第113話 龍気

 俺が気づいたのは、竜たちが龍気を扱う時にHPとSPを消費していたことだ。鑑定レベルが上がり、常に簡易鑑定をONにしたままなのだが、竜たちのうち何体かに鑑定が通ったのだ。彼らは大きく姿を変える時にHPせいめいりょくSPスタミナを消費する。なお、進化前に戻る時にはあまり消費しない。


 魔術スキルに馴染み、武術スキルも結構取った俺にはピンときた。これはMPまりょくを消費して肉体の能力を底上げする、身体強化のスキルに似ている。そして注意深く観察していると、確かに魔力とは違うものが体表を循環しているのがわかる。


 武術スキルにもあるんだ。SPを消費して一撃を重くする強撃、一瞬で相手とのリーチを詰める縮地。それからHPを消費して一時的に防御力を上げる鎧纏がいてん。しかし、同時に巡らせるスキルはなかったな。こう、強撃みたいに腕に気合いを集める感じ、これを肩、首、目、背中、胸、腹……よし、なんかいけそう。それから鎧纏の時には、呼吸とともに臍の奥から白いバリアを張る感じ。これを同時に……うーん、ちょっと難しいな。


 しかし試行錯誤している間に、周りの視線が俺に集まっていた。


「お客人、貴殿は竜の血を引く者か……」


「はえっ?」




「なァんだ同胞かよォ! そういうことは早く言えって!」


 がっはっは。その夕方、俺は飲んだくれたジャッキーに肩を組まれていた。しばらく姿を見ないなと思ったら、「人間族ヒューマンの子供に倒されるなんて竜族の名折れ」ということで、奥方にひどく折檻……もとい、お説教を受けていたらしい。しかし、俺が竜族の端くれなら言い訳も立つ。ジャッキーはひどく上機嫌だった。


姐姐ジェジェのご令息が我らの同族とは、わらわも嬉しゅうございます」


 しかし皇后様に笑顔を向けられたディートリント様は白目だ。


「お前……いつもあれほど大人しくしていろと……」


「まぁまぁディー。せっかくの食事が冷めてしまうよ☆」


 ここ皇宮で供されるのは宮廷料理。龍眼の料理とはまた少し違って美味しい。せっかく料理スキルを持ってるんだ、レシピを覚えて帰りたいところ。


 とりあえず龍気の正体がわかったところで、まずお爺様とベルント様が飛びついた。彼らはブートキャンプの中で、竜族とともにキャッキャウフフしながら龍気をマスター。残念ながら俺たちは人間なので変身のオプションはないけれど、身体強化の上をいくバフをゲット。第三形態を会得した。


 次にマスターしたのは、意外にもアレクシス様。彼は魔法制御に長けているため、一度コツを掴むとさっさと極めてしまった。しかも省エネで隙がない。やっぱりこの人は天才だ。そして負けず嫌いのディートリント様が後に続いた。意地でも俺には負けたくないという気迫を感じる。残念ながら、龍気の正体を発見した俺がビリだった。いつもは感覚派なのに、頭で色々考えたのがいけなかったようだ。




 そして俺はふと考えた。そういえば、ここにMP消費の身体強化を付加したら、どうなるんだろう。


 結果は散々だった。試しに瓦を割ると、その下の土までえぐれる。正拳突きをすると、向こうの木まで折れる。リアル波動突きっていうの? それともハメハメ波っていうか。


「「「……」」」


 スパコーン。


 後頭部にハリセンを喰らい、この技は絶対に人前で使わないと約束させられた。確かに、ここがテラスハウスでよかった。皇宮で試運転したら大惨事だったと思う。しかし、俺に続いてお爺様もベルント様もウッキウキでマスターしたのに、俺だけ叱られるのが解せぬ。


 なお、俺はこのスキルを「第四形態」と名づけた。スキル名はそのまま登録された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る