完結させるための練習
夜桜夕凪
屋敷の噂、人形の苦悩
この町の歴史を綴った古いノートをみ返している中で気になった文面があった。
これはとある洋館の言い伝えである。
人々を呪い殺すと言われた人形は黄金の髪を持ち、蒼穹の瞳を以って人を殺める。
遭遇して生還する方法はあるはずだが、覚えている者はいない。
よくあるものだと思った。おかっぱの人形でも読んだことのある話だったから。
古い記録をWordに起こし、コピーして本の形にする。旧字を新字に置き換え、黄ばんで読みづらくなった文字が読みやすくなった。
「金髪のdoll、か…」
キーボードを打つ指が止まった。
「
よく知った住所だった。だって浅里町2丁目が私の住所…。だとすれば、あのでっかいお屋敷が花屋敷。人殺しのdollがある家か…。
近頃、近隣住民を招いて花屋敷が祭りを開くと聞いていたので、絶好の機会だと思った。
当日、広すぎる敷地に屋台が並んだ。中も外も客で溢れ、流石祭りと言わんばかりの人が湧いている。建物内で一際、人が集まっている場所に向かうと椿の浴衣に身を包んだ金髪を持つ少女がいた。彼女はわたしを見つけるなり、「あなたを待っていたの。一緒に遊びましょう?」と手を引いていく。「それでは皆さま、ご機嫌よう」と挨拶をして。
人波を掻き分け、赤い絨毯を上ってバルコニーへと誘導された。
「あなた、私に会いに来たんでしょう?」
深く青い瞳に射抜かれたようでうまく言葉が出ない。ただ短く「そうだよ」と答える。相手がタメで来たならば、タメで返すのが我が流儀。
「訊きたいことがあったんだ」
「…とは?」
「もう、お見通しなんじゃないのかい?」
イタズラっぽく笑って「そうね」と返される。
「でも、あなたの口から聞かせてちょうだい」
「きみは本当に殺人dollなのかい?私にはそうは思えないんだ」
「う〜ん…。半分正解。私は主人に仇なす輩を殺してきた。ただ、無差別殺人ではないことはわかっていてちようだいね。主人——専ら、この家のお嬢さまに危害を加えようと動いた輩を殺したの。それがあまりに多すぎて私はいつのまにか、『呪い殺す人形』だとか、『呪具』だとか、言い出す輩が出てきたわけ。
「…そっか。きみは優しいんだね」
「人の身ならば終身刑、死刑かもしれないのに、ですか?」
「万人を生かして、平和が保てるならそれに越したことはない。ただ、無防備、非力たる少女の被害を未然に防いだ点に於いて、大きな加点ではないかな?mademoiselle」
「私のことをそう呼んでいいのは、『まどねぇね』と呼んでいいのは、花織お嬢さまだけなんですけど⁈」
「はいはい」
「『はいはい』じゃない!」
「わかったから。やっぱりきみは誤解されていたのだね。きみの誤解は私が解くよう努めるよ。少なくとも家の記述は書き換えておく。多少変わったって誰も気にしないし」
「ありがとう。そう言ってくれる外部の人間がいるだけで気が楽です」
玄関まで送ってもらい、命を宿した人形に別れを告げる。
「また来るかも。そのときまでばいばい、美幸さま」
完結させるための練習 夜桜夕凪 @Yamamoto_yozakura
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