第13話 戦うロビン
「離せ! 離しやがれ!」
じたばたする男の後ろで、他の男が身構えた。
「てめぇ! そいつを離せ!」
男が手にしているのは、どこで拾ったのか直径が5㎝ほどの薪だった。
クロスに詰め寄ろうとしているその男の腹に、ロビンが頭から勢いよく突っ込んでいく。
オペラはおじいさんを助け起こそうと駆け寄る。
ドシンと音がして、男とロビンが一緒に転がった。
「大丈夫か?」
クロスの声に頷いて、素早く起き上がろうとするロビンの足首を、男が掴んだ。
「このクソガキが!」
男がロビンの足を力任せに引っ張る。
顔から地面に叩きつけられたロビンだったが、無茶苦茶に足を動かして抵抗した。
「やっぱり神力がないと不便なものだ。このままではお前の拳を砕いてしまうかもしれん。そうなるとお前は働けなくなるから野垂れ死に確定だな。さあ、どうする?」
「あ……あ……」
男がおろおろしている間に、拳がミチミチと音を立て始める。
「ま……待ってくれ! 悪かった、俺たちは頼まれただけなんだ。謝るから、手を離してくれ」
クロスはロビンから視線を離さず真っ青になって手を抜こうとしている男に言った。
「おじいさんを殴ったのはどっちだ?」
返事をしないままクロスの手から逃げようとする男の拳がまたミチミチと音をたてる。
「待てっ! 待ってくれ! あいつだ。俺は見てただけだ」
「お前って噓つくと小鼻が膨れるって言われたことない?」
クロスが悪い顔で男に視線を戻した。
「あ……いや……」
男が言い訳を探していた時、ドンッと音がして襲撃犯2人が壁に叩きつけられた。
「うぎゃぁ!」「ふぎっゃ!」
表通りからルナが駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん!」
ヘルメがマカロを優しく降ろしてから、痛みで呻いているおじいさんを抱き起こす。
「ありがとうオペラ。君は凄い男だね」
マカロに抱きつかれながら半泣きになっていたオペラがふにゃっと笑った。
その声に頷いたヘルメが、オペラの傷に手をかざすと、すぐに痛みが消えたようだ。
「あれ? もう痛くない……」
「そりゃ何よりだ。オペラが強いからだね」
マカロはオペラにしがみついて泣きじゃくっている。
そんな弟の頭を撫でてやりながら、よく頑張ったと褒めているオペラ。
ルナとロビンがおじいさんに駆け寄った。
「おじいさん! 大丈夫? どこが痛いの?」
ルナが半泣きでトムじいさんの頬に手を伸ばした。
「ああ、ルナ。大丈夫じゃよ、このくらいの傷なら何度も経験しているからの。泣くんじゃない」
おじいさんが不自由そうに手をあげてルナの頭を撫でてやった。
「おじいさん……ごめんね。一緒に帰れば良かった」
ロビンが拳を握りしめてそう言うと、おじいさんが切れた唇を動かした。
「いや、お前たちが無事で良かった。もっと若けりゃやり返してやるところじゃが、なんせ神経痛が痛んでのう。なさけないことじゃわい」
ロビンの目からポロっと涙が零れた。
「あの子はお前の友達かの? 勢いよく走ってきてその男の腕にしがみついてなぁ、ワシを殴ろうとするのを止めてくれたのじゃ。勇敢な子じゃよ。よく礼を言っておいておくれ」
コクンと頷いたロビンがへたり込んでいるオペラの前に座った。
「オペラ、本当にありがとう。マカロも知らせてくれてありがとう。どう感謝すればいいかわからないよ……本当に……ありがとうな」
ぽろぽろと涙を溢すロビンの手に自分の手を重ねたオペラが言った。
「道端に台車が転がっていて不思議に思って路地を覗いたら、いつもロビンと一緒に野菜を売っているおじいさんが殴られていたんだ。だからマカロを走らせて僕が……でも全然ダメで……恥ずかしいよ」
ロビンは歯を食いしばって泣くまいとしていたが、零れ落ちる涙を止めることはできなかった。
しゃくりあげて言葉にならないロビンの代わりにクロスが声を出した。
ヘルメはおじいさんの状態を確認しながら治療をしている。
「オペラは勇敢だ。感心したよ。おでこは大丈夫か? 血が出てただろ? 他に痛いところはないか?」
勇敢だと言われて嬉しかったのだろう、オペラが二ヨッと笑って頷いた。
トムじいさんの治療を終えたヘルメが、もう一度オペラの状態を確認している。
「ほとんど役に立たなかったけれど、少しでも恩返しをしなきゃって思って。気が付いたら突っ込んで行ってた。すぐに投げ飛ばされちゃったけれど、みんなが来てくれるって信じてたから怖くは無かったよ」
ヘルメが台車を取ってきて、軽々とおじいさんを抱きかかえて乗せた。
「クロス、ふたりを送ってきてください。私はおじいさんたちを連れて帰りますから」
「うん、わかった。こいつらは?」
クロスが壁に打ち付けられて気を失っている男どもを指さした。
「ああ、ゴミは片づけておきますから大丈夫です。ちゃんと喋ってもらいますし」
「うん、わかった。じゃあ行ってくるよ」
抱き上げようとしたクロスを断り、自分で歩き出すオペラ。
マカロは手を上にあげてクロスに抱っこをせがんでいる。
「僕も行くよ。ヘルメ、おじいさんとルナを頼むね」
にっこりと微笑んだヘルメは、おじいさんとルナを台車に乗せて歩き出した。
「重たそうだね。大丈夫かな、ヘルメ」
ロビンがそう言うとクロスが肩を竦めた。
「大丈夫、たぶんリンゴ5個より軽い」
「なんだよ? リンゴ5個って」
「なんだ、ロビンは知らないの? 神界で若い女の子に人気の白い雌猫の体重だよ」
不思議そうな顔をしたロビンだったが、何も言わず先を歩くオペラに駆け寄って肩を貸した。
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