親友
@hibibibiki
第1話
これは高校生の時の部活での不思議な体験。俺、ようすけはそれなりに強いサッカー部に所属していた。俺は小学校一年生からサッカーをやっていて、チームのエースというわけではないが自分の代ではレギュラーになれるだろうというくらいの実力だった。そんな俺には小学校の時からサッカーを一緒にしている親友のしょうたがいる。しょうたはサッカーが人一倍好きだが、六年生の時にサッカーを始めたこともあり、実力はベンチメンバーに入れるかどうかくらいだった。俺は勉強もスポーツもなんとなくやったらそれなりにできてしまうが、しょうたは不器用な分何事にも全力で取り組むタイプだ。練習でも俺や周りのチームメイトがだるそうにしていても、しょうただけは常に全力で取り組んでいた。そんなしょうたを俺は尊敬すると同時に羨ましくも思っていた。
二年生の夏が終わりかかった頃の午後練のこと。俺たちは秋にある新人戦に向けていつも通り練習に励んでいた。俺は最近プレーが上手くいかず、レギュラーから外れてしまうかもしれないという思いから、焦ると同時にイライラもしていた。いつも俺の高校の練習は最後に紅白戦がある。いつも通り紅白戦のチーム分けをして俺としょうたは敵チームになった。先生のホイッスルがまだ暑さの残るグラウンドに鳴り響き、試合は始まった。試合開始から間も無く事件は起きた。俺がドリブルでしょうたをかわした瞬間、しょうたの足が俺の足に引っかかったのだ。勢いよく一回転して倒れた俺はしょうたに『下手くそのくせに調子乗んなよ、おめぇ俺を怪我させて試合出ようとか思ってんだろ』と思ってもないことを、倒れた痛みとプレーが上手くいかないイライラから言ってしまった。先生やチームメイトから『そこまで言わないでいいだろ!』と言われた、が俺はこの言葉を放ってしまった時、ひどいことを言ってしまったと自覚しながらも頭に血が昇っていてその場で謝ることができなかった。しょうたは『俺が悪いから大丈夫。』と元気のない声でチームメイトに言った。その日の練習はこのことがあったせいか微妙な雰囲気のまま何試合か行われ、終わった。俺はただ座りながら黙って試合を見ていた。しょうたも俺から少し離れたところで一人で黙り込んでいた。
その後俺は全治二ヶ月半と診断され、秋の大会は出れないことが決まり一週間、しょうたとも話せないでいた。怪我をしてから二週間後まで、俺はずっとモヤモヤしながら生活とリハビリをしていた。
次の日の朝俺は目を覚ました。まだ朝日はのぼりきっていない。二度寝をしようと思った時、目の前に人間の腕があった。これはなんだろうと考える前に何度も床に叩きつけられて『痛いなぁ!』と言おうと思っても声が出ない。状況が全く掴めない中、上の方を見るとしょうたの顔があった。どうやら俺はしょうたのサッカーボールになってしまったらしい。こんなことありえないと思いながらも、なぜかすんなりとこの事実を受け入れていた。その後すぐしょうたはリフティングを始めた。しょうたに直接蹴られてみて、昔よりも断然上手くなっていることに気がついた。そんなことにも気づけてなかった自分に呆れながらも、努力がだんだんと実ってきている親友を見て嬉しくなった。それから二時間ほどしょうたはボール、つまり俺を蹴り続けた。笑顔で誰よりも楽しそうに練習するその姿に懐かしいなと思いながらも、あんなこと言ってしまったし、もうこんな風にしょうたとボールは蹴れないんだろうなと少し寂しさを感じていたら、練習が終わったのか俺はしょうたの家の玄関に置かれた。リビングから『最近熱心ねぇ、何かあったの?』としょうたの母親らしき声がした。それに対してしょうたは『俺がようすけに怪我させちゃったからようすけの分まで頑張ってどうしても勝たないといけないんだ。』と答えた。それをきいた瞬間自分の発した言葉への後悔がようすけを襲った。俺にひどいことを言われても自分の責任だと思い努力できる親友に対して俺はなんてことを言ってしまったのだろう、と。もともと後悔はしていたがしょうたのサッカーへの紳士さとまっすぐな性格に、俺は感動していた。いつ自分に戻れるかわからないけど戻ったら絶対に謝りに行こうと決心した時、また眠気に襲われ俺は眠りについた。
目が覚めると俺は自分のベッドの上にいた。こんなすぐ戻れたことに少し驚いたのと同時に少しほっとした。その日俺はしょうたに会いに行き、あの事件のことは決して本心ではないこと、自分の怪我は気にしないで欲しいと言うこと、しょうたがよければ朝練を手伝わせて欲しいと言うことを伝え謝った。しょうたの朝練のことを俺が知っているはずがないのに知っていたからか、しょうたは少し不思議そうな顔をしながらも何も俺にきかず『うん、一人より二人の方が楽しいもんな。』と満面の笑みを浮かべて答えてくれた。俺は怪我をしているので、できることは限られていたが、それでも何かしょうたの力になりたいという思いから、秋の大会まで毎日しょうたと朝練を繰り返した。お互い早起きはつらいはずなのに、二人とも一回も朝練をさぼらず、俺たちは秋の大会を迎えた。
俺たちのチームの目標は県ベスト8だったがこの大会では県ベスト32に終わってしまった。うなだれる仲間たちの中でもしょうたは一際強く悔しがっていた。泣いているしょうたの背中を叩いて俺は『ナイスファイト!』と声をかけた。『ごめん。』とただ一言だけが返ってきた。その大会の帰り、俺はしょうたと二人で帰った。下を向きながら申し訳なさそうに歩くしょうたに『次の大会はいっしょにピッチに立とうな!』と言い、一方的にグータッチをして別れた。
それから数ヶ月俺たちは二人で練習を続けインターハイ予選、選手権予選にともにレギュラーとしてピッチに立った。インターハイ予選では県ベスト四、選手権予選では県準優勝と自分たちの学校で初の快挙を成し遂げ、俺としょうたは揃って大会優秀選手に名を連ねた。親友とともに大好きなサッカーで努力して試合に勝って笑い合う、こんな日々がずっと続けばいいのにと思いながらも俺のサッカー人生は幕を閉じた。選手権の打ち上げと引退のお疲れ様会を兼ねてチームでご飯を食べた帰り、俺としょうたはまた二人で家に帰った。俺としょうたは清々しい表情で『ようすけ、今までありがとな、お前とサッカーしてる時が1番楽しかった。』『俺もだよ、いっしょにサッカーできてよかった。』と言葉を交わした。しばらく歩いているとしょうたはふと思い出したように『あの時はわざときかなかったけど、なんで俺が朝練しているなんて知ってたの?もしかして俺のこと隠れて見てたのか?』と冗談まじりで質問された。俺は、どうせ信じてもらえないと思いながらもしょうたにだけは本当のことを話そうと決めた。『実は俺なんでかわからないけど一回だけしょうたのボールになったんだ。意味がわからないと思うけど、ほら朝練俺もやるって言ったあの日の朝。しょうたのボールに憑依したみたいになってさ。』と言った。しょうたはありえないと少し笑みを浮かべながらも『そっか、そんなことあるんだな、まあ、信じるよ。』と答えてくれた。その後俺たち二人は『ボールになるってどんな感じ?痛いの?』『最初は痛かったけど、しょうたのボールタッチが柔らかくて途中からはそんなにだったよ、やっぱりお前めっちゃ上手くなったよな!』という会話や、これまでのサッカー人生の思い出話をしながら、最後は『またサッカーしような!』とお互い言い合って家に帰った。それから俺たちは毎日いっしょに高校に通い、大学受験を乗り越え、同じ大学に入学し、サッカーサークルに二人で入って約束通りまたいっしょにボールを蹴った。
それから四年後、俺としょうたは大学を卒業し別の会社に就職した。さらにその数年後、二人とも結婚して家庭を持ったが、三十歳になった今でもしょうたとはたまに会ってお酒を飲んだり、お互いの息子を連れていっしょにフットサルをしたり、家族ぐるみで仲良くしている。思えば自分がサッカーをこんなに好きになれたのはあの事件があったからかもしれない。もちろん、自分の言ったことはとても許されることではないし、美化しようとも思わないが、しょうたのサッカーボールになったことで今の自分があるし、しょうたともさらに仲良くなれた気がする。親友の大切さも教えてもらえた。
自分としょうた二人の子供が喧嘩している姿を見て俺はそんなことを思い出しながら感傷に浸っていた。今思えばあの日しょうたのボールからすぐに自分に戻れたのは、謝ることを決心したからなのかもしれない。そう感じながら俺は自分の子供に『ほら、ごめんねって言いなさい。』と言った。
親友 @hibibibiki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます