お墓参り

天川裕司

お墓参り

タイトル:お墓参り


私は初めて、或る人のお墓参りに来た。

本当は来たくなかった。

まだ心の整理がついてないから。

このお墓に眠っているのは私の彼氏。

心の底から愛していたあの人。


「隆史。やっと来れるようになったわ、私」

来たらまた彼の顔や昔のぬくもりが蘇ってきて、

ダメになっちゃうかも知れない…

そう思ったからこれまで来る事ができなかった。


でもやっぱり会いたくて、彼が今眠る場所に

どうしても足が向いてしまった。


そんな時、不思議なことが起きたのだ。


びゅうっと風が吹き、曇り空が一層暗くなった時の事。

「…え?」

どこからか、私の名前を呼ぶ声がした。

謎の声「……」

なんて言ったのかはっきりわからなかったけど

なんとなく誰かの名前を呼んでる感じ。

それが自分の名前と思い込んでしまった私は、

つい後ろを振り向いた。


「きゃっ…!」

そこに立っていたのは黒い影。

いやよく見ると、なんとなく人の形をしており、

その目鼻立ちや立ち姿がうっすら見える感じ。


「…あ、あなた…もしかして、隆史?」

隆史に間違いない!

ずいぶんな決心をしてここへ来た私だ。

きっと彼がその心に応えてくれた。


そう思った私に彼は近づいてきた。

「…久しぶりだね。元気にしてるみたいだ。嬉しいよ」

彼はなんとなく痩せた感じで、顔も初めて会った時、

そう、昔の風貌をしていたようだ。

でも暗がりだったからよくわからない。

霊になると、多少顔も違って見えるんだろうか。


「た…隆史ぃ!」

「ダメだ!それ以上近づいちゃいけない。君は現世の人で、俺はその現世を離れた人間。そんな2人が触れ合うのはよくない事なんだ」

「はっ…」


「死者と必要以上に交流するのはよくない事」

昔お婆ちゃんから聞かされたのを思い出した。


「やっ、今日はおいしそうなものを持ってきてくれたんだね。うれしいよ」


「え?あ、これ…。ウフ、あなたが少しでも喜ぶかと思って♪」


私はその日、ちょっと奮発して、

かなり高級なお饅頭を持ってきていた。

彼も生前、若いながらお饅頭が大好きだったから。


「うほっ♪これおいしいよ!ありがとう」

「え?食べられるんだ…。ほんとに食べてくれた」

私は少しでも隆史とこうして交われる事が嬉しくなって

「もっと食べて」と何度も言った。

「うん!おいしい!」

隆史は本当に嬉しそうに食べてくれた。


でも最後に、気になることを言って消えたんだ。

「…ん、あれ?ここ俺の墓じゃなかったのかなぁ…」

「え?」

「いや俺、確かに隆史なんだけど、ここ俺んチじゃないわ。…あ、ご馳走さん、ありがとう♪」

最後は畳み掛けるようにそう言って消えてしまった。


「……自分の家じゃない?…隆史は隆史だけど…?」

少しして、私はやっぱり自分の直感を信じた。

彼は多分、私の彼に似た人。


もしかして高級なお饅頭を食べるためだけに…?

びゅう〜とまた風が吹いた。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=f29GqROTLRI

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お墓参り 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ