夢見る人
KeI
マチアプ
こんな夢を見た。
マチアプで出会った女と食事をしている。
たしかにマチアプで出会った女である。
不思議なことに女の口には舌がなかった。
いつから無いのかと聞くと、昔からですよと答えた。
女の口の中に舌は無いが
言葉ははっきりと聞こえた。
「この味はロレンツォNo.1ですね」と言った。
「よくわかりますね」と聞いて顔を上げたら
「次に出てくるのはアオリイカですか」
と聞いてきた。
自分は少し顔をこわばらせてうなずいた。
DMでは来たことはないと答えていたし、
先ほど照れながらメニュー読めないですといった姿は可愛らしかった。
しばらくして給仕はアオリイカとホワイトアスパラがのった皿をテーブルに置いた。
「あなたもいじわるですね」
と目線を下げて言った。
「来たことがあるのに嘘をつきましたね」
非難めいた口調にならぬよう気を付けた。
女は、ふっとほほ笑んで
「甘みがあって美味しいですね」と答えた。
舌が無いのによくわかるなと再度思った。
しばらくたわいもない話をしながら
食事をつづけているとメインの肉が出てきた。
女はじっと赤身を見て
「ちょうどこんな色でしたね」と言った。
なんのことかさっぱりだったが、たしかに
こんな色だったなと思われた。
自分は黙って赤身を口の中に入れた。
「あなたが噛みちぎったわたしの舌の色は」
この言葉を聞くな否や、今から十年前のこんな夜に女との食事のあとでホテルに行き、行為中に興奮のままそいつの舌を嚙みちぎって殺したという自覚が蘇ってきた。
そうか俺は女を殺して逃げたんだなと気が付いた途端、口の中にある赤身がぬるぬると生々しい触感に変わると同時に、目の前にいる女の口から血があふれ出した。
夢見る人 KeI @KeI1537
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます