作者の旅行記〜何気ない旅の記録〜

石動 橋

高松編

 今回は、私が高松に旅行に行った話を書こう。

 つい最近のことだ。Xでも書いているので、断片的にご存知の方もいるだろう。

 とはいえ、この旅で私がメインに据えていたのは高松に行くことではない。

 その旅に私を運んでくれる案内役。

 そう、フェリーだ。

 実のところ、私はフェリーに乗ったことがなかった。

 これまで旅行にそれなりに行ったが、そのほとんどは新幹線などの陸路での移動で、残りは飛行機。

海路を使ったことなど今までなかったのだ。

 そこで今回は、生まれて初めての船旅、というコンセプトでフェリーで高松へ出発しようと思い立ったのだ。

 だが、早速ハプニング発生。

 フェリー乗り場のある神戸三ノ宮へ向かうための電車移動。

 この電車が、大阪方面の大規模停電の影響による遅延が発生してしまったのだ。

 あれ、これ、フェリー乗れなくね?

 俺の脳裏に、一抹の不安が過る。

 このときの俺にBGMをつけるなら、大人の優雅な旅を彷彿とさせる曲ではない。

 某北海道ローカル番組のテーマ曲が妥当だろう。

 とはいえ、ここで慌てても仕方ない。

 とりあえず目的地を通る電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、ギリギリではあったが乗り場に辿り着くことができた。

 日々電車の遅延に苦しみ出社している経験が、こんなときに役立つとは。

 結果オーライと喜んでいいのか、何とも複雑な気分だった。

 そんな気持ちのままだったが、無事に目的地には辿り着いた。

 神戸三ノ宮のフェリー乗り場から乗船。

 朝早いにもかかわらず大勢のお客さんが乗り込んでいたのは、お盆という時期的な理由だけではないだろう。

 今回予約したのは自由席だったが、人が多すぎてまともな席がなかったくらいだ。

 まあ予定していた自由席に座れなくても、船外の日陰のある座席は空いていたし、潮風や航海の雰囲気を楽しみたかったから、これでよかったんだと思う。

 出港の汽笛が鳴る。

 港から離れゆく大型船からの景色に目を奪われたのは、私だけではなかった。

 他の多くのお客さんもカメラを片手に、今回の旅の思い出を刻んでいた。

 神戸のランドマークタワーや観覧車が遠ざかり、広大な水平線が近づいていく。

これはある種の非日常感を感じられ、とても新鮮な心地になる。

 だがそれに、不快感はない。

 むしろ日常を忘れられるほどの、違った快感さがあった。

 これだけで、この船に乗った価値はあったと思う。

 しばらく船が進むと、船内アナウンスが響いた。

 明石海峡大橋の近くを通るという放送だ。

 しかも、そのでかい橋の真下を航行するらしい。

 それは、是非写真撮りたい。

 天候も雲一つない快晴。

 絶好の撮影チャンスを逃す手はない。

 手にしたスマホのカメラを構え、迫る橋にフォーカスを当てた。

 視界に広がる雄大な大橋は、ある種の感動を覚える。

 嗚呼、来てよかった。

 降り注ぐ陽光と体を撫でる優しい潮風を浴びて、心からそう思った。

 船はそのまま進みながら、小豆島を経由して高松に至る。

 途中で跳ねるトビウオを眺めながら、流れる潮風を一身に感じていた。

 神戸を離れて5時間。

 高松港に到着する頃には、太陽はすっかり高くなっていた。

 高松港から無料の送迎バスに乗り込み、高松駅に向かう。

 駅前で見つけた讃岐うどんの店でお昼を食べると、そのまま高松城の史跡のある玉藻公園の門をくぐった。

 重要文化財の櫓や鯛の泳ぐ堀など、珍しい観光地を堪能できた。

 その後訪れたのは、香川ミュージアム。

 香川県の歴史や弘法大師の歴史を展示していて、歴史好きにはたまらない。ここだけで十分楽しめる。

 今の香川県が三代目だというのは初めて知った。

 ミュージアムに併設されているカフェもオシャレで、ワッフルとアイスコーヒーを注文したが、なかなかおいしい。

 見た目も良かったし、やる人がやればSNSで写真を撮ると映えるだろう。

 そこまで楽しんでいると、気づけば夕暮れ。

 そろそろホテルに向かわねば。

 名残惜しいがミュージアムに別れを告げ、予約していたホテルに足を運んだ。

 高松市の商店街の近くに建てられたビジネスホテル。

 近年新しくなったそのホテルは、外見のレトロ感とは裏腹に、内装はとても煌びやかで美しい。

 ホテルのフロントも丁寧に設備の説明をしてくださり、非常に好感が持てた。

 部屋でシャワーを浴びて汗を流し、いざ、夜の高松へ。

 しかし、ここでもハプニング発生。

 この日、私が選んだ夕飯は鰹。

 高知の料理が楽しめるという居酒屋の暖簾をくぐり、店員に声をかけた。

 だが、店員は焦ったように頭をかく。

 店内を見る限り繁盛していて、空いてる席はなさそうだった。

 こりゃ、別の店に行くことになりそうだ。

 諦めかけたとき、店員は口を開いた。

 30分以内のお食事でしたら、お席ご用意できますよ。

 耳を疑った。

 え? 30分以内?

 どうやら、予約の団体が来るのが45分後。それまでの間に食事を済ませられるなら、予約席を使っていいらしい。

 普段の私なら、断っていただろう。

 だが、旅の疲れがピークに達していた当時の私は、何を考えていたのか、こう答えた。

 はい! よろしくお願いします!

 どうやら、冷静に考える脳を海に落としてきたらしい。

 ともかく、やや安心したらしい店員に案内され、私は席に座った。

 ここからタイマースタート。

 気分はもはやRTAだ。

 無駄な料理など注文できない。

 早く出されてかつ、高知らしいものを頼む。

 念のために、ここは香川県である。

 香川らしい店でもよかったはずだ。

 だがそんなこと、私の頭には存在しない。

 メニューにざっと目を通し、オーダーを出す。

 注文したのは、鰹のたたきと日本酒。

 お通しを含めてもそこまで腹は膨れないが、仕方ない。

時間内で出せてなおかつ食べられるのは、これくらいが限界なのだ。

 急ぎながらも、味わって食べる。

 鰹の旨味に、キレのある日本酒の辛味がよく合う。

 最高の組み合わせなのに、短時間で食べないといけないのがもどかしい。

 日本酒を煽ってる光景など、ショットグラスでしか見ることさえないだろう。

 ギリギリ時間内で食事を済ませて席を立った。

 また、あの店にはリベンジしよう。

 今度はゆっくり食べれるように、予約も入れよう。

 そう心に誓って、店を後にしたのだった。

 ホテルに帰る途中のコンビニで追加の夜食を買い、宿へ戻る。

 ホテルの大浴場でゆったり湯船を堪能し、部屋へ戻った。

 気がつけば夜10時半。

 朝が早かったこともあり、すっかりおねむだ。

 本能に身を任せて、体をベッドに預ける。

 心地の良い枕と毛布に包まれて、意識を手放すのにそんなに時間はかからなかった。

 そして翌朝である。

 ホテルで朝食を食べた私は、ホテルでチェックアウトギリギリまで過ごしていた。

 これは何も、外に出るのが億劫だったり寝坊してしまったからではない。

 昨日入った大浴場が思いの外気持ちよく、しっかり朝風呂もキメてしまおうと思い立ったからである。

 普段の風呂とは違った、足の伸ばせる浴槽のなんと気持ちのいいことか。

 あまりの快楽に、脳汁がドバドバと溢れてくる感覚。

 前日の歩き詰めで疲労たっぷりの体を癒したいと思う私の心は、間違っていなかったはずだ。

 そうしてたっぷりと体を休めた私は、時間ギリギリにホテルをチェックアウトして近くの商店街を散策した。

 街路が綺麗に清掃された商店街は賑やかで、十分に観光する価値がある。

 この時だけかわからないが、あちこちでポケモンのヤドンのモニュメントを見かけた。どうやら香川のうどんとヤドンをかけたダジャレらしい。

 安直ではあるが、インパクトは大きかった。

 思わず店頭に並んでいた、ヤドンふりかけを買ってしまうほどには。

 商店街を堪能した後、高松駅へ向かう。

 そろそろ帰るためのチケットの購入と、お土産を買わなければ。

 高松駅の近くにある大型のショッピング施設。

 その一角のお土産コーナーに足を運んだ。

 そして、見た。

 見てしまった。

 日本酒のコーナーに並ぶ酒瓶の一種。

 私が愛してやまないゲーム、龍が如くとの、コラボ日本酒。

 高知の日本酒とコラボしていたのは知っていたが、よもやここで出会おうとは。

 恐ろしいものだ。

 私は気づかぬうちに、それに手を伸ばしていた。

 他にも讃岐うどんやお菓子も買ったが、あの酒が一番高かった。

 無事にお土産を買えて気分のいいまま、ついでとばかりに施設を歩く。

 ふと、何やら行列を見かけた。

 まだ開店前だというのに、多くのお客さんが列をなし、店が開くのを今か今かと待っている。

 これは、有名な店に違いない。

 私はその列に飛び込んだ。

 少し経つと、店の暖簾から店員が顔を出し、元気に店の開店を告げる。

 幸いにも割と早めに並べたからか、たいして待つことなく席に座れた。

 注文したのは冷やしうどんとタコ飯のセット。

 歯ごたえのある麺とタコが実に美味しかった。

 そして、食べ終わるころには、そろそろ帰る時間。

 高速バスセンターへ歩を進め、チケットを購入。

 前日にくぐった明石海峡大橋を、今度は渡って帰路についた。

 今回の旅は非常に楽しかった。

 ハプニングもあったが十分楽しめる範囲のものだったし、何よりも日常を忘れてリフレッシュできた。

 フェリーが経由した小豆島もなかなか楽しそうで、いつか行ってみたいと思う。

 さて、次は何処へ行こうか。

 今から楽しみで仕方ない。

 

 

 

 

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