第二話 死亡フラグが見えた君

「早く、逃げて、できるだけ遠くに」


僕を守るように、前に出た彼女がそう告げる


「守れないから、早く」


急かされるように、そう言われ、走る


(大丈夫だ、僕が逃げても、いやいる方が邪魔になる)


(それに、死亡フラグが立っているのは僕、彼女が死ぬ事は無い)


そんな事を考えながら逃げ出す、黒い煙から


背中の痛みなんて、忘れて、とにかく逃げる


(そうだ、僕は死にたくない、この謎の空間から脱出する事、それが目的だ)


血がぽたぽたと垂れているのが、なんとなく分かる


しかし、そんな事を気にする余裕はない、必死で逃げていた、何もかも忘れて


だが、途中で足が止まる


「あれ?」


その理由は痛みでも、疲労でも無い


黒い煙が、眼の前から姿を消したからだ


当たり前、と思う人もいるかもしれない


だって、死ぬ可能性が無くなったから


そう、当たり前だ


だが、違った、あれは、黒い煙が消える感覚ではなく


『黒い煙から逃げ出す』感覚だった


「さっき、俺が見てた黒い煙は、俺のじゃなくて―――」


白髪の彼女を中心に渦巻いていた事に気づいた


そして、さっき俺がゴブリンに襲われた時


見た彼女には死亡フラグは憑いていなかった


つまり、彼女に死亡フラグがついたのは、僕を助けた後


つまり、つまり―――


「僕のせいで」


胸が締め付けられる、罪悪感で体が重くなる


どうにかして取り除きたいが、無理だ


「僕が行っても、何もできない」


ここから逃げる事も、戻ることもできずに、僕は一人立ち止まった―――


「紫電一閃」


刀に手をかけ、構え、踏み込む、そして瞬歩、飛ぶ


全ての動作が完了した時、雷は奔る


だが、この技の真髄はここではない、これだけで終わらない


「七連」


空間にある、壁、床、天井、全てを利用し


七つの雷を落とす


範囲内にいた物は全て塵と化す


「危なかった」


ゴブリンが死んだこと、それを確認して、刀を鞘に納める


「さっきの子、大丈夫かな」


振り返り、さっき彼が逃げて行った方を見る、だが人影はない


恐らくかなり遠くまで逃げている、それを確信し、安心する


「とりあえず、あの子を探して、手当を―――」


そう言って、歩き出そうとした、その瞬間


背中に激痛が走る


それを感じて、振り返ると、そこには―――


「ゴブリンキング……」


ゴブリンキング、変異種、ゴブリンの群れを束ねる王


通常のゴブリンより大きく、自慢の斧を携え、暴虐の限りを尽くす


(足、動く、かな)


(動いても、正直厳しい、逃げる?いやあの子に被害が―――)


「まぁいっか」


「紫電一閃」


(私の命なんて、どうでもいいし)


構え、足を踏み込む、全身全霊、飛ぶ、雷が奔る


数秒も考える時間を与えない、不可避の速攻、そう不可避


確かに、斬った、斬ったのだが―――


(あ、終わった)


響く、何かが壊れる音、砕ける、刀


覚悟する、死


瞳に映る、幻、覚―――?


「君、なんで?」


何故?その答えは一つしかないじゃないか


「君を助けに」


震える足の事なんて、忘れて僕は、精一杯格好つけてそう言った―――

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