛錬をこなせる精神に継続力、才能もあるってことだから、伸びしろもある」



弥園「対抗戦で活躍して家の名声を上げることを対価に、家から解放される。そのためにも強くなる必要があるんです」



嫌悪感で顔を歪める。



枢機「……強くなるのは良いが、今のままでは到底無理だろう」



弥園「……わかってます。南野先生と模擬戦を定期的にしていますが、それでも……」



枢機「南野というのは、今日教鞭をとっていたあの小娘か」



弥園「小娘……。南野明日香先生です」



弥園(たいして年齢変わんないでしょ……)



源「あたいとも模擬戦しているが、これ以上は厳しいな。あたいも強くなりたいんだが、なにか切っ掛けがいる。決勝戦までは楽勝だと思うが、あたいらと一組の鍋島と三好は相性が悪い。油断すれば負ける可能性がある」



枢機「……」



枢機は顎に手をあてて何かを考えている。

彼は徐に、右手の人差し指を上げた。



弥園「?」



源「?」



この動作に二人は不思議そうな顔をする。



枢機「……なるほど。そういうことか」



彼女らの様子に、合点がいった枢機。



枢機「おいガキ。次の小娘との模擬戦は何時だ?」



源「……明日だ」



弥園「火曜日の放課後、ここで模擬戦をしてます」



枢機「そうか」



彼は不敵に笑い、こう言い放つ。



枢機「喜べ。貴様らを俺が鍛えてやる。小娘と共にな」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る