20

 「分かってる。」

 ルルちゃんの声は、ぎすぎすに掠れていて、それでもかわいかった。掠れているからなお、かわいいのかもしれなかった。

 「わざとなんかじゃないの、分かってる。」

 私は内心で、そうかな? と思った。ミシマは本当に、全く完全にわざとじゃないのかな? と。だって、ミシマはずっとずっとルルちゃんが好きで、ルルちゃんの側にいた。そんな中でルルちゃんが誰か、ストレートの女の子を好きになる。ミシマは、その女の子に近づかなければいいだけなのに、近づいてしまう。三人で時間を過ごしてしまう。そこに、故意はないだろうか。完全に、全くないだろうか。ミシマが私に自分を好きにさせるように、なんらかの手練手管を使ったとは思わない。ミシマからはそんな意志を感じはしなかった。ただ、私が勝手にミシマを好きになっただけだ。でも、そもそもミシマが私に近づかなければ? ルルちゃんの部屋ではじめて顔を合わせたとき、ミシマは自分が帰るでもなく、私を帰らせるでもなく、一緒にルルちゃんを待つことを選んだ。そこに、全く故意がなかったと言えるだろうか。

 私の考えを読んだみたいに、ミシマがこちらを見た。私を恐れるみたいな目をしていた。私は、首を横に振った。ここで口を開く気はない、という意思表示だ。だって私は、ミシマとルルちゃんの仲を壊したいわけじゃない。

 「つきこさんも、ミシマが好きなんですよね? 分かってる。分かってるけど……。」

 辛い、と、ルルちゃんが呟いた。ごく心細そうな、細い細い声で。

 「私が先につきこさんと知り合って、好きだって伝えて、でも、それでもやっぱりつきこさんはミシマが好きで……なんでだろう。私が男だったら、違ったのかな。」

 「ルル。」

 やめろ、と、ミシマが低く囁く。

 「男とか女とか、そんなこと言い出したらきりないって、お前が一番分かってるだろ。」

 「分かってるよ。分かってる。でも、」

 「でも、とか、言うな。」

 ミシマの声は、あくまでも低くて淡々としていた。ミシマだって、今この瞬間にも傷を負っているだろうに、それをちっとも感じさせないくらい。

 私は、なんだかとても、悲しくなった。なにもかもがままならない。誰も、誰のことも、傷つけたくなんかないのに、お互いにお互いのことを傷つけて、傷つけられて、傷だらけになってもがいている。

 「……帰ろう。」

 私は、右手をルルちゃんに、左手をミシマに差し出した。

 「もう、帰ろうよ。」

 まだ、三人で並んで、ルルちゃんの部屋に帰れると思いたかった。まだ、三人でいられると。まだ、一緒にいるくらいのことは、できると思いたかった。

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