現実世界で恵まれなかったオレ、憐れまれて異世界に飛ばされる

梅竹松

第1話 オレ、人生に少し疲れる

 オレは笹峰歩琉ささみねあゆる。十六歳。ごく普通の高校に通う一年生だ。

 外見について一言で言うなら“フツメン”ということになるだろう。

 平均的な身長に短めの髪に平凡な顔立ち。

 体格はお世辞にも恵まれているとは言えず、多少筋肉はついているものの、服の上からでは分かりづらく手足も細いため、傍からは痩せ型の頼りない体にしか見えないに違いない。

 とにかく顔は普通で、体格は普通未満。それがオレの外見だった。


 そんなオレは放課後や休日に自宅近くのコンビニでアルバイトをしている。

 だが、別に小遣い稼ぎでやっているわけではない。

 生活費を稼ぐためだ。


 というのもオレの家庭は少々訳アリで、幼い頃に両親が離婚して以来、貧乏アパートで母親と二人暮らしなのだ。


 母子家庭だからか、世間の目は冷たく、いろいろと苦労することも多かった。

 

 離婚した父親が養育費を払わなかったせいで、特に経済面での苦労が絶えず、生活費の工面に常に頭を悩ませる日々。


 だというのに、母は定職につかずにホストに入れ込むばかりだったので貯金は減る一方で生活はどんどん苦しくなっていった。

 もちろん離婚してからは家事もしようとはせず、ろくに食事を与えられた記憶もない。

 完全に養育の義務を放棄していたと言えるだろう。


 そんな母親だから、オレは高校生になったタイミングでアルバイトを始め、生活費を稼ぐしかなかったのだ。


 しかし、アルバイト先のコンビニは絵に描いたようなブラック職場だった。


 当たり前のように飛び交う上司や先輩のパワハラ。

 ほとんど毎日のようにやって来るモンスタークレーマー。

 その理不尽なクレーマーに毅然とした態度をとることもなく、媚びへつらい、従業員をまったく大切にしない経営者。

 サービス残業や休日出勤の強要。

 そして低すぎる賃金。


 まさに最悪の職場と言えるだろう。

 

 本音を言えば一日でも早く辞めたいのだが、生活がかかっているし、辞めたところですぐに次のバイト先が見つかるとは限らない。

 だからオレは退職願望を持ちつつも、結局退職を申し出ることができず、歯を食いしばりながら今のブラックな職場環境で働き続けるしかなかった。


 そして、オレの通う高校だが、ここも決して居心地の良い場所とは言えない。


 劣悪な家庭環境で育ったオレの成績は低く、近所の荒れていることで有名な高校に入学するのがやっとだった。


 スプレーで落書きされた校舎。

 割れたまま放置されている窓ガラス。

 補充するたびに破壊される備品。


 当然ほとんどの生徒が不真面目で授業などまともに聞いておらず、教師たちもそんな生徒たちを恐れているのか注意すらしない。

 おそらく教師も生徒の指導は諦めているのだろう。


 そんな荒れている高校でオレみたいな普通の男子が目をつけられないわけがなく、案の定、入学してすぐに不良たちからイジメやカツアゲのターゲットにされてしまった。


 ……いや、はっきり言うとイジメは別に高校生になってから始まったことではない。


 母親から愛情を注がれずに育ったオレは、小学生の頃から自己肯定感が低くどちらかというと暗い性格だったし、勉強も運動もできなかったからイジメのターゲットにされることが多かった。 


 無視されたり仲間はずれにされるだけで終わればまだよかったのだが、イジメはすぐにエスカレートしてゆくことになる。


 それでも耐え続けていればいつかは終わると思っていたのだが、当然そんなこともなくイジメは中学に進学して以降も続いた。


 中学になればみんな知恵も体力もついてイジメもより過激になる。

 だがそれにも耐えて、地元民も避けるような底辺の高校に入学し、ようやく解放されたかと思えば、今度はその高校やアルバイト先のコンビニで新たなイジメやパワハラが始まった。


 家にも学校にもアルバイト先の職場にも居場所がないという最悪の生活がスタートしてしまったのだ。


 我慢強さには自信のあったオレも、さすがにそろそろ限界だった。

 ここまで不幸続きだと毎日の生活に嫌気が差してしまう。


「……さすがに疲れたな。もう引退したいよ……」


 この世に生を受けて約十六年。

 辛酸を嘗めすぎたオレは、いつしか『引退したい』が口癖になってしまっていたのだった。

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