ルルちゃん

美里

 ルルちゃんにはじめて会ったとき、のことを思い出そうとすると、それがイコールで、ルルちゃんとセックスしたとき、とつながってしまう。それに私は、自分でもびっくりする。特別派手な性生活を送っていたわけでもないし、初対面の人と行きずりのセックスをしたことなんてなかったから。それでも、ルルちゃんとはじめて会ったとき、は、イコールで、ルルちゃんとセックスしたとき、なのだ。

 はじめて会ったとき、ルルちゃんはバーカウンターの中でお酒を作っていた。私が注文したモスコミュール。

 ルルちゃんの名前は、カウンターの隣に座っていた人が、彼女のことを親しげに、ルルちゃん、と呼んでいたので、それで分かった。ルルちゃんの方は、翌朝目覚めて会話を交わすまで、私の名前を知らなかったはずだ。ルルちゃんが、派手な性生活を送っているのか、行きずりのセックスをしたことがあるのか、私は知らない。ただ、その日、カウンターの中のルルちゃんは、物馴れた大人、という感じがした。大学に入って、ようやくお酒の味を覚え始めたばかりの私とは、住む世界が違う人みたいに。

 「お待たせしました。」

 ルルちゃんは、にっこり笑って私の前に長細いグラスのきれいなお酒を置いた。

 ありがとうございます、と、小さく頭を下げて私は、お月さまみたいなライムが浮いたモスコミュールを口に運んだ。ひとりでお酒を飲みに来るのははじめてだったので、手持無沙汰で、カウンターの中で忙しそうに動き回るルルちゃんをぼんやり眺めた。ルルちゃんは、色が白くて、背が高くて、オレンジ色の長い髪をきれいにカールしていた。きれいなひとだな、と思った。でも、それだけ。別に、ルルちゃんとセックスしたいとか、そんなとこを考えてはいなかった。そもそも私は、おんなのひととそういうことをしたことはなかった。

 それから、甘いお酒を三杯飲んだ。どれも、ルルちゃんが手際よく作って、紙製の白いコースターの上に置いてくれた。お店は狭くて、カウンター席が五個くらいと、テーブル席が二つあるきりだった。私がお店に入った時には、カウンターに常連さんみたいなひとがひとりと、テーブル席にカップルらしき二人連れがいたのだけれど、三杯目お酒を飲み終わる頃に、私はひとりきりになっていた。ルルちゃんは、カウンターの中でグラスを洗っていた。私はその姿を、やっぱりぼんやり見ていた。

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