CORE

気体仮面

プロローグ

0-1「寝相が悪いと悪夢を見やすい」

 これは…よく見る夢だ。

 小さい男の子と十代半ばの少女が手を繋いだまま血を流し、倒れている。

 男の子は背中を大きく抉られ、うつ伏せに。少女は胸部から腹部にかけて切り裂かれ、仰向けに。二人とも、内臓や骨があらわになる程の重傷だ。

 少女の方はかろうじて息があるようで、すでに事切れている男の子の手を握りながら、必死に名前を呼んでいる。

「澄人…!澄人っ…!」

 何度名前を呼んでも、どれだけ強く手を握っても男の子は反応しない。少女はようやく彼の死を理解したのか、呼びかけることをやめた。

 ゆっくりと目を閉じ、瞳に溜まった涙を全て出し切る。

「…死なせない」

 そう言ったのと同時に、少女は目を見開いた。男の子と繋いでいた右手を放し、切り裂かれた自身の胸元へと持っていく。

「お姉ちゃんが…助けるから…!」

 少女は、胸部の傷口にその右手を───


───ピーン…ポーン…パーン…ポーン…


「…!」

 これは…チャイムの音だ。

「ああ…終わっちゃったか、今週中に第五段落まで行きたかったんだけどなぁ〜!」

 よく聞いた国語教師の声から、俺は今が六限目の現代文の授業中だった事を思い出す。どうやら居眠りしてしまったらしい、白昼夢というやつだろう。

「んじゃ、起立!礼!」

 俯いていた頭を咄嗟に振り上げ、慌てて席を立つ。ゆっくりと礼をした後、あくびをしながら再び席に着いた。

 引き出しの中に入れて置いたスマホを取り出し、半開きの目で画面を確認する。

「何だ…?」

 紫雲からのメッセージが何件か来ている。どれどれ…


『怪人が出たって!』『授業が終わり次第来て!』『超強いらしい!』『場所は───』etc…


 …まあ、案の定って感じの内容だな。

 俺は一度深呼吸をした後、小さく呟いた。

「…今日も頑張りますか、バイト」

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