第6話 黒川 葵(Side)

 私はいつものように、ドローンを起動させ、ダンジョンで配信を開始する。


 「ヤッホー、こんにちは!A級探索者のアオイだよ。今日もダンジョン探索やってくよー!」


:ヤッホー!

:待ってました!

:アオイちゃん今日も、可愛い

:今日は、どこのダンジョン?


 「今日はね〜、なんと!S級ダンジョンに来ています!」


:S級!?

:アオイちゃん、A級じゃないの?

:大丈夫なの?

:心配

:ここ、多分渋谷のS級ダンジョンだから、A級でも大丈夫だったはず


 「そうそう、ここのダンジョンはね、階層が別れてるから10階層までなら探索出来るんだよね」


 コメントを見ながら私は探索を始める。すると、すぐにオークと呼ばれる、豚の顔をした魔物に遭遇した。


 私は片手剣を構え、身体強化を発動させる。


 「早速、オークが来たね。準備運動には丁度いい」


:頑張って!

:ファイト!!

:オークって、何級?

:オークはB級やで

:なら、余裕や


 オークは、力は強いがスピードがないため、私からしたら雑魚だ。すぐに、オークの背後に回り込み、心臓目掛けて剣を差し込む。剣を抜くと、オークは膝から崩れ落ちた。


:瞬殺www

:アオイちゃんが強すぎる件w

:アオイちゃん最強

:最強

:最強


 そんな調子で、私はどんどん奥に進んで行った。3階層にいる時、私はダンジョンの壁に違和感を感じた。


 「なんだろこれ…?」


:どした?

:壁になんかあるん?


 「いや、なんか、ここから魔力を感じる」


 好奇心でその壁に触れた瞬間、眩しい光が私を包んだ。一瞬の浮遊感を感じた後、私は体勢を崩し、地面にへたり込んでいた


 「一体さっきのは、なんだったの…」


 落ち着いて周りをみた瞬間、私は言葉を失った。


 (えっ、なにこれ。な、なんで、こんなにゴブリンがいるの!?それに、あれはたしかゴブリンロード……意味がわからない。こんなん、倒しきれないよ…)


:えっ!何があった?

:恐らく、転移トラップに引っかかった

:いや、そんなことよりゴブリンヤバいって!!

:ファ!?ゴブリンロードもおるやんけ!

:アオイちゃん、はやくにげて!!


 ゴブリンは、私の周りを囲んで逃げ道を潰した。ゴブリンロードが私に気づくと、ゆっくりと、近づいて来た。


 (はっ、早く逃げないと!!死んじゃう!あっ、だめ…………腰が抜けて立てない)


:死亡配信は、ここですか?笑

:不謹慎すぎるだろ!ヤメロ!

:断末魔期待!

:不謹慎厨は、帰れ!

:協会に連絡して、救助呼ばないと

:無理だろ、間に合わん


 ゆっくりと近づいてくる、ゴブリンロードの足音は死へのカウントダウンだった。ゴブリンロードが目の前まで来た所で、私の恐怖心はマックスに到達する。息が乱れ、過呼吸になる。


 「しにたく、ないぃ」


 私は、恐怖で目を瞑る。死というものが、ここまで恐ろしいものとは知らなかった。私に出来るのは、ゴブリンロードが持っていた、巨大ナタが振り下ろされるのを待つだけだ。


 しかし、いくら待ってもナタが振り下ろされる事はなかった。そのかわり、大きな音がした。


 ドカァン────


 そして、私に声がかけられた。目を開けると、吹き飛ばされたゴブリンロードと女性がしゃがみ込んで、私の顔を覗き込んできた。


 「大丈夫?」


 「え…、あ、あなたは……」


 「俺?俺は、花川恵。とりあえず、怪我はなさそうだね」


:はっ!?なにこれ?

:コブリンロードふっ飛ばされたんだかw

:救世主

:てか、美少女過ぎる

:髪色とか、瞳の色とかヤバすぎやろ

:オッドアイwww

:でも、どこか憧れてしまう自分がいる

:それな、オッドアイとか憧れてまうやろ


 花川恵と名乗った女性は、奇妙な容姿をしていた。銀髪に、碧眼と金眼のオッドアイ。だが、美しかった。私は、胸が高鳴るのを感じた。女性だけれど、王子様のように思えた。小さな頃に憧れた、姫を助ける王子様のように。


 だが、現実は無慈悲だ。倒すことなんて、不可能だ。


「じゃあ、あいつら倒すから、少し待っててね」


 「た、倒すって、む、無理ですよ!相手はコブリンロードですよ!そ、それにゴブリンの数だって尋常じゃない!A級の私だって無理ですよ!」


:ゴブリンロード吹っ飛ばしたけど、さすがに無理じゃね

:明らかに、ゴブリンの数がヤバい

:A級じゃ、無理がある


 ゴブリンロードと、100匹以上のゴブリンがいるんだ。少なくとも、A級の探索者20人はいる、もしくは……S級探索者。


 「大丈夫大丈夫、これでも、S級だから」


 「はっ、え、S級!?」


:S級!?

:S級なんか、日本におるんか?

:1人だけいる。でも、全然メディアとかにもでない。

:さすが嘘やろ

:もし、本当やったら初の表舞台やん

:てか、同接100万ってヤバすぎぃ



 それを聞いた時、嘘だと思った。なんたって、S級探索者は世界に5人、日本には1人しかいないのだから。


 だが次の瞬間、S級探索者だと、信じざるをえない事が起こった。


 凍りついたのだ、ここは一帯。


:ファッ!?何この魔法!?

:ゴブリン瞬殺やん!

:S級って、ガチかもしれん

:でも、ゴブリンロードまだ、生きてる

:まじか、これでも倒せんのか


 しかし、ゴブリンロードは、なんとか生き残っていた。これだけの魔法を持ってしても、倒せないのかと、私は絶望した。だが、そんな絶望は一瞬にして終わった。


 恵と名乗った女性は、そのままゴブリンロードの懐に潜り込み、ゴブリンロードを斬り殺したのだ。


:えー………

:なんすか、その動き…

:魔法使いじゃないんですか?

:ゴブリンロード相手にならんかったやん

:エグいて


 私は、目の前で起こったことを、理解しきれなかった。しかし、私は段々と顔が赤くなってきたのが分かった。そこからの記憶はあまりない。最後に地上まで送ってもらい、お礼がしたいからと、連絡先を交換することができた。


 



 


 


 

 


 

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