「プライド」
暗闇の中、声が聞こえる。重くなった瞼をゆっくりと開けた。朧げだった視界が鮮明になり、従者の顔が映った。
「アーケオ様! 大丈夫ですか?」
「マシュロさん。あれ? ここは?」
「ここはローゼン王国から少し離れた丘です」
辺りを見渡すと生い茂った危機があり、離れたところに燃え盛るローゼン王国が見えた。そして、その中でもひときわ目立つものがあった。
ローゼンの城だ。しかし、以前とは違い、城の中から赤黒く太い蔦のようなものが城に絡みついていて、塔のようになっていた。
「アーケオ様の元に向かおうと城内を進んでいる途中、凄まじい地響きとともに城が動き始めて、城があのような姿に。そして、地下室の扉が開いていたので、向かうとアーケオ様が気絶していました。何があったんですか?」
アーケオは起こったことの全てを話した。ディーノが『夜明けの翼』の首領である事。魔王『ユーカリオタ』が封印されていた事。マシュロは驚きのあまり、目を見開いていた。
「つまりディーノ、いやレックス・フリューゲルと魔王ユーカリオタにより、この惨劇は引き起こされたという事ですね」
「うん。まさかあの人が夜明けの翼のリーダーだったなんて」
アーケオは未だにショックを拭えずにいた。
「でも止めに行かないと」
「ダメです。まだ安静にしていないと。それに今の王国内には魔王によって生み出されたであろう魔物達が跋扈しています」
「そんな」
アーケオは魔王の根城と化したローゼン王国に再度、目を向ける。
「とにかく今は安静にしていてください」
マシュロに促されて、気持ちを落ち着かせた。
近くの草木が揺れた。魔物と思い、アーケオは真横にあった木剣に手を伸ばした。マシュロもナイフを抜いて、臨戦態勢に入った。
草陰から出てきたのはローゼンの兵士だった。
「お二方。ここにいましたよ」
兵士の言葉に導かれて、茂みからルーベルト・ローゼンとブレド・ローゼンが姿を見せた。ルーベルトはアーケオとの戦いの傷がまだ言えていないのか、所々、包帯が巻かれている。
「一体、何のご用でしょう?」
マシュロの目が手に持った短剣のように鋭くなる。するとルーベルトが頭を下げた。
「恥を承知で頼む。力を貸してくれ」
アーケオは息を飲んだ。目の前で父のルーベルト・ローゼンが頭を下げているのだ。父が人に頭を垂れているのを初めてみた。
「わしは国を守るものとして、それを果たす義務がある。そのためなら頭だって下げる。今までの扱いを心から謝罪する。すまなかった。この状況に陥ったのもわしの慢心ゆえだ。この後わしをどう扱ってくれても構わない。ただ、力を貸してくれ」
父が頭を下げながら、言葉を吐いていく。この現状に置いて、今の父の言葉にはきっと嘘はない。
「ブレド。お前もだ」
父の横でブレドが不服そうな表情を浮かべている。今まで見下してきた弟に頭を下げる事は彼のプライドが許さないのだろう。
「ブレド!」
「分かっている!」
ルーベルドに促されて、ブレドがぎこちない動きで前方に頭を傾け始めた。
「力を貸してくれ」
父兄揃って、アーケオに助けを求めてきた。今のローゼンの戦力だけでは魔王を倒すことは不可能だと考えたのだろう。
「アーケオ様。いかがなさいますか?」
マシュロがアーケオの方に目を向けた。その目には怒りが沸々と感じられた。今まで自身の主人を虐げてきた人間がのこのことやってきたのだ。それにルーベルト・ローゼンに関しては二度目だ。
一度目は逆上して、粛清まで行おうとしたのだ。アーケオは頭をさげる二人の姿を見て、ゆっくりと口を開いた。
「陛下。兄さん。あなたが頼まなくても私はこの国も世界も救うつもりです」
アーケオは二人に歩み寄り、手を差し伸べた。
「共に戦いましょう」
「ああ」
ルーベルトが口角を上げて、アーケオの手を握った。
「ほら。ブレド」
再度、父に急かされて、ブレドもアーケオと握手を交わした。
「そうと決まれば人手が必要ですね。僕に考えがあります」
「何だ」
「僕は旅の果てで多くの人と知り合いました。彼らに協力を仰ぎます」
エルペタス。ジルギスタン王国。ヤマト。彼らに声をかければきっと力を貸してくれるはずだと考えたのだ。
早速、アーケオはこの三ヶ国に手紙を書いた。書き終えた後、ルーベルトが伝書鳩に括り付けて、飛ばした。
「わしとブレドはアルタリアの軍や世界大会の参加者。各地の傭兵やその他の戦力に協力を呼びかける」
「分かりました」
ほんの少しだが希望が見えた。しかし、そんな希望を嘲笑うように王国の方から凄まじい地鳴りから聞こえた。
アーケオ達の前に一人の兵士が額から汗を流しながらやってきた。
「陛下! 魔物達がこちらに向かっているとの報告が入りました!」
「こんな時に!」
「どうやら落ち着くまも与えてくれないみたいだね。レックスさん」
アーケオは悍ましい空気が漂う塔に目を向けた。
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