キズナコーストガード

第１章

１．東京都 海の森

　海野ミサキ「近未来。 世界は、深海から現れた未知の生命体『ラーン』から攻撃を受けていた」

　幕が上がると同時に、海のせせらぎが聴こえてくる。

　２階建てになっているステージ中央の入口から海野ミサキが出てきて、世界観について話し出す。

　海野ミサキは、舞台『キズナコーストガード』の主人公で、この舞台の物語はミサキを中心に進んでいく。

　ミサキ「ラーンが現れてから、世界は一変した。毎日のようにニュースでラーンの攻撃が報じられ、わたくしたちは不安の中で生きている」

　階段をゆっくりとおりていくミサキ。

　ミサキ「ラーンという敵に立ち向かうため、世界は一致団結。 ラーンから人々を守る国際機関『コーストガード』を設立し、ラーンとの戦いにおける切り札『ベゼル』を開発した」

　ミサキはステージの１階におりた。

　白一色だった奥の壁には、海辺の映像が投影される。

　ミサキ「さらに、世界中にはコーストガードの隊員を育成するためのアカデミーが建てられた。 わたくしたちのような子どもは、コーストガードの隊員⋯⋯いえ、世界を守るヒーローになることを夢見て、アカデミーに通ってる」

　ミサキが説明を終えたタイミングで、上手（かみて）⋯⋯つまり観客席から見て右側から、ひとりの女の子が現れた。

　海野ミナト「おまたせ、ミサキ」

　背が高くて、黒のロングヘアーが綺麗なその女の子の名前は、海野ミナト。

　ミナトさんはミサキのお姉さんで、高等部でコーストガードに入隊した天才少女だ。

　ミサキ「今日はお休みなのですね、お姉さま」

　ミナト「先週まで佐渡の防衛隊と一緒に戦ってたんだもん。 作戦が終わったら、お休みくらいもらうわ」

　ミサキはミナトさんと楽しげに会話しながら歩き出す。

　下手（しもて）⋯⋯つまり観客席から見て左側には、佐渡で行われた防衛戦の説明書きのテロップが投影される。

　ミサキ「次の出撃はいつごろ？」

　ミナト「チームのみんなもベゼルのメンテナンス中だから、次の出撃は来週になるかも」

　ミサキ「サードレギオンもいそがしいのですね」

　ミナト「でも、この街を守る大切な存在よ」

　ラーンが現れたあと、国連は日本の海上保安庁やアメリカ沿岸警備隊をはじめとする組織を参考に、国際機関『コーストガード』を結成。

　日本は海上保安庁が担当していたエリアを、そのままコーストガードが防衛するエリアに設定して、エリアの名前をチーム名にした。

　ミナト「サードレギオンが無かったら、首都はラーンに侵略されていたかもしれない。 だから、わたしはサードレギオンに入れてよかったと思ってる」

　サードレギオンは、海上保安庁では第三管区と呼ばれるエリアを守るチーム。

　東京や神奈川など、日本にとって重要な役割を持つ地域が集まる第三管区を守るこのチームには、コーストガードの中でもっとも成績の良い５人の隊員が参加している。

　そのコーストガードのメンバーに、ミナトさんも選ばれていた。

　ミサキ「そういえば、サードレギオンのメンバーって、なぜお姉さま以外ヒミツなんですの？」

　ふたりが１階と２階を分ける階段の真ん中に座ると、背景のプロジェクションマッピングが海浜公園に切り替わる。

　ミナト「サードレギオンのメンバーは、他のチームとちがって、特別なヒトが選ばれてるの。 司令部も、サードレギオンのメンバーについてはしばらくヒミツにするって言ってたわ」

　ミサキ「そうなのですね⋯⋯」

　すこし、残念そうな表情をするミサキ。

　ミナト「わたしは理由を知ってるけど」

　笑いながら、ミナトさんは立ち上がる。

　ミサキ「わたくしにだけ、こっそり教えてもらえません⋯⋯？」

　ミナト「だ、め、よ」

　ミサキ「ケチッ！」

　ふたりがふざけあう様子はとても楽しそうだった。

　けど、いきなり海浜公園の映像が消えたと思った瞬間、暗い背景に大きな波しぶきが投影される。

　ミサキ「な、なに！？」

　ミナト「まさか⋯⋯！」

　おどろくふたり。

　波しぶきが消えたあと、プロジェクションマッピングで投影された映像には、大きな二足歩行タイプの半魚人が映る。

　ミサキ「ラーン！？」

　ミナト「こいつはヘヴリングよ！ こんなところに現れるなんて――」

　ふたりの前に姿を現したのは、深海から現れる未知の生命体『ラーン』の１種『ヘヴリング』だった。