第5話
僕が中学に進学するにあたり、祖父は公立には偏向的な意見を持った教師が多いから神道系の私立に僕を進学させると言ってきた。もちろん僕は塾にも通っていないからそんな学力はないし、何よりも父と母が乗り気ではなかった。というよりも関心がなかったので、結局僕は地元の公立中学校に通うことになった。その代わり高校は神道系の私立高校に通わすと初めて祖父が折れた件だった。それから祖父は中学生になった僕を塾に通わすことにした。小さな神社の宮司と高校の教師が何故僕を塾に通わすことができたのかと言えば、それは簡単だ。うちが貧しくないからだ。祖父には家賃収入があった。祖父は大きな会社のかなり地位の高い立場にいたが、役員に入ってくれと言われながらも断り続けて定年退職した。理由は家業である神社の宮司を継ぐためだ。祖父が宮司になったころ社務所の裏庭の広い竹林を壊して、祖父はアパート経営に乗り出した。それがうまくいって不労収益が手に入るようになった。だから祖母も母も専業主婦をやっていられる。そして自分はこの家の主だと経済的にも言える。それは祖父の考え方である「男が女を養ってやる」に一致する。自分の考え方も今までやってきたこともすべて正しい。そのせいか、祖父のプライドは異常に高い。そんな祖父に「人の上に立つ人間になれ」と子供の頃から言われて僕は育った。自我のない僕に人の上に立つことは不可能だと思っていたが、祖父は絶対なのでいつもの暴力を受けないために僕はただその言葉に頷いていた。中学生になった僕は祖父に言われた通りに部活には入らなかった。祖父が部活なんてやれば、顧問の先生の偏向的な考えに洗脳教育される可能性があるうえ、世俗的な同級生に誑かされることもあると言う。だから僕は学校ではなるべく目立たないように生きてきた。幸いいじめの対象にはならなかったのは祖父の地元の神社の宮司としての権力のせいかもしれない。そして塾は勉強するところで遊ぶところではないとずっと祖父に言い聞かされて、僕は無条件にその言葉に従っていた。中学生になると僕も祖父の暴力から逃げる術をある程度身につけていた。だけどいくら頑張っても成績は上がらない。祖父の言う神道系の私立高校は進学校で毎年百人くらいの国立大学進学者を出している。僕の成績ではとても入学できる高校ではなかった。中三になり僕は担任に頼み込み併願ということで祖父の言う、受かるはずのない私立高校と地元公立の自称進学校レベルの入試を受けた。もちろん私立は落ちたが、地元の公立には受かった。祖父に私立に落ちたことを報告すると当たり前のように暴力を受けた。「お前が甘えているからだ。併願にして気を抜いたのだろう」と言いながら僕は祖父に殴られ続けた。それを見ていた父も母も何もしなかった。そして思った。この家で男として生まれてきたら少なくても一流大学には行かないといけない。それが祖父の言う「人の上に立つ人間になれ」の近道なのだ。つまりそれが男なら権力を持てという意味なのだと。
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