第21話 レベッカとスクロー
スクローの村の門があった場所で立ち止まる。怖くてレベッカの顔を見ることが出来なかった。
「行こう」
小さくはっきりとした声でそう言い、レベッカが歩み出す。慌ててその後に続く。
瓦礫の中を黙ったまま歩いた。何も言わないが向かう先はわかっていた。彼女の家は村の奥にある。
途中、酒場があった交差点の近くに差し掛かると、交差点の真ん中の地面に何かが並んでいるのが見えた。少し進み、それが何ものかわかり、思わず立ち止まる。レベッカは立ち止まった自分を振り返り、同じく立ち止まり前方に注意を凝らす。
自分たちの20mほど先には、たくさんの人間の焼死体が並べられていた。
レベッカは意に介さず焼死体の方へ駆け出す。そしてその横にへたり込んだ。
「なんで」
聞こえないほどの小さな声でレベッカは呟いた。
震える足を引きずり何とか転ばないように歩きレベッカの元へ辿り着く。
「なんでよぉ!!」
今度は天が張り裂けそうなほど大きな声で叫んだ。
誰かに見つかってしまうかもしれない。そんな思いで必死にレベッカを
ひとしきり叫び、自分の腕の中で泣き崩れるレベッカの背中をさする。幸運なことに、自分たち以外は誰もこの焼け落ちた村には来なかったようだ。
泣き止まない彼女を支え、村の奥へ進んだ。
レベッカの家に辿り着くが、他と同様に焼け跡だけが残り、家は跡形もなかった。
「ありがとう。大丈夫だから1人にさせて」
20代に見えるが彼女の正確な年齢はわからない。だがきっと物心ついた頃からこの村で過ごし、少ない村民は皆家族のような存在だったんだろう。彼女の痛みは計り知れなかった。
1人にすることを了承し、自分は更に奥に進んだ。そこはベンの家があった場所だった。
自分が寝泊まりした
レベッカを見ると、背を向けて瓦礫の山に座っていた。遠くに見える海を眺めているようにも見える。
そばにいた方が良いのかもしれない。しかし自分にはやるべきことがあった。日が落ちるまでにはまだ時間がある。ベンの家からさらに進んだ所にある石橋に辿り着いた。細い石橋は丈夫そうだが、奥の森に誘うような不気味さがある。橋の下には黒い川がせせらいでいた。
慎重に橋を渡る。この森の奥に日記の男が隠した書物が眠っているはず。暗い森の中を進んで行った。
森にはちゃんと道が続いていた。視界は悪く、木々の間から差し込む僅かな光だけがその道を示している。
暫く進んだ所に開けた空間があった。空間に降り注ぐ日の光が周囲を照らしている。辺りに目立ったものは見当たらない。木々に目を向けると、左右に2本の進めそうな道が見えた。
来た道を見失わない様に、村へ戻る道の木へ持っていたツルハシを突き刺す。
どちらの道も先が見えず勘で進むしかなかった。直感を信じて右側の道を進む。道はすぐに先細っていき、ほとんど獣道に近かった。
道を誤ったかと思い、引き返すことも考え始めたその時、びっしりと苔の生えた少し大きい岩が道の脇に現れた。森の中には異質に感じるその岩をよく見ると、苔の中にまるで顔のような表情が見てとれる。日記にあった石のスタチューとは恐らくこれのことだろう。
麻袋からナイフを取り出し、めぼしい苔を削り落とす。石像の背面の苔を落とした時、真ん中辺りに大きな亀裂があるのを見つけた。それを辿り周囲の苔を剥がすと石像の割れ目の奥に、箱の様なものが見える。ツルハシを置いてきた事を後悔しながらも、近くにあった太い枝を使ってどうにか箱をかき出す。それはボロボロの木箱だった。
分かれ道の広場まで引き返し木箱を開ける。どうやったかわからないが蓋は引っ付いて開かなかったが、木が腐り余りにもボロいため、力を入れると箱自体が
本を布に包んだまま麻袋に入れ、急いで村への道を引き返す。石橋を渡る頃には日も傾きかけていた。
レベッカの家の跡地まで行くが、彼女の姿はない。どこへ行ったのか焦りながら村の中心へ向かう。
酒場の前に、彼女はいた。木製の大きな台車に1人で何かを運んでいた。すぐにそれが村人の遺体だとわかった。
近づくとこちらに気がついたが、手は止めることなく話し始める。
「皆を海へ運んでいたの。この村の人は海の人間だから、きっとそっちの方が好きかなって思って」
そう言って寂しげな笑顔を見せた。
「手伝わせてください」
彼女に駆け寄り、横たわる遺体を肩に担いで台車の隙間に乗せた。
5度の往復でようやく全ての遺体を運び終えた。
海岸には小さな船着場があり、小型の漁船が並んでいた。そこから少し離れた所にある砂浜に皆が並べられている。
砂浜に置いてあった、漁船よりも小さな手漕ぎの舟を海辺まで引いていく。2人で体と足を抱え、1人ずつその舟に乗せていった。24人の村人の遺体が小舟に並んだ。
皆を乗せた舟は重く、水に浸かっていても2人がかりで押すのがやっとだった。
木が軋む音を鳴らし、舟は砂浜を離れた。そのままゆっくりと、暗く穏やかな海を進んでいく。
「私だけ一緒に乗れなくてごめんね」
レベッカの一言で目頭が熱くなる。
私は彼女の方を見ず、小さくなっていく舟を、見えなくなるまで見つめていた。
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