回診を終えて病室を出て行く医者。

 それを見送った僕は、視線をハルの方へ向けた。


 そこにいたハルの顔は赤く染まっていた。

 おそらく、泣いているところを医者に見られたことが恥ずかしかったのだろう。

 かく言う僕の顔も、きっと赤くなっていることだろう。


 僕と視線が合ったハルは、「ん、ん、」と咳払いをした。


「もう一度、訊くね?」


 スッ………。

 空気が変わった。緊張が病室を支配する。


「ねえ、ソラくん。ソラくんの夢は、なに?」


 そう言って僕を見るハルの眼差しは真剣だった。

 少し考えて、一つの答えを見つける。



「僕の夢は、キミのそばにずっといること、だよ」



 僕のその言葉に、ハルははっと驚きの表情を浮かべる。


「たとえキミがどこか遠くへ行ったとしても。キミが僕のことを忘れてしまったとしても。僕はキミのことをずっと覚えているから」


 これまでと、これからの全てを許すような僕の言葉は、とうとう彼女の涙腺を崩壊させた。

 止めどなくあふれ出る大粒の涙。


 僕の胸に顔を押しつけて泣きじゃくる彼女の頭をなでる。

 ハルの頭を撫でつつ、今までのことを思い出していた。


 ハルと出会ったあの日のこと。

 ハルと一緒に遊んだ日々。


 学校で席が隣同士になって、ともに勉強に励んだ日々。

 いつのまにか抱いていた気持ちを伝えて、恋人同士になったあの日。


 体育祭の時の応援の声。

 一緒に回った文化祭。


 時々ケンカはしていたけれど、次の日には仲直りして。


 一緒に笑って一緒に泣いて。


 時には走って、時には転んで。

 そうやってずっと一緒に歩いてきた。

 

 ハルと一緒に過ごす毎日は、いつもキラキラと輝いていて。

 ハルが隣にいてくれて、それだけで幸せだった。


 そんな日々を思い出して。

 でも、この先にそんな日々が続くことはないのだろう……なんて思って。


 だったら、今を。ハルが元気でいる「今」を。

 その日が来るまで、僕は。


「……ずっと、キミのそばにいて。キミとの時間を、目一杯楽しむよ」


 泣き疲れたのか、いつのまにか眠ってしまっていた彼女にそう言って。

 このままの態勢だとつらいだろうと思い、ベッドに寝かせて。

 目元にまだ輝いているしずくを指で拭い、そっと、優しく、唇を落とす。


「だって僕は、キミのことが大好きだから」


 その言葉が聞こえたのか、ハルの顔に、笑顔が浮かぶ。

 ふと、窓の外へ目を向ける。

そこには。


 快晴という言葉はまさにこの空のためにあるのだろう。

 どこまでも澄み渡る青い空があった。


    了

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