「船上パーティー」
「アーケオ様!」
暗闇の中、誰かの声が聞こえる。小さくか細い声だ。しかし、その声は徐々に大きくなっていき、周囲が眩しい光に包まれた。
ゆっくりと目を開けるとマシュロの顔が目の前にあった。彼女は大粒の涙を流していた。
「アーケオ様!」
「ん? マシュロさん?」
「アーケオ様! 良かった! 本当に! 潜水した時に一人沈んでいったアーケオ様を見たときは心臓が止まりそうでした! 全くもう! なんであんな危険な事を!」
マシュロが吊り上がった目で頰を膨らませる。あの時、助けてくれたのはマシュロだったのだ。
「ごめんごめん。でもあれくらいしないと倒せそうになかったからさ」
「だとしても! 本当に無事で良かった!」
女従者が主人を強く抱きしめた。アーケオも彼女を強く抱きしめた。再び、生きて彼女と触れ合えた。彼はその事実に大きな喜びを感じた。
「あんたがロギスタを退治してくれたのか!」
「はい。そうです」
「そうか! ありがとう! 本当にありがとう!」
「助かったぞ!」
乗客達から次々と感謝の言葉が投げかけられた。アーケオは少し照れくさくなった。
すると乗客達の間を通るように恰幅の良い小柄な男性が来た。
「初めまして。船長のウォルギーです。貴方がロギスタを退治してくれたんですか?」
「ええ。僕とこのマシュロさんのおかげです」
「ありがとうございます。あの、もしかしたらなのですが以前アルドュヴラを討伐したのも貴方ですか?」
「はい。僕とマシュロさん。ジルギスタン王国の騎士達のおかげで」
「そうですか。乗客の皆様と我が船員達を守っていただきありがとうございます!」
ウォルギーが頭に被っていた白い帽子を取って、頭を下げた。同時に乗客達から拍手が湧き上がった。
その後、船の上で盛大なパーティーが行われた。乗客達は酒を飲んで、絶品料理に舌鼓を打ち、肩を組んで踊っていた。
「そうだ。アーケオ様。これって」
マシュロから懐から黄金のナイフを取り出した。アーケオが勇者の武器に変えたものだ。
「ごめんね。勝手に変えちゃって。でもこれのおかげでロギスタを倒すことが出来たよ」
「いえ、とんでもない。むしろ素晴らしい武器に変えていただき光栄です」
マシュロが愛おしいそうに黄金のナイフを眺める。今回の一件でアーケオは他の武器もしっかりと勇者の武器に変えられる技量があることが理解できた。
同時にアーケオの中にとある疑念が生まれた。
「ねえマシュロさん。三皇魔が動き出したのって僕のせいなのかも」
「えっ?」
「僕が勇者の力を持っているから、奴らはそれを消そうと動き出したのかも。なら何百年も深海にいたロギスタが出てきたことにも説明がつく」
「確かにその可能性はあります。ですがアーケオ様が気に病むことではありません。いずれどこかで人間は三皇魔と戦う日が来ていました」
マシュロがアーケオを宥めるように言葉を吐いていく。
「アーケオ様は犠牲を出さずにこの二体を討伐したのです。偉業以外の何ものでもありません」
マシュロが主人に励ましの言葉をかけた。アーケオは少し心が楽になった。
「さあ! せっかくのご馳走です! 堪能しましょう!」
「うん!」
アーケオは気分を切り替えて、テーブルに並べられた料理に目を向け始めた。船上でのパーティーは日を跨ぐまで続いた。
「アーケオ様。アーケオ様!」
聞き覚えのある声に呼ばれて、アーケオは目覚めた。側には忠実なる侍女、マシュロが微笑みを浮かべていた。
「おはようございます。朝ですよ」
「あれ? いつの間に」
アーケオは寝ぼけ眼をこすりながら、起き上がった。ロギスタとの戦闘の弊害のせいか、体が重い。
「デッキに出てください」
マシュロが手招きしたので、アーケオはゆっくりと起き上がった。境目がないほど青い海と空に疲れた心を洗われていると、遠くの方に島が見えた。
「あれがヤマト」
お目当ての極東の島が見えてきた。
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