降る雨、晴れた青空 ~愛と自由を求めて~
岡本蒼
序章
一九九八年。まだ携帯電話やインターネットが普及せず、人々にとって通信手段と言えば至る所に設置された公衆電話だった。日本では阪神淡路大震災が発生し、六千四百人余りの人々の尊い命が奪われた。沖縄では米兵少女暴行事件が勃発すると県民の怒りが爆発して日米協定の見直しや、米軍基地の撤廃要求運動にまで発展して大きな話題を呼んだ。そんな時代の中で。
この物語はある男が歩んだ波乱万丈のドラマである。
その病院は沖縄県のある緑豊かな高台に建っていた。学風館病院・精神科。T型で二階建をしたそのビルは四十年という歳月を経て風化し、多くの歴史を灰色の壁に今も刻み続けている。
そこには、統合失調症と呼ばれる幻聴・妄想障害を持つ者、アルコール依存症で禁断症状(身体を震わせる症状)を持つ者、躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害者、更に重度の障害状態である意味不明の言動、発狂、酒乱等の悪性状態に陥る者など、精神的な病を持つ患者が県内各地から集っていた。
患者の中には見た目から≪恐ろしい形相≫をしている者も多く、初めてここを訪れる人々は彼らを見て恐怖感を覚えてしまう者もいる。
ここ学風館病院には独特の規則・制約が設けられており、それらには≪外出・外泊の制約・恋愛の禁止・金銭管理を病院側が行う制約≫等がある。特に≪異性との接触≫はほとんどが強い制約で義務付けられており、入院患者はそれを嫌がおうにも了承し、厳守しなければならない。病棟によって受ける規則・制約の重さは少し異なり、開放病棟は≪病院敷地内のみの自由外出≫が認められ、閉鎖病棟は≪完全な隔離≫という強制的制約で成り立っている。
学風館病院の開放病棟は≪風鈴病棟≫と≪そよ風病棟≫から構成され比較的病状の安定したものが入院生活を送っていた。しかしここには、暴れる者や状態が特に悪いと医師が判断した患者は三畳一間にベッドとトイレがセットの≪保護室≫、もしくは閉鎖病棟≪若葉病棟≫で隔離されるという仕組みが確立されていた。
ある男は自殺を図った。
そして突然、その日はやって来た。
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