第8話 授業 其の一

明日香「迷宮が世界で最初に発見されたのは今から百年前、我が国の歌海県にある若宿山です。そして、この件を皮切りに世界でも迷宮が発見されだしました」



明日香は教科書のあるページを開くように言う。

そこには、世界地図と迷宮が各国にいくつあるのかを示す図があった。



明日香「図を見るとわかるように、日本紫雲国、アメリカ=パヴェア連合帝国、イギサピユ=リスセエ連合王国、ドイツ神意帝国の四大列強を中心に、世界中に迷宮があります。次のページ」



明日香、生徒達がページをめくる。



明日香「この各地にある迷宮は、何故できて、いつ生まれ、誰がつくり、どのように作られたのか、その全てがわかっていません」



明日香は隣のページを見るように言う。



明日香「そして、迷宮には潜索者と同じく等級があります。低い方から、序級、四級、三級、二級、一級、特級に分類されます。私は四級地、まあ空に昇格しましたが、そこから天に上がり、更に昇格することで三級地に、となります」



そのページにはピラミッド型の図があり、そこを指しながら説明する。

そして、明日香はある女生徒を指名する。



明日香「さて弥園みそのさん。潜索者が昇格する条件はなんでしょう?」



弥園という生徒は口を開く。



弥園「昇格する潜索者等級と同じ等級の迷宮を一人でボス部屋まで行き、ボスを討伐する。ですね」



凛とした、透き通るような声。黒いロングヘアに、気の強さを表すような釣り目。明日香と同様、顔も整っている。



明日香「その通りです。私は四級空の迷宮を攻略しましたので、四級空に昇格できたというわけです」



枢機は弥園をジッと見つめる。

明日香は次のページに行くように言う。



明日香「そして、この迷宮には幾つかの法則があります。常識と言ってもいいでしょう。さて、それらは何だったか、わかる人は一つ言ってください。何でも良いですよ」



明日香がそう言うと、複数の生徒が手を挙げる。



明日香「はい。上野くん」



上野という男子生徒が答える。



「常灯の常!迷宮内は常に照明で照らされているという法則です!」



明日香「その通り。次は、本多くん」



「はい。禁外の常。迷宮内のモンスターは外に出てこない、ですね」



明日香「正解。次、宮川さん」



宮川という女生徒が答える。



「残滓の常。モンスターの死骸はそのまま残る、です」



明日香「よし。では次、四つ目。石塚さん」



波伝はでんの常で~す!電波とかは普通に届くから、配信が可能になってる!」



明日香「素晴らしい。良く覚えていますね。それでは五つ目、筑瀬さん」



「はい。入禁の常。ボス部屋に入った人が全滅するか、ボスを倒すまで人は入れない」



明日香「そうです。この五つを『五常』と言って、迷宮の中心的な法則ですね。エネルギー保存の法則や質量保存の法則のようなものです」



明日香はチラッと枢機を見る。



明日香「とはいえ、その内”入禁”と”常灯”は破られましたが……」



生徒もチラッと枢機を見る。

当の本人は、後ろの黒板に書かれた知らせを見ている。



明日香「……まあ、他にも細かな法則はありますが、それは置いておきましょう」



明日香は授業を進める。

教科書の内容を中心に、明日香が体験したことも教えていく。

主な迷宮、その構造、潜索者関連の法律、協会の構造などなど、潜索者として生きるうえで必要な知識を教えていく。



枢機は窓の外を見たり、後ろの黒板に落書きをしたりしていたが、時たま生徒の教科書を覗いていた。



そうやって授業を進めていくと、授業終了のチャイムが鳴る。



明日香「では一時限の授業はこれで終わりです。二限は訓練ですので、着替えた上で練習場に集合してください」



生徒は声を揃えて返事をする。



明日香「次は練習場に行きます。先に案内しますので、そこで待っててください」



枢機「……訓練か。いいだろう」



明日香は練習場へと枢機を案内する。

授業をした校舎とは少し離れたところに練習場はある。

大勢が鍛錬できるよう、陸上のトラックが十個以上入るほどの広さにしてある。

地面が土なのは、訓練による破壊があっても修復が速やかに、簡易にできるようにちう狙いだろう。



明日香は枢機をその場に残して着替えるために練習場を後にする。

その際、どこにも行かないようにとお願いする。



枢機「……」



授業が始まるまで練習場には誰もいないため、胡坐をかいて座る。

目を瞑り、臍の前で両手で球を作るようにする。



枢機「……」



直後、枢機の周囲には無数の球が生まれる。

燃え盛る球、氷の球、岩の球、雷の球、水の球、霧の球などなど。

それらは枢機の周囲を浮遊する。

更に、それらをそれぞれ囲むように紫色の正方形の壁が生まれる。



それらは枢機の周りを高速で移動している。



枢機は、何も喋らないままだ。


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