第六話 死が見える僕

誰か、いや、父さんが言ってた


『死を恐れるな』


って、で、俺もさ、結構慣れてきたと思ってた


けど、やっぱり自分の死となると


恐いなぁって思う


あれ、なんでこんなこと、急に考え始めたんだろう


ああ、こういうのって、確か


『走馬灯』って言うんだっけ


「やばい、やばい、やばい」


そう言いながら、俺はキングゴブリンから逃げる


無我夢中とにかく、攻撃を避ける事だけを意識して


「だけどッ」


俺はキングゴブリンが振り下ろす斧を間一髪避ける


「これは死亡フラグが見える能力が無かったら死んでるな」


とにかく、死亡フラグ、黒い煙が薄い方に逃げる


「次は……」


自分の周りの黒煙が深まり、攻撃が来るという事を理解する


そして、自分の体の中で一番濃い所を探す


「腹、か」


このように、濃くなったら、避けるという事を意識する


黒い煙の流れと場所を見て、攻撃を予測する


「だが、キリが無いな」


死亡フラグが薄い方に向かっているのだから


恐らく、いつかは助かる、いつかは助かるんだけど


いつ助かるのかは分からない


「仕方ない、もうやるしかないな」


俺は人だ、体力なんていつかは尽きる


持久戦になれば、勝ち目はない


そう思い、俺は止まり、キングゴブリンの方を向く


そして、俺は刀に手をかける


「死を恐れるな、だ」


幸い、キングゴブリン三体は協調性がとれていない


だから、一匹ずつ倒す


俺は、刀を抜き、鞘を適当な場所に投げる


そして、キングゴブリンの足元に潜りこむ


(何もない所で戦っていれば、三体に囲まれ終わりだ)


(だが、足元なら、人一人分のスペースはあるし、他のキングゴブリンはうかつに攻撃で、さらに死亡フラグも薄い!!)


(それに、足元にはキングゴブリンの弱点、それがある!!)


俺は足元に潜りこんだ後、キングゴブリンの弱点、そう


金的を刺す


「グギャアアアア」


(よし、後は、他のキングゴブリンにも―――)


そう思いながら、俺は他のキングゴブリンの方に目を向ける


だが―――


「グガァ?」


キングゴブリンがそう言った、その瞬間、俺は壁にぶち当たる


当たるというより、吹き飛ばされる、キングゴブリンの拳によって


(は?どうした、何があった、二匹目も三匹目も見てた、この攻撃は―――)


俺はすぐに立ち上がり、キングゴブリンの方を見る


すると、重く深い足音を立てながら、キングゴブリンが近づいてくるのが見える


「ああ、なるほど、そういう事か」


クソ、しっかり死亡フラグを見ていれば、見ずに即座に行動したのが駄目だった


このキングゴブリンに「金的」は、無い


いや、まぁ痛いのは痛いのだろうが、男の金的よりはダメージが少ない


(金的作戦が効かないなら、どうすれば……)


俺はキングゴブリンの死亡フラグを見る、だが、どこも濃い所は無い


薄っすらと黒い煙が見えるだけだ


(ここで耐えて、誰か助けが来るのを待つか?)


(いや、いつ来るのか分からないし、不確定要素が多い)


(だが、それしか……)


『死を恐れるな』


頭の中に映る、過去の記憶


「やるしか、無いのか」


刀を強く握り、覚悟を決める


そして、俺は斬りかか―――


「いや、違うな」


俺の動きが止まる、何故か、自分の不透明に映し出された記憶


それと付随して起こる、矛盾


「死を恐れるな?違うだろ」


「なら俺は何故、生きようとしているんだ?」


「死を恐れているから、俺は生きている」


生きたいから、死にたくないんだ


死にたくないから、生きたいんだ


「『死から目を背けるな』」


俺は生きる


眼を凝らす、死亡フラグを嗅ぎ分ける


まず、俺の体、全体的に黒い、特に頭


そして、キングゴブリンの体を見る、全体的に薄いもやがかかっているようだ


「俺の能力は攻撃するものじゃない」


「この能力を使った最適解、それは」


 (避ける、事ッ)


俺はそう考えながら、しゃがみ、キングゴブリンの攻撃を避ける


次に腹、頭、腕


俺は死にたくないから、避け続ける―――


(ああ、約何年経ったろう)


そう感じるほど、濃縮された時、避ける、避け続ける


体のことなど、忘れて、体が壊れる事よりも、死ぬ事の方が怖くて


(火事場の馬鹿力って本当にあったんだなぁ)


避ける、避け続ける


体が悲鳴を叫んでも、視界が赤で染まっても


何度も、何度も、巡る、廻る、踊る


そして、その輪廻にも終わりが来る


「あ、見えた」


それは、希望の証、絶望という名の暗闇に


『光が刺した』


一筋の灯、だが、それは光り輝く太陽とは対照に


深く深く、暗い、黒色の


闇、だった


「あと、二匹」


血で濡れた体、取り囲む黒煙、佇む骸、二つの影


俺は一人、そう呟いた―――

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死亡フラグが見える僕、異世界に転生して世界最強へ 孤宵 @musubime_koyoi

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