金魚鉢

@red_apple

第1話



 光輝くそれを私はじっと見つめていた。声をかけられるまで.....

「.....何してるの?」

「見てる」

「何を?」

「金魚鉢」

 私が単語だけで話すと、話しかけてきた子....同じクラスの女子かな?まあ、そんなことはどうでもいいけど....

「喋るなら単語じゃなくて、文で喋りなよ。そんなんだから、変な人だって思われるんだよ?」

「ふーん」

「だいたい、そこに魚いないじゃん!」

 確かにいない....でも、いる。

「.....いる」

「はあ?」

 変って思われてもどうでもいい。

 もう、いい。期待なんかしてない。

「いる、サカナ、金魚鉢」

「はあ、話すの苦手だからって何でも許されるって思わない方がいいよ?それに、そろそろ教室に来てもいいんじゃない?」

 そう、私がいるのは自習室で自分の教室みたいな場所だ。教室じゃない。

「.....なんで?」

「なんでって...もういいや。また、来るから。その時は、ちゃんと来てよ?私も困るから」

 そう言いながら、その子はここを出ていった。.....結局、自分のことか....

「サカナ、いる、のに」

 そんなことを思っていると突然、窓からサッカーボールが飛んできて、私の顔を横切った。金魚鉢は無事....よかった。

 でも、ここ二階だよね?なんで、ボールが飛んできたんだろう?

「おーい!」

 窓の外から、声がした。窓の外を見ると、そこには男子がいた。....顔は見えない、見たくもない。

「おーい!そっちにサッカーボール、飛んでない?大丈夫?あったら投げてほしいんだけど?」

 私は訳があって、大きい声も文章もうまく言えない。病気じゃないけど、言えない。

「.....外、出たく、ない、のに」

 私は、仕方なく自習室の外に出た、サッカーボールを持って。

 外は嫌いだ。苦しい。

 まるで、金魚が金魚鉢から出たみたいに、息が出来なくて、苦しい。

 下駄箱について外ぐつに履き替えた。

「ハア、ハア、グッ」

 苦しい。走ることも、歩くことも....全部。

 しばらく探すといた。さっきの子だ。

「ん?あー!さっきの女子じゃん!投げてって言ったじゃねえか!」

 ほら、見ろ。怒られたじゃん。

「投げる、こと、得意、じゃない」

「そっか。じゃあ、そう言ってくれたら俺行ってたのに...」

「大きい、声、出す、こと、得意、じゃない」

「そっか。.....ところでさっきから声、詰まって話してるけど、大丈夫か?」

「いつも、だ....

「あっれー?槙野、じゃーん!」

 この声、さっき自習室に来てた子の声だ。やばい、逃げないと...

 そう思った時には、もう遅かった。その子を見ると目があった。

「あれ?水牧さん、なんでここにいるの?自習室にいたじゃん!」

「ボール、届けに、来た」

「ボールゥ?あ〜!槙野の?」

「そう、俺の。ところで城野と知り合い?」

 逃げなきゃ!じゃないとまた....!

「あー、コイツ?ううん、ぜんぜーん!同じクラスだけど、コイツ一回も教室に来たことない変人だもん!」

 あーあ、遅かったか.....

「変人?変人ってどういう....」

 もうこれ以上、聞けない。苦しい。

 私は、自習室に戻ることにした。後ろから、私を呼び止める声がする。

 でも、今はそんなこと...どうでもいい。とりあえず、安全地帯に戻りたかった。

 ドン

「ハア、ハア、グッ」

 ポトッと何かが落ちた。小さな水の粒だった。それが、自分の涙であることに気づくのに、三十分間も時間がかかった。

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