第60話 情報収集
さて、龍眼に滞在して1ヶ月。秋津に関する情報はそこそこ集まった。なぜそこそこかというと、秋津は半鎖国政策を取っているから。交易がないわけじゃないが、窓口となる港は限定されているらしい。そもそも蒸気機関が発明されていない現状、船の推進力は帆か手漕ぎ。島国秋津とは、最も交易が盛んな龍眼をして、そう気軽に行き来出来る感じじゃないみたい。
そんな龍眼の竜人から集めた情報とは。
秋津の文化は龍眼から伝わったものが多く、独自の民族衣装を身につけている。
龍眼から伝わった文字を使っているが、言語は独自のもの。
武術においても、独自の進化を遂げてユニークなスキルを持っている。
なお、秋津の様子を描いた絵画が土産物として人気で、それは俺の知る浮世絵とほぼ変わらないものだった。
———どうやら秋津国は、俺が知る江戸時代的な感じで間違いなさそうだ。
予想通りといえば、予想通りとも言える。なんせたまたまタブレットを見た秋津人が、自分たちの文化と酷似していると驚いたのだから。もし秋津が江戸時代とか鎌倉時代じゃなくて、奈良時代とか平安時代とか、あるいはそれよりもっと前の文化レベルだとしたら、タブレットに記憶させた大河ドラマは未来の秋津ということだ。今の秋津人には刺さらなかっただろう。
それにしても、江戸時代的な日本…に酷似した秋津国か。修学旅行で、時代劇村に遊びに行った記憶がうっすらと脳裏を掠める。もしリアル江戸時代村に遊びに行けるなら、ちょっと、いやかなりワクワクする。一方で、かなり封建的な社会なのは間違いない。挙動には気を付けないとな。
ところで、たったこれだけの情報を掴むのに、なぜ俺たちがこんなに長く龍眼に滞在しているか。
「お前たちィ!ディートヘルムについて来れるか?!」
「「「ヤー、ヘル、ヤー!!!」」」
なんだか知らない間にディートヘルムブートキャンプが飛び火している。力自慢の竜人と力比べをして勝利し、船員の皆さんに開講?していたブートキャンプが龍眼にまで。しかも当初龍眼に上陸した時には、ベルント様がカタコトの竜人語で、龍眼の役人がコルネリウス語で意思疎通を図っていたのに、今やディートヘルム様が堂々とコルネリウス語で檄を飛ばし、竜人たちもそれに応えている。多分みんなコルネリウス語が分かっているわけじゃないと思う。ノリと筋肉。肉体言語は全てを凌駕する。
龍の血を引き、生まれつきガタイが良くフィジカルに優れた竜人。彼らに勝ってキャンプしてるディートヘルム様って何者だ、ということなんだけど、彼は前デルブリュック公爵、脳筋デルブリュックの申し子だ。筋肉と強さへの飽くなき探究心は、生まれつきのポテンシャルに優る竜人を凌駕する。そしてこの世界のシステムが彼に味方した。スキルが生えるのも成長するのも、試行回数が全て。毎日地道に取り組んでいれば、生まれ持った才能を超えることができる。
更にもう一つ、この世界の特筆すべき特徴として挙げられるのが、自身のレベルだ。この間、成り行きでクラーケンを倒してレベルが爆上がりしたんだけど、どうもステータス値は乗算で増えるらしい。元々馬鹿げた値だったのが、更に爆伸びした。そもそも7歳で洗礼を受けた時点で、意味不明な数値だった。MPを枯渇させればMP上限値が増えるとか、何らかのスキルを生やしたり伸ばしたりするとそれに応じた能力値が増えるとか、体感としては理解していたけども。それが、魔物を倒してレベルが上がるとガツンと一気に上昇した感じだ。
そういう意味では、この世界は弱者救済の世界と言えなくもない。俺だって元は辺境の開拓村の
ディートヘルム様とベルント様は、竜人のスキルを貪欲に習得した。ここで覚えたのは、棒術や杖術、あらゆる拳法だ。拳法はいくつもの種類があったけど、忍術のように「竜人拳」というスキルに統合。竜人たちと毎日キャッキャウフフで手合わせしている。
一方、ジェラルド様とジゼッラ様は、目ぼしいお土産を手にさっさとイクバールへトンボ返り。彼らには紳士淑女の社交の場の方が恋しいようだ。そして彼らに付き添っていたギルベルタ様は、龍眼の商人との商談に奔走中。彼女はカネのニオイに目がない。奥方をほったらかして武術にのめり込むディートヘルム様、そして旦那をほったらかして商売にのめり込むギルベルタ様。彼らはいい意味でベストカップルかもしれない。
「外交特使って、何だろうね…」
アレクシス様が遠い目をしている。これまで色々怪しかったけど、秋津を目の前に空中分解してしまった。
「今更ですわよ」
ディートリント様が、俺に冷たい視線を向ける。そう、そもそも俺がいなければ国を出奔する必要もなかったわけで、しかも俺が転移陣を設置しまくったお陰でいつでもテラスハウスや伯爵邸に帰ることができる。彼女には「こんなの旅行じゃねェ」と何度もこめかみをぐりぐりされた。そして彼女の背後には、「姐さん」と呼び従う竜人ファンクラブが控えている。
「まんま」
ただアロイス様だけが、ベタベタな手で俺に
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