第7話 異相学院
橙枳 異相学院橙枳校
枢機「……これが異相学院か。学び舎にしては大きいな」
明日香「今や、世界で一大事業となっている迷宮探索業を行っているのが潜索者です。その潜索者を育てる専門学校みたいなものですから」
橙枳の中央から少し離れた場所に異相学院はある。
その敷地は広大で、普通の大学を凌駕する。
侵入者が入れないよう、高い柵で敷地を囲い、入り口には警備員が数名立っている。
明日香はポケットからカードを取り出すと、入り口の警備員に差し出す。
受け取った警備員はポケットから機械を取り出すと、カードを機械にかざす。
ピッ!という音がすると、カードを明日香に渡す。その際、枢機をチラッと見る。
「南野同志。どうぞ」
明日香「はい」
敷地に入ろうとする人は皆、警備員にカードを渡しているところを見るに、あれは入校証のようなもので、警備員は入り口でそれを確認することで部外者が入ることを防ごうとしているのだろう。
「……どうそ」
明日香を通した警備員は枢機を見ながらそう言う。
カードを持っていないが、何故か入校が許された形だ。
枢機「……」
枢機は黙って警備員に近づくと
枢機「ご苦労」
そう言って警備員の手に、一切れのメロンを皿に盛られた状態で強引に渡す。
「え?ちょっ……」
警備員は何か言おうとするが、それを無視して枢機は明日香の元へ歩いていく。
「……一体どこから?……」
「めっちゃイケメン~!」
「配信でもイケメンだったけど、生はやばい!」
「本当にいやがったのか……枢機とかいうやつ」
「まじで明日香と一緒にいるぜ。協会は奴の同行を認めたのか?」
明日香(……あ~うるさい。やっぱりこうなるか……)
異相学院の敷地内を歩いていく明日香と枢機の二人だが、当然二人きりではなく他の人もいる。いるのだが、その彼彼女らは往々にして若い。十代二十代くらいの年齢の人が殆どであり、彼らは非常に顔が整っている枢機や、彼が明日香と一緒にいることに驚き、注目している。
枢機「……」
肝心の枢機は、彼らの声や視線を全く意に介さないで学院内を歩いている。
明日香(気にするだけ無駄か……)
明日香はそのまま黙って歩いていく。
敷地内に複数建てられた校舎の内の一つで、入り口から真正面にある一際
大きな校舎の中へ入っていくと、自分の下駄箱近くで外履きを脱いで中の上履きを取り出し、外履きを入れると上履きを履く。
ここで、明日香は枢機が上履きを持っていないことに気付いて「あっ」と声を出すが、
枢機「靴に汚れは付いておらん」
と枢機は言って外履きのまま上がっていく。
明日香は、何も言えずにその行動を見ていた。
明日香「……はあ~」
明日香は枢機と並んで歩く。
明日香「このまま二階に行きます。そこで授業をするので、教室の後ろで見ていてください」
枢機「……。ん?」
明日香「どうかしました?」
枢機「……いや、良い。何でもない」
明日香「?」
廊下を真っ直ぐ歩いて”教員室”と書かれた部屋に入る。
明日香「南野明日香です。おはようございます」
「ああ。おはよう」
「南野さんか。大変だったね」
明日香が挨拶すると部屋の教員も挨拶する。
が、彼らはチラチラと明日香の後ろの枢機を見ている。
やはり気になるのだろう。
明日香「ここで待っててください」
明日香は枢機にそう言うと、室内に多数あるデスクの内の一つに向かって歩く。
そこのデスクにある幾つかの本を取って脇に挟む。
明日香「では行きましょう」
明日香は枢機を伴って歩いていく。
二人が廊下を歩いていくと、チャイムが鳴った。授業開始のチャイムだろうか。
明日香が”一年十組”と書かれた教室の扉の前で止まると、その扉を開ける。
枢機は、明日香が開けたのとは別の扉を開けて中に入る。
明日香「授業を始めますよ。……皆さん、後ろを見ない」
中に入ると、三十名ほどの生徒が椅子に座っていた。
……が、一名を除いて、皆は後ろの枢機を見ている。
教室の廊下側の壁には窓が付いており、廊下の様子が教室内から見えるため、枢機が後ろの扉に歩いていく様子も教室から見えていた。
明日香が注意したことで生徒たちは正面を向く。
明日香「さて、今日は皆さんが異相学院に来てから一か月が経った日です。ので、今まで学習した内容を復習すると共に、新しい知識を肉付けしていきます」
明日香は持っていた本を教卓に置くと、その内の一冊を持って開く。
明日香が同じ本を開くように言うと、生徒も開く。
明日香「さて、まずは迷宮の歴史からおさらいしましょう」
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