転生ヒキニート、いざという時だけ覚醒する件

KKレモネード

異世界への幕開け

第1話 ヒキニート、異世界転生する

 朝日が眩しい……


 世界の夜明けを迎える中、カーテンを通して光が暗い部屋を照らした。


 大学生は目を擦りながらベッドから起き上がって思い目蓋をゆっくりと開けた。


 佐藤優真さとう ゆうまはいつものように、狭いアパートの部屋でPCの画面を見つめていた。引きこもり生活を続けている彼は、大学の授業にはほとんど出席せず、ネットゲームやアニメに没頭する日々を送っている。外に出るのは食料を買いに行く時だけで、人との接触も最小限に抑えていた。


 なんでだろうな……


 そうだ。あの時から怖くて関わりを切ったんだ。


 放課後の帰り道


 優真と翔太しょうたは、いつものように放課後の帰り道を歩いていた。二人は学校での出来事や趣味の話で盛り上がっていた。


「なあ、優真。サッカーまた一緒にやろうぜ!」


「いいね!翔太とやるのは楽しみだよ」


 二人が笑いながら話していると突然、翔太が道路に出た瞬間に大きな音が鳴り響いた。車が急ブレーキをかける音と共に翔太がそのまま地面に倒れた。


「翔太、危ない!」


 優真は慌てて駆け寄ろうとするが、もう手遅れだった。翔太はそのまま動かず、優真の目の前で命を落とした。


「嘘だろ…」


 彼はその場で立ち尽くし、涙も出ないままただ翔太の無惨な姿を見つめるしかなかった。


 翔太の葬儀が行われる日、優真は喪服を着てその場に立っていた。周囲の人々は彼の悲しみに共感する様子もなく、優真だけが孤独感に苛まれていた。


「あの子も可哀想だけど、最近、周りに不幸が多いよね」


 優真はその言葉を聞き、心に重い石が乗っかったような感覚を覚えた。自分のせいでみんなが不幸になるのではないかと感じていた。


「俺が…俺が呪われているんだ…」


 その日以降、優真の周りでまた不幸が続いた。クラスの女子が突然の心臓発作、更に担任の高木たかぎ先生が突然の病で倒れ込み、状態は悪化が止まらずに亡くなってしまった。全てが偶然とは思えず彼は次第に自分に何か恐ろしい力が働いているのではないかと疑い始める。


 家に帰ると優真の父親が仕事中に事故に遭い重傷を負っていることを知り、家族全員が病院に駆けつけて病室に入ると母親も不安のあまり倒れてしまう。


「お前が…何かを呼び込んでいるんじゃないの…?」


 母親の言葉が優真の心に深く突き刺さり、家族が彼に対して冷たくなっていった。弟も高熱に苦しみ、家の中は次第に不安と恐怖に包まれていった。


「違うんだ…俺はただ…」


 しかし、何を言っても無駄だった。家族の信頼を失った優真は、自分が不幸を呼ぶ呪われた存在であると感じるようになった。


 それから優真は学校にも行かず、家に閉じこもることを決意する。彼の部屋には、学校の友人たちからの電話が何件か来ていたが彼はただひたすらに孤独に耐える日々を送る。


 プルルルル…!


 ガチャ……


「優真、どうしたの?連絡もないし、心配してるよ」


 その声を聞いても、優真は何も返事をすることができなかった。心の中には、自分が呪われた存在であるという深い絶望が広がっていた。


「俺は誰にも近づかない方がいい…」


 彼は自分の存在が他人に災厄をもたらすと信じ、自らを隔離することで他人を守ろうとした。


 大学に進学したがやはり学校には行くことが出来ず、家からは追い出されて今じゃ一人部屋の中で毎日毎日、担任や他の先生からの電話や通知が鳴り響いていた。


 心は深い絶望と孤独に囚われ、大学生活にも影響を与えた。生徒との関係は次第に疎遠になり、彼はますます孤立していった。


「…思い出したくなかったのに、頭から離れねぇ」


 そうして、再びベッドに潜り込んでは現実から目を逸らすようにまぶたを閉じた。


 優真は夜遅く、ベッドの上で座り込んでいた。部屋の薄暗い照明の下で彼の顔には絶望の色が浮かんでいる。突然、部屋の中に不気味な囁き声が響き始める。


「まただ…また誰かが…」


 優真はその声にびっくりして周りを見回すが、誰もいない。部屋は静かで、ただ彼の息遣いだけが聞こえる。


「やめろ…頼むから…」


 幻聴の声は次第に大きくなり、優真の心に恐怖を与える。


 ”お前のせいで…みんなが死んでいった…”


 優真はその言葉を聞いて、さらに混乱と絶望に陥る。彼の頭の中には過去の友人たちや家族の顔が浮かび上がり彼の心を締め付ける。


「違う…俺は…何もできなかっただけだ…」


 彼の心は崩れ落ち、涙が止まらなくなる。部屋の中で彼は一人で自分を責め続ける。


 ”逃げても無駄だ…お前は呪われている…お前は……厄災だ”


 その言葉を聞きながら優真は完全に孤立し、暗闇の中でただ絶望に浸るしかなかった。


「…どうしろってんだよッ!!救いたいのに自分から手を伸ばしたら先が崩れる!何も出来ない俺は見捨てられて罵られる!……なんで、生まれてきたんだろ___」


 暗い部屋の中、優真は涙を流しながら次第に目を閉じていった。


 いつまでこんな苦痛を浴びなくてはならないのだろうか……


 優真は、いつものように薄暗い部屋の片隅でじっとしていた。時計の針が昼を指し示し、窓から差し込む明かりがかすかに部屋を照らしている。心に広がるのは、過去の記憶が引き起こす底知れぬ絶望と孤独だった。


「アニメ見よ……」


 だが、その時だった。部屋の中で異変が起こった。突然壁際から柔らかい光が漏れ出し空気そのものが輝き始めたかのように部屋全体が薄い金色に包まれていった。光は最初は小さな点だったが、次第に大きくなりまるで彼を導くように輝きを増していく。


「…なんだ!?これは___」


 彼は恐る恐るその光に近づき、手を伸ばす。指先が光に触れると温かな感触が手のひらに広がったように感じた。冷たく固まった心がその瞬間だけ…少しだけ和らいだような気がした。


 ”君の運命はここで終わらない…わたくし達が貴方を導きましょう!”


 優真はその柔らかい声に戸惑いながらも、どこかでその言葉に救いを感じていた。まるで誰かが彼を見守っているような温かな感覚が胸に広がっていく。


「もしかして…この光が俺を…」


 優真が光に包まれて意識を失った直後、彼は不思議な感覚に包まれていた。体が宙に浮かんでいるような現実から切り離された感覚だった。目を開けると彼は見たこともない場所にいた。周囲は暗闇に包まれていたが、遠くに四つの光がぼんやりと浮かび上がっていた。


「ここは…どこだ?俺は一体…?」


 その時、光が徐々に近づいてきた。光は次第に形を成し四人の美しい女性の姿となった。それぞれが異なる色の輝きを放っていて神々しさを感じさせるオーラを纏っていた。すると桃色で巻き髪の女性が手を差し伸べてきた。


「ようこそ、我が領域へ。佐藤優真、あなたをここへ導いたのは私たちです」


 次に美しい空色をした短髪の女性が優しく微笑んで優真を見つめた。


「君には特別な運命が待っているよ。だから僕はその為に招待したんだ」


 しかし、夕焼けのような明るい色を持った長髪の女性は険しい顔をしていた。


「お前が抱えている過去、その苦しみと痛みはアタシ達も知ってる。だが、その過去はお前を強くする力にもなる」


 すると、明るい女性の後ろからヒョコっと顔を出した三人よりも背は小さく幼い少女。頭の上には金色に輝く王冠のような輪が浮いていて、浅緑の髪が目元までかかって顔はよく見えないが恥ずかしがり屋なのか女性から離れずにおっとりとした声で喋り出した。


「あ、貴方にはの力が眠っています…その力を解放し、あなたの運命を切り拓いてください……」


 優真は女神たちの言葉に戸惑いながらも、彼女たちの存在が本物であることを感じていた。その美しい姿、そして放たれる温かさと力強さは夢や幻ではないことを物語っていた。


 優真は困惑しながらも四人の女神に尋ねた。


「俺に…運命があるっていうのか?でも、俺は…何もできない人間だ。ただ逃げてばかりで……」


 おどおど話す姿を見ていた空色の短髪女性が励ますように答えた。


「大丈夫だよ優真。私達は女神って言う存在で君は今までその力に気づいていなかっただけ。私たちがその道を照らしてあげる!」


 隣にいた桃色の巻き髪女性も優しく微笑んで手をこちらに伸ばしてくるとてのひらには小さな惑星のような神々しい光を差し出された。


「この力を使ってあなた自身を、そして他者を守ってください。それがあなたの使命です」


 夕焼け色の長髪女性もこくりと頷きながら決意ある表情でさっきとは違う色の光を差し出しながら強い声で語りかけてきた。


「恐れることは何も無いさ優真。お前には、思っている以上の力があるんだ」


 後ろに隠れていた浅緑の少女も完全に出てきて優真の目の前まで来ると彼女も違った色の光を手に集めてそれを渡す為に一生懸命背伸びをしていた。背伸びをしながら少女は囁くような声で優真に伝えた。


は常にあなたと共にある…どうか、信じて進んでくださいっ…」


 優真は女神たちの言葉を聞き、彼女たちの存在が現実であることを確信した。そして、彼はふと彼女たちの名前を知りたくなって恐る恐る聞いてみた。


「あの…あなたたちは一体…誰なんですか?」


 女神たちは優しく微笑み、一人ずつ自分の名前を名乗り始めた。


 初めに桃色で巻き髪の女神が胸に手を当てながら一歩近づいてきた。


「私はエルシエラ、命と再生を司る女神です」


 隣にいた空色をした短髪の女神は口に手を当てながら穏やかに喋り出した。


「僕はラヴィア、愛と希望を司る女神だよ」


 腕を組んでいた夕焼けのような明るい色を持った長髪の女神は胸を張りながら力強く名乗った。


「アタシはセルヴェリア、力と勇気を司る女神だ。宜しくな優真!」


 セルヴェリアの服を掴んでいた浅緑の少女も優しい声で名乗った。


「予はミスティア、知恵と運命を司る女神…だよ」


 優真はそれぞれの女神の名前を心に刻みながら、彼女たちの言葉が意味するものを考えていた。すると、顔にエルシエラが優しく手を当てて見上げれば優しい顔をしながらこっちを見つめていた。


「あなたがこれから歩む道には、多くの試練が待ち受けています。しかし、私たちはあなたの側にいます。だから少しでも素敵な笑顔を見せてください」


 そう言って離れると次にラヴィアが手を握りながら視線が重なり合った。


「愛と希望を忘れずに、自分を信じて!あなたが持つ優しさは、この世界を救う力となるからね」


 次はセルヴェリアが肩を優しく叩きながら満面の笑みを見せてくれた。


「恐れることなく笑顔でいろ!勇気を持ち、自らの力を信じることで、お前は真の強さを発揮することができる。それにお前が笑っていれば安心できる…」


 最後にミスティアの視線を合わせる為に優真は片膝立ちになると優しく微笑んでから彼の手を彼女は両手で包み込んで願いを込めるように目を閉じた。


「知恵と運命はあなたの武器です。冷静に考え、進むべき道を見つけてください」


 優真は女神たちの言葉に勇気をもらい、彼女たちの存在が自分の新たな運命を導くものであることを感じた。優真も決意を胸に真剣な眼差しを女神たちに向けた。


「エルシエラさん。ラヴィアさん。セルヴェリアさん。ミスティアさん。…俺は、俺の進むべき道を歩みたいと思います」


 女神たちの名を心に刻み、優真が彼女たちの言葉に応える決意を固めた瞬間に四人の女神が再び光の中に消え去り彼の体が柔らかな光に包まれていった。優真の周囲が眩い光で満たされながら意識が遠のいていく。しかし、心の中ではまだ不安なことが沢山あった。


「これで…俺は新しい世界へ行くのか…ははっ。上空とかに飛ばされたりしたらちょっとヤバイかもな」


 その思いと共に、彼は光の中でどこかへと導かれていった。


 気がつくと、優真は強烈な風を感じた。目を開けた瞬間には自分が上空に浮かんでいることに気づく。眼下には、見渡す限り広がる異世界の大地が広がり、彼はその壮大な景色に息を呑んだのと同時に予想が的中して焦り出していた。


「嘘だろォォォ!!?」


 すると目の前には、信じられないほど美しい大空が広がっていた。輝く星々が昼でも輝いていて雲は虹色に光を反射し、まるで幻想的な絵画のような景色が広がっていた。優真は思わずその光景に見惚れてしまう。


「こんな場所が現実に存在するのか…」


 風は心地よく、彼の身体を包み込むように優しく流れていた。目の前には遠くにそびえ立つ巨大な山々や広大な海が見渡せる。優真はその光景にしばし言葉を失い、ただその美しさを受け入れるしかなかった。


「てか、死ぬくね?普通に……」


 すると優真は光に包まれながら、ゆっくりと下へ降りていく感覚を感じた。だが、次の瞬間には急激に速度が増していき彼の身体は落下するかのように加速していく。


「えっ!? ちょ、ちょっと待て!落ちるのか!?マジで!?」


 空中でバランスを取ろうと必死に腕を振るうが制御する術もなく、彼はそのまま地面へと一直線に向かって落ちていく。下には緑豊かな草原が広がっているが、そんなことを考える余裕はなかった。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!止まれェェェェェ!!!」


 次の瞬間、優真はものすごい勢いで地面に激突した。


 ドンッ!!


 巨大な落下音と共に地面が激しく揺れて衝撃波が周囲に広がった。衝撃で大地に大きなクレーターができ、周囲の木々は揺れて草が大きくなびく。


 衝撃波によって周囲の風景がまるで爆風を受けたかのように乱れ、砂埃が舞い上がる。優真はその衝撃でしばらく意識が朦朧もうろうとし、気を取り戻すまで少し時間がかかった。彼は涙目で生きてることに感謝をしていた。


「…う…痛ってぇ…なんで、こうなるんだよ…俺、マジで死ぬかと思った…」


 彼は地面に横たわりながら何とか上体を起こすが、全身が痛みでズキズキしている。クレーターの中心に自分がいることに気づくと呆然とその大きさを見つめる。


「…俺の着地、こんなに酷いとは…なんか泣けてくる」


 地面がまだかすかに揺れており優真はその場に座り込む。だが、彼は笑ってしまった。あまりにも荒唐無稽こうとうむけいな転生の始まりに苦笑せざるを得なかったのだ。


「まあ、最初はこんなもんか…」


 そう言いながら彼は再び立ち上がり、少しずつ痛みを我慢しながら新しい世界での冒険を始めることを決心した。


「待ってろ新世界!」
















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