【SS】距離に見合わぬすれ違い
ずんだらもち子
【SS】距離に見合わぬすれ違い
この日、俺たちの学校は、海辺の田舎の中学校らしく、体験学習と称して全学年で海水浴場を清掃する日だった。一日かけて行われていた昭和や平成の時代と違い、今は午前中の涼しい時間――そんなのほんのわずかだが……――だけ実施される。
授業はないし、給食の時間に牛乳だけでなくスポーツドリンクも配布されるし、午後は帰れるので俺は嬉しかった。日焼け止めを忘れたやつは午後は地獄になるけど。
その日も梅雨空が空気を読んで、明けてもいないのにカンカン照りとなった。
友達とふざけながら海岸のごみを拾っていく。
缶やペットボトル、プラスチックの欠片など枚挙に暇がない。世間ではSDGs、一昔前はエコだか、やたらそれっぽく名前を付けてはやった気になってるみたいだが、俺たちからすれば小学校の頃からやっていることだ。
小中学生に地元の漁協の人や役場の人など、参加者は200人を優に超える大所帯となる。ごみは着実に集められていった。
余裕が出てきた俺たちは、仲間内で次第に拾うごみにレア度を設けだす。缶や釣り糸やごみ袋はN、ルアーはRとか。貝や魚はSR……まぁゴミではないけど。
遊び半分でやっている後ろめたさが無意識にそうさせたのか、あれだけいる集団から自然と離れて、今やってきた磯場には俺たちのグループ4人しかいない。
そんな中、友人の八木が騒ぎ出す。
「これSSRじゃね?」
火バサミで丁寧に拾い上げられたのは綺麗なステンレスのタンブラーのように見えた、銀色の筒状のもので、片手で掴むには太い直径をしていたが、長さは片手で十分支えられる程度だった。
「八木ズリぃぞ。お前のだろそれ」
「違うよ。そこの磯に挟まってたんだ」
と差し出してきた濡れたタンブラーもどきはよく冷えてるように見えた。
一応手で触れてみる。が、手にした感触は波に冷やされてるでもなく、日光に熱されてもいない。独特のさらさらとした感じもなく、混凝土の様にも思えたが重みはない。
蓋もなく、鉄の棒を切りとったようだった。
「あ」
横を覗き込んだ八木が何かを見つけた。「底に黄色いボタンが」
迷いなくボタンを押す。
「ぬわああああ!」
白い煙が噴き出し、一瞬にして俺たちを包む。あれだけ太陽が眩しいのに、視界を失った。
衣擦れのような音が煙幕の中から聞こえてきた。みんな口々に「何今の音!?」とか「みんないる?」などと不安を矢継ぎ早に口にする。
やがて煙が海風に浚われる。
その場には潮の香りと、俺を含めた4人全員が無事に立っていた。
煙が晴れる前と後で違ったのは、たった一枚の紙が磯の岩に挟まっていたことくらいだ。
「何だ!?」
と八木が拾うと皆で覗き込む。
「…………読めねぇ。英語? 記号?」
日本語さえ覚束ない俺たち。
「いや、もしかしてこれ、呪文じゃね?」
誰かが言った。
俺たちは怖くなって紙を捨てると一斉に逃げだした。
「――何やってんだ」
「知らない? メッセージカプセルを射出して他銀河の人と出会うの。流行ってんだよ」
「ばか。こんな辺境の銀河から南東に向けて撃っても外宇宙に向かうだけだ」
宇宙船の主モニタに映る宇宙は中央ほど星屑を失っていく。「惑星間交友なんて望むべくもないさ」
【SS】距離に見合わぬすれ違い ずんだらもち子 @zundaramochi777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます